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【追跡、こだま317号】  作者: 石田善二郎
第四章 名古屋へ

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13/53

13 インフラというのは、水道、電気、道路……、もっと言えばデータセンターなどのITインフラを含めて、すべて、ね? 『自然界に対する負債』





 すると、その時、


「――?」


 と、パク・ソユンは、ナニカの視線に気がついた。

 その、視線をたどった先――

 そこには、かっちりとポマードで七三に髪型を決めた、カジノのスタッフの男が、

「……」

 と、まるで人形のような目で、ジッ……とこちらを見ていた。

 また、パク・ソユンは、男の姿に気がつくと同時、

 ――シュ、ワァァッ……

 と、チェーン・ソーを召還しっぱなしではさすがにマズいので、それを泡のように消失させた。

「もし、もし?」

 カジノの黒服の七三男が、ゆるりと話しかけてきた。

「ん? 何でしょうか?」

 パク・ソユンが、何事もなかったかのようにシレッと振り向くと、

「失礼ですが、お客様? いま、チェーンらしきものを使っていませんでしたか?」

 と、男が、まるで体温を感じさせないような、冷たい機械のような目で、確認を取るように聞いてくる。

「ん? チェーン・ソー? 何のことでしょうか? 私は、チェーン・ソー・〇ンではありません」



※※『トランス島奇譚』より








 また、さらに続けて、

「ある文明評論家だったか、学者によるとね? インフラとは一般的に、人類、社会にとっては資産のように思えるが、“そう”ではない――」

「――と、言いますと?」

 と、言葉をためる西京に、瑠璃光寺が続きを促すと、

「エントロピーの法則って、あるよね?」

 と、西京が、“とある言葉”をあげて聞いてきた。  

「エントロピーの法則……? ああ、永久機関だったり、熱力学のアレですよね」

「うん」

 と、西京は相づちして、

「まあ、細かいことはおいてね……、例えば、ちょうど、この新幹線の鉄路が、ね? 何のメンテナンスもしないとすると、そのうち、重大なインシデントにつながりかねい状態になったり……、あるいは、まったく使い物にならなくなってしまうように、ね? インフラというのは、絶えず、資源・エネルギー、人の手を投入し続ける必要がある――。つまり、ね? “負のエントロピー”を、加え続ける必要がある」

「負の、エントロピーを、加える?」

 と、キョトンとする瑠璃光寺に、

「まあ、エントロピー経済学って、少々、胡散くさい分野が、あるらしいんだけどね……? 熱力学のエントロピーの視点を、経済に取り入れると、インフラというのは、水道、電気、道路……、もっと言えばデータセンターなどのITインフラを含めて、すべて、ね? 『自然界に対する負債』と、言えるらしくてね」

「自然界に対する、負債……、ですか?」

「うん」

 何が、「うん」なのか、西京は頷きつつも、

「社会が、ね? 安価で、良質な資源・エネルギーを充分な量で、なおかつ、充分な労働人口を以って、投入し続けることが出来るかぎりはね……、インフラの新築や更新というのは可能である。それによって、古代より、文明社会は、経済成長だったり、発展を続けることが出来てきた――」

「……」

 

 いったん、一呼吸ほど間をおいて、

「しかし、ある社会が、ね? 労働力が不足し、資源・エネルギーの高騰、さらには、いっきに広げ過ぎたインフラが寿命を迎え、やがて朽ちてくるとね……、その、インフラを更新、維持するコストは膨れ上がる。つまり、自然界からの“取り立て”が、複利のように、容赦ないものとなってくる」

「……」

 と、沈黙して聞く瑠璃光寺の表情が、やや険しくなりながら、

「SNSでもね、人口減少に対する対策、インフラの更新など、今後の経済や社会の在り方に関する議論っていうのは、様々あるけどね? どの議論も、以前の、昭和や平成のころの世界のように、“充分な資源・エネルギー”、リソースを用いることが出来る――、っていうのを前提としている」

「まあ、そう、ですよね……」

「そもそも、ね? たぶん、昭和の、東海道新幹線を建設していたころの日本っていうのはね、人口が多すぎたんじゃないか、と――」

「何だかんだ、億、行きましたもんね」

「うん。それで、運よく、国内の炭鉱、海外からの安価な石油を利用できたこと……、億の人口に基づく労働力を、国内市場だけでなく、アメリカとお友達だったことからね、海外にも広く市場を展開できたこと……、それらの要因が重なって、高度経済成長という、富が好循環する社会を実現できた。それによって、ね? 津々浦々まで、当たり前のように、上下水道、電気、アスファルト舗装といった、高級なインフラを整備することができたんだ」

「はい」

 と、何が「はい」なのか、瑠璃光寺が頷きながらも、


「ただ、今後の世界だと、その前提っていうのが、若干怪しくなってくる――」

「……」

 と、西京の言葉に、沈黙して間を置きながら、

「そう、すると……? 人口減少をストップさせて、人口を増やすっていうのは、無理――か、諦めたほうが、いいってことですかね?」

「ま、あ……? そう、かもね……。あるいは、もっと……、人口を、半分ぐらいに減ら――、減ったほうが、いいのかもしれないね」

「人口を削減って……、よく、陰謀論であるような……」

 訂正して言う西京に、瑠璃光寺が、すこし戦慄した表情をする。

「まあ、もしかすると……、今後の世界というのは、諸インフラの更新のために、ね? 人口を減らしたほうがいい――、減る前提で、社会を設計したほうがいい――、という流れが、来るのかもしれないけどね……」

「ま、あ……、そう、かもしれないですね……」

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