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お〓〓さま

まえがき


 本作は筆者、あるいは知人の体験談を元にしたものであり、以降に出てくる地名、人名については全て仮名であることを最初に明記しておく。

 また、私自身は何の障りもないのだが、本作を読んでいる最中に自分を呼ぶ子供の声、または好奇に満ちた視線を感じた場合、まあ気にせずにそのまま読み進めて頂いて構わない。恐らく気のせいであろうから。筆者も怖がりな性分が祟って、よく言いようのない恐怖を覚えるものだ。

 ただし、貴方が本作を周囲に誰もいないような場所(特に山中であれば)で、かつ一人きりで読んでいる場合に上記の現象、特に複数人の声が聞こえた場合は直ちに読書を中止し、他の趣味に移られたほうがよろしいかと思う。その場合、自分は元気だぞ!というアピールを心中にて行っておけば、まず問題はない。

 それでも何らかの障りが続き、危険を感じた場合は筆者まで連絡をして欲しい。貴方が墓石や、お地蔵様を蹴飛ばすような人物でなければ、対処は可能であるから。




1. 友人


 「というわけなんだよ」

 「何がだよ、それじゃ全然説明になってないじゃないか」


 友人の田神尋鷹たがみひろたかが我が家を訪れたのは、5月だというのに酷暑忌々しいある日の昼下がり。俺が庭での作業を終え、汗をシャワーで流し終えてようやくひと心地ついた時だった。


 「いいじゃないか、別に減るわけでもなし」

 「俺の精神がすり減るんだよ。大体お前は、俺がそういう話が苦手だと知ってるだろ」


 この田神という男、10年以上の付き合いになるが、とあるきっかけから何かというと、いわゆる怪談話を聞かせようとしてくるのだ。俺が苦手だというのを知っていて、である。こいつめ。


 「上名かみなの場合何かあってもお祖父様がいるだろ?なら万が一があっても安心じゃないか」

 「万が一とか言うなよ、そういうことばっかり言ってるからお前は……」

 「秋利しゅうり~、麦茶だぞ~取りぃこ~い」


 奥の台所から祖母、高嶺たかねの声がする。はいはいと気だるげな返事をしつつ、麦茶をとりに台所へ向かう。

 途中、線香の匂いに暑さが和らぐ気持ちがした。我が家には仏壇があり、毎朝祖父が線香を供え、般若心経を唱えるのがお決まりだ。なので俺にとって線香(蚊取り線香もだが)の匂いは、祖父母の匂いと言ってもいいほどのものである。それを嗅いで安心するというのだから、俺も大概だ。

 にしてもこの時間にお線香とは、祖父母でお墓参りにでも行っていたのだろうか?そういえば今朝方祖父が「今日はじいちゃん朝から出かけてくるからよ、何か欲しいもんあるか?」と言っていた。あの言い方から察するに、祖母は一人で墓参り、祖父は別の用事で出かけたのだろう。それにしても、祖父は出かけるたびに何か買ってくるか?欲しいもんないか?とくる。孫バカもいい加減にしてほしい。


 テーブルに二つ置いた麦茶のコップに手を伸ばし、一気に呷る。今日は本当に暑い……俺は汗をかかないほうなのでまだいいが、田神は礼を言って麦茶に手を伸ばしつつ、玉のような汗をタオルで拭っている。学生の頃はお互いそうだという話をしたような気もするが、歳をとれば変わると言うことだろう。年月は残酷である。

 干したコップにおかわりを友人の分も一緒に注いでいると、向かいに座る友人の顔がいつになく険しい。(さてはこいつ、結構参ってるな?ここはいつもの意趣返しを……)とも考えたが、まずはこいつの話を聞いてやらねばなるまい。表に出す気はさらさらないが、なんだかんだ数少ない友人なのである。


 「それで、そのオシラ様ってのは、あのオシラ様じゃないって言うんだな?」

 「ああ、絶対に違うと思う」

 「どうして?」

 「オシラ様ってのは、主に東北地方で信仰されている神様だろ?それに、僕が見たことあるオシラ様は、お地蔵さんが服を着てるような見た目だったし」

 「……そうだな。しかし、いやに詳しいじゃないか」

 「はぁ?何笑ってるんだよ、お前が昔言ってたことだろ。放課後居残って長々と――」

 「悪かったって、お前の食いつきが良かったからつい、な。それで?」

 「ったく……本当のオシラ様ってのは服を着たお地蔵さんみたいな格好で、基本的には2体1対とされているだろ?」

 「だな」

 「だけど、僕がチラッと見たあれは――」


ぱきっ みしっ


 友人の話を遮るように、大きめの家鳴りがした。

 築50年ともなれば当然なのだが、慣れない人には驚かれることがよくある。何年か前都会の友人を家に泊めた時も、家鳴りがするたびにビクビクしていて思わず笑ってしまったものだ。そんなことを考えていると、眼の前の友人の顔が目に入る。

 ――驚いている?

 田神はもう何度も我が家に足を運んでいる。祖父母に名前を覚えられているくらいだ。つまり、こういった家鳴りには慣れっこのはずである。それが肩を縮こまらせ、辺りを落ち着きなく見回している……何かに怯えているようだ。


 「……おい、どうした?」

 「あ、あぁ……な、何でもないよ」

 「嘘こけ。……ここは俺ん家だぞ?悪いもんが入ってこれるはずねーだろ、安心しろ」

 「……あぁ」

 「大丈夫だって、うちのじいちゃんが凄いのはお前も知ってるだろ?まぁ拝み屋なんて趣味みたいなもんだってよく言ってるけどな。なんなら、じいちゃんがいつも使ってる居間にでも行くか?……ちゃんとエアコンついてんぞ」

 「あー、そうさせて貰おうかな。ついでにお団子なんかもあれば最高なんだけど」

 「アホお前、人んちの仏壇に供えられてる団子食うやつが居るか」

 「はは、冗談だよ」


 そういった田神の顔は普段通りに見えた。どうやら和ませる目的は達せたらしい。

 荷物と麦茶、お盆を持って床の間を出る。話しながら居間に向かう途中、祖母とすれ違った。


 「あぁ、今日はじいちゃん遅くなるかもしんねってよ。なんでもお〓〓さまを――」






 その日、僕は日課の散歩の最中だった。

 

 家を出て左へ曲がる。そこから先は特に決めていない。足の赴くまま歩き、好きな時に立ち止まっては風の音、川のせせらぎ、緑豊かな草木に癒やされる。田舎ならではの贅沢だろう。

 僕は車通勤なので、普段通っている道でも徒歩であれば新しい発見があるかもしれない。実際に一度家を出て右に曲がってみたことはあった。だが、折角の休日にいつも通勤で向かう方角に曲がった瞬間、なんとも嫌な気分になる。休日出勤をさせられている気分だ。結果的に散歩を楽しむどころではなくものの5分、10分で帰ってしまった。

 そんな話を遊びに行ったついでに上名にしたところ、たまたま上名のお祖父様……師輿もろこしさんだったかな?が、話を聞かれていたようで

 「そいつは天乙様がいらっしゃったのかもなぁ」と仰っていた。

 帰って調べてみると、どうやら方位神と呼ばれる神様の中でもあまりよくない天一神と呼ばれる神様のことらしかった。

 昔々、それこそあの有名な安倍晴明などの時代では、この天一神を避けるために方違えと言って、天一神がいる方向を避けて1泊し、改めて出発することによって遭遇することを避けていたんだとか。

 こういった神様や風水、怪談などを僕が好きになってしまったのも件の友人が学生時代、ことあるごとに僕に披露してくれたおかげである。僕はどちらかといえば怖がりな方なのでいい迷惑だった。しかもあいつの方は、僕をこの道に引きずり込んだ自覚が無いらしい、まったく。

 そこで僕はネットや知人から聞いたいわゆる怪談話を蒐集し、彼に聞かせることにしている。昔話した限りでは、彼は直接霊的なモノに遭遇した経験こそ無いものの怖がりではあるので、実際体験してしまいそうな怪談を話すと

 「へぇ」

 などと平気な素振りをしつつ、そんな日は僕が帰ろうとすると玄関まで見送りに来たりする。(これには僕も助かっているのだが。)

 つまり昔の意趣返しに怖がらせてやっているというのが建前なのだが、今は単純に彼とそういった話をするのが楽しい。それに、どんなに怖い話でも彼の家なら安心ということもあり、二人で恐怖をシェアするのが日課となっている。


 よく通る公園のベンチで物思いに耽っていると、涼しい風と夕焼け色に染まる景色にハッとする。

 (もうこんな時間か……)

 腕時計を見れば、家を出てからもう1時間半も経っていた。この公園まではどんなにゆっくり歩いても2,30分程度のはずなので、1時間もぼーっとしていたことになる。

 (これが歳をとるってことなのか……)

 帰途に就こうと重い腰を上げた時、視界の端に何かが映った。

 (何だろう、アレは……)

 (――ちっちゃい、鳥居?)


 




幕間 一


 見上げる隣には、〓〓がいる。


 この時間になったら、お外に出てはいけませんよ。でないと、怖いモノに出会ってしまうかもしれませんからね。

 ……わかった。でも、その、こわいものにであっちゃったら……どうすればいいの?

 それはね――

 

 あの時、〓〓はなんと言っていたのだろう。もし、それを覚えていれば、なにか変わっていたのだろうか。




 「ねぇ、止めようよ、怒られるよ」

 「何だよ、ここまで来てやめるワケないだろ!」

 「でもぉ……」

 「うっせぇなぁ、お前も何か言ってやれよ!」

 「〓〓」

 「お前まで何言ってんだよ!こうなりゃ俺だけでも!」

 

乱暴に扉が開け放たれる。


 「待って!!」

 「うわっ!いきなり大声出すなよ!」

 「その子……だれ?」


そこにあったのは。




2. 残響



 近づいてよく見てみると、石造りのお社のようだった。

 石の質感を見るに、100年ほど経っていてもおかしくなさそうだ。

 鳥居は木で出来ているのだろうか?かつては朱色に染められていたのかもしれないが、世界が朱に染まっているこの時間では確かめようもない。

 お社の方は、雑に平たい長方形にした石を底面、側面、奥面に置き、上には同じような石を2枚、ハの字に置いて天井としているらしい。簡素な造りで、奥行きは15cmもないくらいだろうか?

 中には何も無い。……と見えたのは夕暮れのせいか、はたまた歳のせいなのか。

 手前の方にあるそれを手に取ってみると、それは小さい蝋燭立のようだった。夕暮れ時のせいもあり詳しいことは言えないが、全体的に黒ずんでいて、これも相当昔のものであると思える。


 ――まだ何かあるだろうか。


 自分でもなぜこんな好奇心にかられているのかは分からない。だが、今を逃せばこんなチャンスは無いぞと何かが囁くのだ。


 ……今? ……何か?


 そうだ、スマートフォンのライトがあったな。

 蝋燭立は元に戻し、ポケットからスマートフォンを取り出すと、何件か通知が表示されている。内1件は上名からの着信のようだ。


 ――そんなことはどうでもいい。


 ライト機能など久しく使っていないので悪戦苦闘しつつ、ようやくライトを――


 ぶーーーーー ぶーーーーー ぶーーーーー


 点けようとした刹那、けたたましい音と共にスマートフォンが振動する。



 「……もしもし?」

 「なんだよ、やっと出た。何してたんだ?」

 「……散歩」

 「あー……」


 彼にしては歯切れの悪い返事だ、用があるのなら早く言ってほしい。俺は早くあの中を……


 「……み、田神!」

 「……何?」

 「散歩中、何か変なことはなかったか?人でも景色でも、物でも」

 「ああ、ちょうど、今お〓〓さまの」

 「わっ!!!!!!」


 いきなりの叫び声に、思わずスマートフォンを取り落としそうになる。このバカはいきなりなんて声を出すのか!


 「うっっっるせぇ!いきなりなんだよ!」

 「よし、大丈夫そうだな」

 「はぁ?大丈夫って何が……」


 言いかけて、さっきまで自分が何をしていたのか思い出せないことに気づく。上名からの着信に出て……いや、その前に、何かをしていたはずだ。その途中で着信が……?


 「お前さ、ひょっとしてさっきまで何してたのか覚えてない、なんてこと無いか?」

 「……覚えてない、かも」

 「あー、分かった。今どこに居るんだ?いつものコースならあの公園とか?」

 「ああ、そうだよ」

 「周りに誰か居るか?まだそんな暗くないから分かるだろ」

 「何人か見えるな。犬の散歩してる佐々木さんとか、買い物帰りかな?チャリンコ漕いでるおばちゃんとか」

 「ん、なら大丈夫だろ。とっとと家に帰れよ、そこからなら急いで歩きゃあ20分かからないよな?」

 「まぁ、そうだけど……結局何の用だったんだ?」

 「ん―、明日にでも話すからうち来いよ。お前の好きなばあちゃんの麦茶作っといてもらうからさ」

 「はは、なんだそりゃ。まあいいや、んじゃまたあし」

 

きぃん からん からん


 「ん?何の音だ?」

 「田神」

 「上名にも聞こえなかったか?今」

 「まっすぐ帰ってくれ、頼む」

 「???お前も今の音」

 「頼む、親友」

 「……分かった、寄り道せず帰るよ」

 「あぁ、また明日な。それと怖がらせるワケじゃあないが、今日の夜は出歩かないほうがいいぞ。というか、外に出るな」

 「大丈夫、夜に出歩く用事なんて無いよ」

 「そりゃそうか」

 「んじゃ、また明日な~」


 どうにも腑に落ちないことが多かったが、他ならぬ上名があんな頼み方をするなんて……明日会ったらからかってやるか。

 そう考えると明日が楽しみになってきた。早く帰って、風呂に入ろう。


 ポケットの中身を手で転がしながら、田神尋鷹は軽い足取りで帰途に就いたのだった。




 「ってことがあってさ。大丈夫かな?」

 「見てもねぇのに分かんねぇよ」

 「様子が変だったから、何かしらの影響を受けちまってたのかな、あいつ……」

 「いや、もし天乙様だとしたら、んなもんじゃすまねぇよ。お前や普通の人らならまだしも、田神くんの場合はなぁ……」

 「こえぇこと言うなよ、方位神じゃないなら何だったんだろ?」

 「さぁなぁ……ただ、方位神様がお歩きになった跡は、いわば残り香みてぇなもんが漂うことがあるだよ」

 「残り香ねぇ……」

 「んだ。それにアテられるのもよくねぇが、もっとよくねぇのはその残り香で良くないもんが目覚めることがある、ってほうだな」

 「出たよ。ほんとに居るのけ?そんなものがさ?」

 「お前もちっこい頃見たべ?お盆の時とかよ」

 「いつの話してんだよ……見たことあったとしても、覚えてるワケねぇべ」

 「まぁ、とにかく居るっちゃおるし、居らんっちゃおらんってことだ」

 「なんだそりゃ。結局、話した通りならあいつは大丈夫ってことでいいんだべ?」

 「まぁ多分大丈夫だべ、なるようになるだよ」


 「聞いた限りじゃ、持ち帰る前に間に合っとるようだしな」





幕間 二



〓〓くん、いっしょにあそぼう。


 お母さん、僕もうやだよ。友達と一緒に遊びたい!

 ワガママ言うんじゃないの。これも貴方の為なんだから……お〓〓さんだって――

 ほら、あそこで手を振ってる、遊ぼうって呼んでるよ!


いっしょに、こっちへきてあそぼうよ。




 「ねぇ、ほんとに行くの?止めようよぉ、大人の人に見つかったら……」

 「怖がりだなお前は。あんなの嘘に決まってるだろ!大人が秘密の場所を独占したくて嘘ついてるんだよ!」

 「でもぉ……」

 「〓〓」

 「何だよー!お前らが来ないんなら俺一人で行くからな!」

 「ま、待ってよぉ……」

 「……?」


ダメだよ。あそこは――




3. 〓〓


 「ただいまー」

 誰も応える者はいない。何のことはない、僕が一人暮らしだから、というだけだ。ただ習慣というやつは拭い難いもので、玄関を開けると口から自然と滑り出てくる。

 とりあえず、お風呂だ。

 両親が見繕ってくれた、こんなに長くお世話になるとは思わなかったこの家は、玄関を開けて正面の廊下の突き当りにベッドルームとリビング、途中の左手にはバスルームがあり、その対面にあたる右手にはトイレがある。

 トイレから見て左側、つまりドアが開く側には電話台が置いてあり、いざという時は用を足しながら電話に出ることができる。(そんな経験は1度も無いのだが。)

 その電話にチラと目をやり、着信や留守電が無いことを確認するのも習慣だ。


 この時期は散歩から帰ると汗だくということが多々あるので、散歩に出かける前にお湯を張っておく習慣もある。我ながらナイスだ。

 風呂場へ向かいながら脱衣しつつ、脱衣所で畳んだ衣服を洗濯かごに放り込む。おっと、スマートフォンが入っていたな。スマートフォンをポケットから取り出し、かごに入れた衣服の上に置く。

 (どうせ風呂に入るのだから、手は洗わなくていいよな。)

 後から考えると、お湯を張っていなければその間待ちぼうけとなり、さすがに手くらい洗っていただろう。そういう意味では全くナイスではなかったとも言える。後悔先に立たずとは言うが、この場合風呂の自動ボタンを押してから散歩に出かけた僕を責めることはできないだろう。いくらなんでも、あんなことが起きると予想できる訳がないのだから。


 「~~~~っはぁぁぁぁぁ……」

 思わず声が出てしまう。風呂は命の洗濯、まさにその通りだ。浴槽に入るこの瞬間の為に生きているのかもしれない。この歓喜の声を抑えることなど、誰にもできはしないだろう。体中をなんとも言えない感覚が包み込んでいく、筆舌に尽くし難いとはこのことか。

 一人悦に浸っていると、嗅ぎ慣れない臭いが鼻についた。この臭いはなんだろう?空気が淀んでいるというか、濁っているというか――


 ……黒?


 僕は自分の目を疑った。

 自分が今まさに浸かっているバスタブに、黒い靄のようなモノが広がっているのだ。


 (一体……!?)


 停止しそうな脳を、慌てて回転させる。

 一体これは何だ?どこから!?

 よく見てみると、黒い靄のようなモノは僕の右の手のひらから発生し、お湯の中に拡散するにつれ薄くなっていくようだった。

 

 (散歩の途中で、何か汚れたものでも触ったかな……?)


 もう入ってしまったものは仕方が無いとバスタブの中で両手を擦り合わせていると、黒い靄は次第に発生しなくなった。その代わり、お湯は黒く濁ってしまったが。

 仕方ない、シャワーを浴びてさっさと――


きぃん からん からん


 ……どこかから、音が聞こえた。


きぃぃ ことん ことん


 ……何かがフローリングに落ちて、転がる音?


ごとん ずり… ずり…

 

 音は脱衣所の方から聞こえてくるようだ。聞いたことがあるような音のような気もするが、一体?

 確かめるのも怖いが、脱衣所に出なければどうしようもない。大きいムカデとかじゃないといいんだけど。

 覚悟を決め、浴槽から出て脱衣所に続くドアを引く。


 ……何も、いない?虫ではなかったのか。

 最初は、右手にある洗濯機の上から何かが落ちたのかと思っていたのだが、洗濯機の上には何も乗ってはいないし、周囲に落ちたであろう物も見当たらない。

 では洗面所だろうか?歯ブラシや、口を濯ぐのに使っているコップが落ちたのでは?

 ……違うようだ。ざっと見ても落ちたものは無いようだし、何の違和感も覚えない。

 ふーむ?よくわからないが、とりあえずシャワーは浴びてしまおう。そう考えバスルームに戻ろうとした時。

 (あ、スマホかな?通知のバイブレーションで落ちたんじゃないか?)

 天啓にも似たこの閃きに確信をもち、洗濯かごに目をやる。

 スマートフォンは、衣服の上に鎮座していた。

 なんだよ。とがっくりしながら振り返ろうとした時、視界の端に何かが見えた。

 ……アレは?


ごとん ずり… ずり…

 

 「うわああああああああああ!!!!!!!!」

 

 僕は脱兎のごとく脱衣所から逃げ出し、そのままベッドルームへと飛び込んだ。

 何だアレは!?何故あんなモノが!?そんな疑問と恐怖が頭の中で渦を巻き、正常な思考を妨げてしまう。

 ベッドが濡れてしまうのも構わずに僕は部屋の鍵をかけ、布団を頭からすっぽりと被った。そうしなければ、あの音がまた聞こえてきそうで――


ぶ… ぶ…


 またも聞こえてきた音に、半分狂乱状態になりつつあるのを必死に堪え、ひたすら耳を塞ぎ続ける。


ぶ… ぶ…


 おかしい、これだけ耳を塞いでいても聞こえるなんて。やはり、アレは怪異だったのか……

 恐怖で歯の根が合わず、ガチガチと音を鳴らす。あまりに強く布団を押し当てているため耳がキーンとなるが、痛いほど、苦しいほど恐怖が紛れるような気がして、力を込め続ける。


 ……少しだけなら。人間、そう長くは緊張状態を保ってはいられない。一体どれほどこうしているのだろう?痛みが限界に近かった為、そっと耳に押し当てていた布団を抑える力を緩める。すると、先程から聞こえていた音が鮮明になってきた。


ぶ…… ぶ……


 一番最初に聞いた音とは、どうも別物のような気がして、さらに力を緩めてみる。すると――


ぶーーー ぶーーー ぶーーー


 ……スマホのバイブレーション?

 上名!!

 一瞬、もう自分は助かったのだと布団から顔を出したが、その喜びは一瞬のものだった。

 スマホを取りに行くには、脱衣所へ戻らねばならない。イヤだ、絶対にイヤだ。

 ならば自宅の電話を使うか?あいつの携帯電話番号はさすがに覚えていないが、家の番号なら覚えている。……だが、家の電話は不幸にも、その脱衣所の正面にあたる場所に設置されている。

 通り過ぎるだけならともかく、あそこに身を落ち着けて会話など出来るはずもない。

 ならばいっそ、外に逃げるか?玄関を出て10分も歩いた通りに、公衆電話が残っていた筈だ。幸い、今いるベッドルームには着替えも財布もある。いや、そもそも車を使って上名の家まで……


 (あぁ、また明日な。それと怖がらせるワケじゃあないが、今日の夜は出歩かないほうがいいぞ。というか、外に出るな。)


 ……そうだった。だがどうすればいい、このまま朝を待つのか?この部屋だって安全だという保証はない。

 いつの間にかバイブレーションの音も、先程のアレが出していたであろう音も聞こえなくなり、痛いほどの沈黙が却って恐ろしい。また、あの音が聞こえたら……


ピンポーン


 ベッドの上で身体が跳ねた。


ピンポーン


 ……上名?いや、冷静に考えてあいつが来れるはずがない。僕の家から上名家まで、車で10分はかかるのだ。まして、あいつは免許を持っていない。お祖父様も数年前に免許を返納したと聞いている。

 では、一体誰が……


ピンポーン コンッ コンッ

 

 「田神くーん、居るかい?私です、2丁目の佐々木です」


 (……佐々木さん?)


ピンポーン コンコンコンッ


 「実はね、さっきこしさんち……じゃない、上名さんから連絡があってね、君の家を訪ねて様子を見てきてほしいと言うんだ。多少強引にでもと言うのでね、こんな時間に失礼を承知で……」


 上名の名が出てからはもうダメだった。怪談やホラーでは、今話しかけてきているのは佐々木さんではなく佐々木さんを騙る怪異で、ドアを開けたら最後僕は……なんて想像も過ったが、これ以上自室で恐怖に耐えていられる自信がない。

 僕は自分がこれほど早く動けたのかと感心する速さで着替え、財布だけを手に取り、決して脱衣所が目に入らないように視線を伏せながら廊下を走り抜け、玄関のドアを開けた――




幕間 三


 また……が…で……

 こうな……ら、また……まに…

 なりません。それに、幼い子どもたちを気を付けて見てあげればいいのです。

 が……ま……

 じっ……からで……

 前にもお伝えしたはずです、一番恐ろしいのは――



 「◯◯ちゃんみーっけ!」

 「もー!~~ちゃん見つけるの上手すぎるよー!」

 「そうだよー、~~ちゃんが鬼じゃつまんない!」

 「ねぇ、あっちで鬼ごっこしよ!」

 「私もいく~!」


 「うう……みんな待ってよぉ……」


きみ、ひとりぼっちなの?


 「……? だぁれ?」


ぼくも、ひとりなんだ。


 「そうなの?なら、私とあそびましょ!」

 「……?あれ、気のせい……?」



4. 神隠し


「こんなものしかなくてごめんね。事情はある程度聞いているから、今日は泊まっていくといいよ」

 「いえ、とんでもないです……ありがとうございます」


 今僕は、佐々木さん宅のリビングで彼と向かい合っている。

 あの時、玄関をいきなり開けて飛び出してきた僕を、佐々木さんは一瞬驚きの表情で迎えたが、直ぐに厳しい面持ちになると

 「行こう。大丈夫だよ、車で来ているからね」

 そう言って、僕を車に乗せてくれた。

 車の中での記憶はあまり無い。助かったのだという安堵。そして、ともすれば再燃しそうになる恐怖を抑えるのに必死で、他のことに気を回す余裕などなかったのだ。覚えているのは車が止まり、社内で震えている僕に佐々木さんが優しく声をかけてくれたことくらいだ。

 (情けない話だがこの時僕は腰を抜かしていて、一人で車から降りることが出来ずに佐々木さんの手を借りることとなった。このことは上名くんには内緒にしておいてくれと頼むと、佐々木さんはニッコリ笑って僕を家まで案内してくれたのだった。)


「しかし、僕なんかにはとんと分からないのだが、変なことに巻き込まれているみたいだね?」


 佐々木さんは持ってきてくれた茶菓をテーブルに置くと、真っ先に僕の心配をしてくれた。佐々木さんと知り合ってから、1年も経っていないだろうか?その日もいつもの日課を楽しんでいると、犬の散歩をしている見慣れない人に挨拶をされた。



 「こんにちは」

 「こんにちは。……初めまして、ですよね?」

 「えぇ、そうです。失礼しました。私は佐々木正ささきまさしといいます、先月2丁目に越してきたばかりでして」

 「そうだったんですか、ご丁寧にありがとうございます。僕は田神です、田神尋鷹といいます」


 初対面から感じのいい人だという印象を受けた。互いに住んでいる場所や、佐々木さんの連れている犬(名前はマロンというようだ、犬種はミニチュアなんとかだったかな?)の話をして、その日は別れた。その後も会えば挨拶をするくらいの仲だったが、まさか上名(のお祖父様かな?)と知り合いだったとは。



 「えぇ、もう、なんと言ったら良いのか……」

 「あぁ、無理に話さなくてもいいよ。僕はそういったことを解決してあげられるような知識は無くてね。申し訳ないが、あまりお役にも立てないと思う」

 「そんな、頭を上げてください!わざわざ迎えに来て頂いた上に泊めてくださるんですから、感謝してもしきれないくらいですよ!」

 「ははは、そんな大したことじゃあないよ。困った時はお互い様さ」


 そう言って、佐々木さんは湯呑みを差し出し、急須から緑茶を注いでくれた。


 「粗茶ですが」

 「ありがとうございます、いただきます」


 熱いお茶が五臓六腑に染み渡るのを感じる。上名の家で頂くお茶とも、また違う味わいだ。

 ……日常に、帰ってきた。たった一杯のお茶と、佐々木さんの人柄が助けてくれたのか。さっきまでの恐怖は、嘘のように消えていた。


 「そろそろ落ち着いたかい?」

 「えぇ……本当に、お礼の言いようもありません」

 「いやいや、なんともないようでなによりだよ。礼ならこしさんのお孫さんに言ってあげるといい、僕に連絡をくれたのは彼だからね」

 「その、こしさんというのは……?」

 「ん?あぁ、ごめんごめん!上名さんだね。君と同年代くらいの子がいるだろう、秋利くんといったかな?こしさんというのは、彼のお祖父様、師輿さんのことさ」

 「あぁなるほど、そうでしたか。何か、身の回りで怪しいことでも……?」

 「いやいや!はは、こしさんにも言われたが、僕はそういったことには縁のない方でね。こしさんには庭の手入れや、畑のことなんかをよく相談させていただいているんだ。あとは仏壇周りなんかのこともね」


 言われてふと気付く。佐々木さんが座っている奥に、仏壇が見えた。あれは生花だろうか?御札に、経本まである。どれも綺麗に手入れされていて、佐々木さんの信心深さが伺える。


 「さて。言いそびれていたが、上名くんから、君がうちに来るようなことになったら伝えておいてくれと頼まれていたことがある。メモを取ってあるから、それを見てもらうのが早いだろう。えーっと、メモメモ……」


 『俺の思い過ごしならいいんだが、もしなにか変なことが家の中で起きていたようなら、佐々木さんのお宅に泊めてもらえ、もうお願いはしてあるからな。本当は俺の家まで来てもらうのがいいんだろうが、じいちゃんが今日はあまり外に出るなって言うんでな。まぁ大丈夫だろうが、怖くなったらいつでも電話してこいよ、お前お得意の怪談話でもしようや。じゃ、また明日な。』


 ……後半、あいつのニヤついた顔が目に浮かぶ。なんだか腹が立ってきたな。


 「言伝としては以上なんだが、これとは別に、君には話しておいた方がいいと思うことがあってね。ひょっとすると、君に関係のあることかもしれない」

 「何でしょう?」

 「実はね……」


 

 こっちに越してきて、もう1年になるかな。近所の人達もいい人ばかりだし、空気は美味しい、景色はいい、交通の便も悪いというほどじゃあない。本当に越してきて良かったと思うよ。

 ただ一つ、2丁目から1丁目にかけての地域に、古びたお堂のようなものがぽつぽつと建っているのを知ってるかい?はは、知らないのが普通さ、君の家からは遠いしね。

 田舎ならそういうものがあっても珍しいことじゃないというのは分かるんだが、普通お堂というのは何かをお祀りするものだろう?お地蔵様だったり、極端な話、中にあるのがただの石ころだけってこともあるだろうね。だがそのお堂はみな空っぽなのさ、鳥居が建っているワケでもない。詳しいですねって?はは、そういったことには縁がなくとも興味はあってね。実際に見てみたり、本なりなんなりで色々と調べてしまうのさ。そうやって調べていくうちに、近所の人に教えてもらったことがあってね。


 おしらさま

 それはそう呼ばれているらしい。いつ頃から伝わっているのかは分からないが、20年以上前なのは確実なようだね。

 一番多く聞かれたのが、お白さまは子どもを攫う、ということだ。

 山道を子どもと散歩していると子どもが急に「あの子だあれ?おいでおいでしてる~」と言い出したり「ねえお母さん、もう帰ろうよ」「あら、疲れちゃった?」「ううん。でもあの子がもう帰れって」なんてことがあったらしいよ。

 実際に図書館で昔の新聞を調べてみたんだが、確かに小さい子供が行方不明になる事件があったらしい。30年ほど前の日付だったかな?容疑者も居たようだが結局証拠は何もなく、最終的には神隠しということで落ち着いたようだね。それから1年に1件ほどの間隔でその神隠しがあり、25年前を最後に小さい子供の行方不明が事件として報道されているものは確認出来なかった。

 だが、妙なんだよね。いや、僕がそう思うだけで実は普通なのかもしれないんだが……

 そのお白さまについて、大多数の人は子どもを攫う恐ろしいものとして語るんだ。中には話すのも忌々しいという態度で取り付く島もないお年寄りも何人か居たね。

 だが、少数だが違う意見の人も居てね。その人達の意見は一貫して「お白さまは子どもたちを護ってくれる」というものだった。

 これっておかしいと思わないかい?

 こういう地域に根ざした怪異の話では、対象の描写が曖昧なのはよくあることだろう。ある人は子どもを攫うと言い、ある人は子どもを食べると言う。ある人は子供だけでなく大人も攫うと言うし、ある人は翼の生えた悪魔だとまで言う。これらに共通するのは、人に害を与えるもの、悪いもの。という面だね。

 だが、今話したお白さまは違う。大多数の人は子どもを攫う悪いものとして認識しているのに、ごく少数の人たちは、子どもを護る善性の存在だという。実際に神隠しが起きていたり、子どもが不思議な現象に出くわしたりしているのに、だ。

 ……一体、どういうことなんだろうねぇ。


「それじゃ、部屋はここを使ってね。トイレはあそこ、水が飲みたければそこを曲がったところに台所があるから」

「何から何までありがとうございます、この件が落ち着きましたら必ず、改めてお礼に伺いますから」

「気にしないでいいのに。じゃ、おやすみ」

「おやすみなさい」 


 語り終えた佐々木さんと挨拶をかわし、僕は用意していただいた客間の布団の中へ入る。

 お白さまとは何なのか。オシラ様なら知っているが、どう考えても別物だ。それに、僕が見てしまったアレと関係があるのか。あるとすれば、アレは僕を攫いに来たのだろうか?しかし……

 常であれば眠れないほどの疑問が頭を駆け巡っていたが、それも体感では5分程度のものだった。思い出したくもない恐怖の体験が僕に与えた精神的疲労は相当なものだったようで、僕はすぐに眠りに落ちていった。




幕間 四


がやがや


 もうたくさんだ、毎朝早起きさせられる身にもなれってんだ。


ワー ワー きぃ…


 お供えだってタダじゃないんですよ。ここまで来るのだって何分かかるか……


やいの やいの 


 こいつも、あっこに持ってっちまおう。


きぃん からん からん


 そうだそうだ、大体神隠しなんてあるわけねぇんだ!

 言いつけ?知るかそんなもん!大体管理してるのは俺等なんだ、あんたに文句を言われる筋合いはねぇ!


ごとん



ずり… ずり…





たすけて。





5. 怪談


 「……みくん、田神くん。田神くん?」


 んん……うるさいな、折角の休日に一体何……ん?


がばっ


 「うおっと。おはよう、田神くん」

 「……おはようございます」 

 「はは、昨日はよっぽど疲れてたみたいだね。何度か起こしたんだけど、もうお昼だよ?」


 ……そうだった。昨日あんなことがあり、佐々木さんのお宅に泊めて頂いたのだ。それを忘れて昼までぐっすりとは……我ながら呆れると同時に、恥ずかしさで布団に入りたい気分だ。いや、半分はまだ入っているのだが。


 「すいません、すぐに」

 「あぁいいよいいよ。ついさっき、上名くんから電話があってね。田神くんさえよければ、もういつでも来ていいそうだよ。直ぐにでも出かけるかい?」

 「上名が……はい!……あ、でも……」

 「気にしない気にしない。僕もそろそろこしさんと庭の話でもしようと思っていたところだからね」


 何なんだこの人は。前世はさぞかし徳を積んだお坊さんだったのだろう。こういう人にこそ、平穏無事な人生を歩んでもらいたいものだ。


 「では……ご厚意に、甘えさせて頂きます」

 「いいとも。なら僕は車を出してくるから、田神くんは顔を洗っておいで。昨日話したトイレの場所に洗面所もあるから、覚えてるかい?」

 「大丈夫です、ありがとうございます」


 こうして僕は佐々木さんの運転で友人の家まで向かったのである。車内では好きな食べ物の話を振ってみた、後日のお礼を考えてのリサーチだ。

 そして昨日の体験を思い出すのも忘れない。無論、どこに怪異の正体に繋がるヒントがあるか分からないからだが、何より……

 こんなリアルな体験、利用しないでどうするんだ?



 上名家に着くと、お祖母様が出迎えてくれた。どうやらお祖父様は留守のようで


 「それは残念だなあ、なら僕は帰ることにするよ。田神くん、帰りは大丈夫かい?」

 「はい、あいつ……いえ、上名くんの自転車を使わせてもらいますから」


 と言って佐々木さんと別れた。本当にありがとうございます。と別れ際の背中に改めて感謝を伝える。


 家に入ると、廊下の奥から上名が顔を出した。相変わらずの猫背っぷりだ。その寝癖も、なんとかならないのか。


 「おう。俺の部屋今汚いから床の間で話そうや」


 通された床の間はすでに空調がついているようで、座布団も用意されていた。


 「さて、昨日何があったか話してみろよ。だけど、あんまり怖いとこはぼかせよ?」


 そこで僕は昨日の体験と、佐々木さんから聞いたお白さまのことを語った。体験談を語るにつれ昨日の恐怖が再燃してしまい、上手く話せたかは分からない。実際何とかして欲しいのだから、きちんと順序立てて話すべきだと分かってはいるのだが……

 こいつと話していると、どうも童心に帰ってしまうらしい。僕の話はどうも、ありのままの体験を事実として語るのではなく、怪談話の様相を呈していたらしかった。



幕間 五


きぃ…


 ひーふーみーの……んん?一つ足りねぇ?

 ……んー、やっぱ足りねぇなぁ……


きぃん からん からん


 ん?こりゃあ……

 うわっ、きったねぇなぁや……


ごとん


 あ?……あぁ、足りねぇと思ったら、そういうことか……

 ちと、待っといて下されよ。上手く行けば、今日中になんとかなりますんでの。ほれ、寝とらんで。


かたん




6. 懐古



 「あー聞いてるー。ちょっと前に1回帰ってきてさ、あちこち見て回るとか言ってた」

 「なんだそうけぇ。あ、田神くん、ゆっくりしてってな」

 「ありがとうございます」


 「しかし、何だってお稲荷さんなんか見に行くんだろうな、1丁目の方にはいくつかお堂があるらしいけど、お前見たことある?」

 

 床の間からわざわざ移動してきた居間の座椅子に腰掛け、友人を座らせると仏壇から団子を取る。なんだ、みたらしか……俺はこしあんのが好きなんだが。まだ飯を食ってないという友人に2本くれてやると、俺は残った1本にかぶりつく。……んまい。

 

 「さぁ?ただ、佐々木さんは見たことあるって言ってたよ」

 「ほーん、ならじいちゃんが言ってたのは本当かもな」

 「何を?」

 「いやな、1丁目は昔から商家や農家が多かった影響で、あちこちにお稲荷さんが居たんだと。だが最近じゃあ仏壇が家にある家庭のほうが珍しいだろ?そんなふうに、お稲荷さんへの信仰やお詣りも廃れちまって、今や放置状態もいいとこなんだとさ」

 「そりゃあ、イヤな話だな……しょうがないんだろうけどさ」

 「しかもあの辺は昔神隠しがどうたらなんて話もどっかで聞いたことあるしな。まさかお稲荷さんの仕業じゃないだろうけど」

 「お稲荷さんが?狐憑きなら聞いたことあるけど」

 「結局どんな神様だってみんな同じってことは無いだろうしな。確かあの辺のお稲荷さんは子どもが多かった影響で、子ども好きらしいぞ。俺もめっちゃ小さい頃、庭のお稲荷さんで人形遊びみたいなことしてたらしいしな」

 「罰当たりだなぁ……」

 「まぁ、俺とお稲荷さんの仲だからな」

 「お稲荷様の話はいいんだけどさ、僕の話は結局どう見てるんだよ?お祖父様は今日帰りが遅いんだろ?お前がなんとかしてくれなきゃ、今日も家に帰れないよ……」

 「んー、って言われてもなぁ……お前が見たっていう不気味な像とやらもあやふやで分からんし、俺が電話した時のことだって、あんま覚えてないんだろ?」

 「そうなんだよな……まだ明るいし、一緒に家に来てくれよ」

 「はぁ?だってお前、自分の車で来てないだろ?お前ん家まで徒歩で向かおうもんなら、俺は間違いなく途中で干からびるね」

 「いや、僕が一旦お前の自転車で家まで帰って、車でまたこっちまで来るよ。お前の小さい自転車なら車に乗るだろうし」

 「えぇ……」

 「頼むよ、親友」

 「……お前、よくそんなこっ恥ずかしいこと言えるな」


  結局俺が折れることになり、行って来いしてきたやつの車で家まで向かうことになった。



ガチャ


 「なんだよ、鍵かけないで出てきたのか?」

 「うるさいな、必死だったんだよ」

 「はいはい。お邪魔しまーす」


 この家を訪ねるのはいつぶりだろうか?そう何度も来ていないので新鮮だ。いつもは俺の家に呼びつける、あるいは勝手に向こうから訪ねてくるからだ。


 「ほれ、お前が先導しろよ」


 と言って振り向くと、我が親愛なる友人は借りてきた猫のようにソワソワしている。おいおい、自分の家だろう。……これは余程怖い思いをしたらしい。ったく。


 「さっさと片付けちまおう、風呂場はどこよ?」

 「……あそこの、左の開いてるドアだよ」

 「おう、見てくるからちょっと待ってろ」


 見れば、確かに開けっ放しのドアがある。俺は中が見えるところまで移動すると、腕を組んで中を見やる。正面には脱衣所、右手には風呂場の空いたドアが見える。脱衣所は、特に荒れている様子もない。強いて言えば、バスマットがぐちゃぐちゃになっているくらいか?あいつが慌てて風呂場から逃げる様子が目に浮かぶ。

 視線を手前に移していくと、洗濯かごに綺麗に畳まれた服が入れられ、その上にはスマホが置いてあるのが目に入った。

 なるほど、だから昨日電話に出なかったのか。得心しつつ友人のスマホを取ってやろうとしゃがみながら手を伸ばした時、洗濯かごの奥側、つまり入口からは死角になっている部分に何かが落ちているのが見えた。これは……

 手に取って見てみると、小さい蝋燭立のようだ、うちにも同じものが何個もある。だがこれはうちの物と比べると手入れがされていないのか、全体が煤で黒く汚れ、蝋涙も溜まりに溜まって芯立てを覆ってしまい、もはや蝋燭立としての用途は果たせそうにない。しかし、何故こんなものが……?

 しげしげと眺めていると煤が厚い層を成しているのかつるんと滑り、取り落としてしまった。


きぃん からん からん


 「ひっ……」


 左から、田神のか細い悲鳴が聞こえた。なるほど、電話の時の音もこいつか。

 大丈夫、なんとも無いぞと声をかけ、蝋燭立が落ちていた周囲をよく調べてみるが、特に怪しいものは見当たらない。鈍い俺でも何も感じないあたり、こいつが元凶ということは考えづらいが……

 念の為風呂場も覗いてみたが(しょうがないとはいえ、友人の風呂場を覗くのはなんとも憚られる。)話の通りやや黒く濁った浴槽のお湯以外、目に付く物はなかった。

 あまり納得はいかなかったが、とりあえずこの蝋燭立を持ち帰って綺麗にしてやろう。いや、その前にまず哀れな友人の不安を取り除いてやる所からか。

 そう考えながら立ち上がると、やはり乱れたバスマットが気になる。特に几帳面な方ではないが、これは普通の感性でも気になるだろう。そう思い、バスマットを一旦持ち上げる。すると


ごとん


 ん?何か落ちたか?持ち上げたバスマットを横に避けると、そこにあったのは。


 (……何だこりゃ?)


 手に取ろうとした時、何故か懐かしい感じがした。俺はこれを知っている……?こんな不気味なものは見たことが……いや、違う。これは……


 「おーい、来てもいいぞー」

 「……何かあったか?」

 「あったよ、ほれ」

 「うわあぁ!?」

 「はははは!大丈夫だよ、悪い感じはしねぇから」

 「お前マジで……それだよ、僕が見たのは」

 「まぁこんなもんが怪しい音にビクついた後に目に入ればチビっちまうよなぁ、俺だってチビるわ」

 「チビっちゃねぇよ、誇張すんな」

 「はいはい。とりあえずこれも持ってと。リビング行こうぜ」


移動する途中、田神に頼んで適当な袋(これはコンビニのレジ袋だった。)、大きめで透明なビニール袋、つまようじ、少量の塩、それと使い捨てても構わない軍手を持ってきてもらい、エアコンをつけたリビングで続きを話すことにした。

リビングのキッチンで手を洗った後塩を振って流し、軍手を嵌めて例の物のうち蝋燭立はレジ袋にいれて入口を縛る。もう片方はビニール袋に入れてテーブルに置いた。


 「……それで、その、それ。なんなんだよ」

 「んー、多分だけど、お稲荷さんだな」

 「はぁ?お稲荷さん?」

 「ここが台座だろ、この……汚れが詰まってて分かりづれぇな、つまようじ持ってきてもらって正解だわ」


 つまようじを差し込むと、固まった汚れがボロっと落ちる。何度か繰り返すと、シルエットだけはよく分かるようになってきた。


 「おぉ……お稲荷さんだ」

 「な。こっちが尻尾で、こっちが手、これは当然お耳だ」

 「しかし、凄い汚れようだな……顔の部分だけは辛うじて見えるって感じだ」

 「あぁ、長年野晒しで放置されたのかも、罰当たりなこったな」

 「そうだな。しかしそっちの蝋燭立……どこかで見た気がするんだよな」

 「んー、多分俺と電話した時じゃねぇの?」

 「電話?……あっ」

 「思い出したか?」

 「あぁ……考えごとをしていたらもう夕方で、ふと小さい何かが目について……」

 「それがお稲荷さんのお社だったってわけか?」

 「多分そうだったんだろうな。大分古くて小さいお社で、そこでその蝋燭立を見つけたんだよ。鳥居もあったし間違いなく――」

 「待てよ、鳥居?鳥居がついてたのか?その小さな社には」

 「ん?あぁ。色は分からなかったけど、間違いなく鳥居だったと思う。木で出来てたのかな?素朴な感じで、いかにも手作りって感じだったよ」

 「……」

 「お、おい、いきなり黙るなよ、鳥居があったらまずいのか?」

 「いや、まずいってこた無いが……うーん、こりゃじいちゃん案件かもなぁ……」

 「……マジ?」

 「マジ。とりあえず、うちに行くか。あ、お前昨日佐々木さんちでシャワー浴びた?」

 「え?いや、浴びてないけど……」

 「ならいま適当に浴びとけ。ついでに浴槽のお湯は抜いて、浴槽と風呂場全体をシャワーで流した後、塩をひとつまみ、浴槽と風呂場の排水口に流しとけ」


 そう言って、彼は電話をかけ始めた。 



 

幕間 六



 【御神体と蝋燭立、どちらもなるべくきれいな状態を保つこと。蝋燭立は必ずこの2つを用いること。2つの御神体と2つの蝋燭立は決して離さぬこと。最低でも1日1回(早朝が望ましい)2つの蝋燭立に蝋燭を立て火を灯し、願うこと。お供えは毎朝。最低でも1月に1度はお揚げを差し上げること。】


 こんなところだべ。

 ありがとうございます、元々は私共の……

 いやいや、田神さんのせいじゃないべ、とにかく座って座って。しっかし、連中神様をなんだと思ってんだ。面倒だからってほっぽっといたあげく、御魂抜きもせず山にうっちゃっちまうたぁ……

 ……仕方がないのかもしれません。普通の人にとって、そういったものなど結局は祖父母、あるいは親がやっていたので、自分も仕方なく受け継いだというだけのこと。我が田神家のように視えてしまうのであれば実感も湧きましょうが……視えも、聞こえも、触れもしないものに敬意を抱き続けろなどというのは、信仰の薄れた今の世の中では難しいのでしょうねぇ。

 んだなぁ……だけんど、子どもらに罪はねぇだよ。何とかしてやらにゃ……

 はい。それで……上手く行くでしょうか?

 んん。多分……と言いてぇとこだが、絶対大丈夫だ。

 あら?上名さんらしからぬ、不思議な言い回しをなさるのですね。

 はは、なに。うちの孫っこがそう言うんだ、言い切っちまってもいいべ。

 あぁ、確かうちの子と同い年でしたかしら?

 んだ。友達になってくれっかなぁ。

 上名さんのお孫さんですもの、きっと仲良くなってくれますわ。ただ……

 あぁ、分かっとる。ひろくんだったか?彼はこれが上手くいくまで、あまり外に出さん方がいいべなぁ……

 




 「えー!お稲荷さん持ってっちゃうのー!?」

 「んだ。困ってる人たちが居ってな、うちのお稲荷さんに助けてもらうだよ」

 「むー!あっちがパパであっちがママ、これはお兄ちゃんでこっちが弟って感じで遊んでたのにー!」

 「んん、これとこれが兄弟なのけ?」

 「うん!いつも遊び終わった後は洗ってあげてるからピカピカでしょ、真っ白さまっていうんだよ!」

 「ほーかほーか、真っ白さまかぁ。なら、その真っ白さまなら困ってる人たちを助けてくれんべか?」

 「絶対大丈夫だよ!僕だって何度も助けてもらってるもん!」

 「そうけぇ。なら4人全員じゃなくって、兄弟の真っ白さまに行ってもらうべ。それならパパとママは残ってくださるから寂しくねぇべ?」

 「んー、でも家族が離れ離れになっちゃうよぉ……」

 「でぇじょぶだよ。それにこの子らには修行みてぇなもんだ、無事に終わったら、また戻ってきてもらおうな」

 「んー、分かった……がんばってきてね」




終章


 「というわけなんです」

 「そうけぇ、そらぁ怖かったなぁ」



 家に帰ると、連絡してあった祖父は先に戻っていた。何やら動き回っていたようで、汗だくのシャツを脱ぐのを俺に手伝わせながら、シャワーを浴びに行った。脱ぎ散らかされた服を、祖母が文句を言いながら拾い集めるのも見慣れた光景だ。

 祖父が戻るまでの間に家の神棚、仏壇、更には庭に出て、お稲荷さんに置いてある蝋燭立を改めて見てみる。田神とも話したが、やはりあの蝋燭立と同じもののようだ。昔祖父が言っていたのは、やはりこれなのだろうか?お社につける鳥居を自作し、会心の出来だと自慢してきたこともあった。しかし、そもそも何故蝋燭立やら、あのお稲荷さん像が田神の家にあったのか。彼は持ち帰った記憶は無いと言っているが、はてさて……

 隣を見ると、コンクリートブロックやらビニール袋やらが乱雑に置かれていた。俺は丁寧に積んでおいたのに……じいちゃんだな、またばあちゃんに怒られるぞ。

 そんなことを考えていると、家の中からお声がかかる。


 「秋利ぃー!じいちゃん出たよー!」


 あーい!と返し、2人で家に戻る。心なしか、田神がソワソワしている様に見えるのは気のせいではないだろう。床の間で待ってていいぞ。と言ったのに付いてきているのが良い証拠だ。まぁ確かに『うーん、こりゃじいちゃん案件かもなぁ』なんて言われれば、これは大事かもしれない……などと考えてしまうだろう、申し訳ないことをした。(まずいことになっているという意味ではなく、祖父が関わっているから知らせたほうがいいだろう。という意味で言ったのだが、このまま不安がらせておくのもいいか、と補足はしていない。)


 家に入ると祖父は床の間で、右手にある掛け軸を背に座っていた。テーブルの上にはすでに麦茶とコップが用意してあり、祖父が美味そうに飲んでいる。俺は田神を入ってすぐ、つまり祖父から見て左手にあたる場所に座らせ、長テーブルの上に件の蝋燭立、お稲荷さん?像を置いてから、祖父の後ろを回って田神の正面に座る。こちらからだと我が家代々のご先祖様の写真が目に入ってしまい、田神には居心地が悪いだろう。

 

 「よし、じゃあじいちゃんには電話で大体のことは伝えてあるけど、とりあえずお前からもう一度じいちゃんに何があったか話してくれ。齟齬があっちゃまずいしな」


 そう促すと、田神は姿勢を正して祖父に向き直り、俺に話したようなことをもう一度語るのだった。(なにか、俺の時とは違い描写が丁寧で分かりやすかったような気がするが……きっと祖父の前で安心しているからだろう。)




 「で、じいちゃんの結論は?」

 「んだなぁ……まず、こりゃましろさまだべ」

 「「ま白さま?」」

 「んだ。秋利は覚えてねぇか?」

 「ん?何を?」

 「ねぇならいいだよ。昔、1丁目の方で子どもが行方不明になる事件があってな……」


 

祖父の話を要約するとこうだ。

 

 この町(昔は村だったそうだが。)には商人や農家の多い地域があり、そこではお稲荷様信仰が活発に行われており、各地でお稲荷様がお社(多くは簡素なものだったようだが。)で祀られていた。そのお陰なのか住人は子宝に恵まれ、商いは成功し、毎年のような豊作を享受することが出来たのだという。

お稲荷様は生活に溶け込んでおり、祟りや狐憑きなどは1度も見られず、そればかりか地域の子供達に大人気だったようだ。大人たちもそんなお稲荷様に感謝を忘れず、いつしか村は大きくなって町となり、繁栄していったという。

 転機となったのは、第二次世界大戦だ。こんな田舎が狙われる心配もないのだが、万が一を考えたのだろう。町人総出といわんやばかりの規模で、近くの山に防空壕を掘ったというのだ。さらに、そこにはこれも町人が手ずから建立した稲荷社――もっとも、場所が場所なので小さいものだったらしいが――が建てられ、戦争が終わるまで各地のお稲荷様を、ここで匿おうということになったらしい。

 子供達の為の避難訓練や、火災になった時の為の火消し組を組織するなど感心するほどの準備を整えていたようだが、幸いにもそれらが活かされること無く戦争は終結した。

 防空壕は崩れては危険だということで閉鎖され、中のお稲荷様も元いた場所に戻された。が、ここで一つの意見が出る。

 「いや、うちにはお稲荷様を戻さなくていい」

 長期間お稲荷様から離れて気が変わったのだろう。管理が面倒という理由が主なようだった。

 これには大多数の人間が非難を浴びせたが、同調する者も少なからず居たようで、結局いくつかのお稲荷様はそのまま防空壕内のお社に残置された。

 当然このお社を誰が管理するのかという話になったのだが、当時この街には顔役であるT家と、神事や祭事を取り仕切るK家があった。町民たちはこのどちらかに管理を求め、結局比較的近いから、という理由でT家のお役目となったようだ。

 それからもぽつぽつとT家の管理するお社にお稲荷様が持ち込まれることがあり、いつしか町のお稲荷様の大多数はそこに集まることとなった。

 T家は信仰心を失わずにお稲荷様の世話をしたようだが、中にはそれを拒否して(単に田舎を嫌がっただけかもしれないが)外へ出ていく人間も出てきた。

 件のお社は山に掘られた防空壕にあるため、道のりは遠く険しい。そんな場所へ毎日のように通っていれば足腰を痛めるものが出てきても当然であり、実際T家でこの役目を担っていた最後の人物は、50代で車椅子を使うことになってしまったという。


 こうなってくると、件のお社は寂れる一方であり、それがきっかけなのか、その地域で幼い少女が行方不明になる事件が起きた。地域全体で大規模な捜索が行われたがその子は見つからず、その子の友達の学校からの帰り際「~ちゃんは遊んでくるって言ってた」という証言以外は何の手がかりもなかった。

 更にその1年後、今度は「約束したから、遊びに行ってくる」と言って家を出たきり帰らない少年が出る。先の行方不明事件と合わせてこれは神隠しだ、という噂が町中に広がるようになる。

 翌年も、その翌年も幼い子供が行方不明になる……神隠しが起きたようで、地域住民達を震え上がらせていた。

 この頃、神隠しの噂にこれはお稲荷様のせいだ。という尾ヒレが付くようになると、少数だが町中に残っていたお稲荷様も全て山のお社へ集められ、誰が持ってきたのか、鍵までかけて封印してしまったのである。

 T家の当主はこれに反対したが、既にまともに管理出来ていないこともあって相手にされず、仕方なくK家に助けを求めることにしたのである。



 「じいちゃんさぁ、そのTとかKってもしかしなくてもうちと田神さんち?」

 「んだ、ぼかした方が面白ぇべ?」

 「今はそういうのいいって……あ、じゃあT家の当主って……」

 「あぁ。田神くんのお祖母様だ」

 「おばあちゃん……」


 祖母の記憶はほとんどない。僕が小さい頃に病気で亡くなってしまったからというのもあるが、覚えている記憶といえば ~に気を付けなさい。~してはダメ。暗くなる前に帰ってくること。など小言めいたことばかりだ。無論、今では自分を思っての発言だと分かるが、幼い自分にとってはやはり面白くなかったのだろう。


 「賢くて気立てのいい人でなあ、ばあちゃんの次にいい女だっただよ。田神くんのこともえらい気にかけとってな、あれやこれやと相談されたもんだ。体質のこともそうだが、やっぱり孫は可愛いだよ」

 「ほーん……で、その田神んちのお祖母様がうちに助けを求めたってことは、やっぱり?」

 「ん、じいちゃんが頼まれただ」

 「で、どうしたのさ」

 「あの神隠しはきっと、放置されたお稲荷様が寂しくって、遊び相手を探してただけだだよ。そうでなきゃ……いや、ぜってぇにお稲荷様が神隠しなんてなさるはずねーだ」

 「遊び相手ねぇ……じゃあれか、一緒に遊んでたら気が移っちゃって戻れなくなっちゃった、とかか?」

 「大方そんなとこだべ。お稲荷様も悪気はねんだろうが……」

 「気が移る?」

 「あぁ、人には人の、動物には動物、植物には植物の気があって、それは神様も同じだ。それが子どものうちはまだ弱くて、そんな時神様の気を近くで、それも長く浴びちまったら、まぁ何となく分かるだろ?」

 「……向こうの世界の住人になる?」

 「正解!やっぱり田神くんは素直でええな、秋利もよう見習い」

 「うるせぇ。……で?その神隠しをなんとかしてくれって頼みだったんだろ?」

 「おう。ほんとはお稲荷様をちゃんとしたとこに移してやるのが一番なんだが、よーけほっとかれて大分お怒りでの、とてもじゃないが元に戻すなんてこた出来んかったんで、別の形でとりなすことにしただよ」

 「別の形、ですか?」

 「んん。うちにはじいちゃんが元居たとこから一緒に来てもらったお稲荷様が居てな、ほれ、庭の」

 「ああ聞いてる、移す時乱暴に扱った人がやばい目にあったとかいう、曰く付きのお稲荷様だろ?」

 「そんなもん乱暴にするほうが悪いだよ、お稲荷様は悪くね。それにお前だって小さい頃よく遊んでたべ?」

 「覚えちゃないよ、じいちゃんばあちゃんがそうだって言うからなんとなーく覚えてるだけで」

 「お前が何したってなんともないのはお稲荷様のお陰だで、ちゃんと感謝しろぉ?最初は罰当たりなことすな!って怒ってたんだが、まあお稲荷様も嫌がってるわけじゃなし、秋利もちゃんとお稲荷様のことを大切にしてたで、何も言わんくなっただよ。そのうち、まあお稲荷様もなんとも言えない感じになってきての、人間で言えば丸くなった、優しくなったって感じかの。んで、ならうちのお稲荷様に遊び相手を務めて貰おうおもて、お稲荷様お二人とうちで長年使ってた蝋燭立ば持ってよ、山道の入口に石でお社ぉ建てて、お祀りすることにしただよ」

 「へー、すげぇじゃん、うちのお稲荷さんの分社だ。で?なんでそれをじいちゃんが知ってんのよ。今日はなんか忙しかったみてぇだけど」

 「おう、今日の朝一番に1丁目の~さんから電話があってよ。何でもうちの子どもが山に入って怖いもんを見たって言ってよ、聞いてみりゃあ子どもが山ぁ入ってさっきのお社を開けちまったって話でな。それだけならなんともねぇ、ま白さまが護ってくれるだよって言ったらあいつよ。なんて言ったと思う?」


 いえ、そのお……ま白さまは、居ないんです。だってよ。

 


 「「ま白さまが……居ない?」」


 祖父は続けて話し終えてくれたが、感情的になっているのか方言が更にきつくなり、慣れていない人には聞き取ることが難しいだろうと思われた。その為、あまり話が飲み込めていない田神には後で要約してやるとして、今は明るいうちに後始末をつけてしまおうと思う。田神も居れば、そう時間はかからないはずだ。




 蝋燭立とお稲荷さんの像を持って3人で庭に出ると、お稲荷さんの隣にあるビニール袋を開ける。そこには何体ものお稲荷さんの像が入っており、どれも薄汚れている。祖父が山のお社から連れてきたものだ。


 「こっちはじいちゃんがやっとくで、秋利と田神くんはお稲荷様を洗ってあげてくんろ」


 という訳で、庭の蛇口で田神と手分けして2,30体は居るだろうお稲荷さんを洗ってやる。ついでに、田神の家で使った軍手は裏庭で燃やしてしまう。

 何ヶ月かに1度、うちのお稲荷さんもこうして洗ってやるが、こんな量を1度にやるのは初めてだ。一人なら途中で挫けていたかもしれない。

 何故か田神の家にあった蝋燭立とお稲荷さん、それにもう1体のお稲荷さんと蝋燭立も別にしておき、これは田神に洗わせる。触って大丈夫なのかと不安がる田神に、むしろ洗ってやれば喜ぶぞと伝え、二人で作業に励む。

 なんとか大勢のお稲荷さん達を洗い終え、綺麗に拭いてやってからP箱(酒瓶等を入れるプラスチックの箱。なぜかうちには大量にあり、逆に置くとちょうどいい椅子になるため重宝している)に入れて祖父がいる方へ持っていく。

 祖父の方もちょうど作業が終わったようで、元からあるお稲荷さんの隣にそれよりもかなり大きめのお社が出来ていた。どのお稲荷さんがどのお稲荷さんとペアなのかを祖父に訪ねながら、お稲荷さん達を新しいお社にお祀りし、あぶれているお稲荷さんが居ないかどうかを確認する。(基本的にお稲荷様は2体で1対、中央を挟んで左右という形でお祀りする。4体2対という祀り方もあるが、この場合は大きさの違う2対を奥から大小となるように配置する。今回の場合、お稲荷さんが余りにも多いので、向かい合わせにした1対を奥から左、左、中央、右、右と分けてそこから手前になるにつれ数を減らす。こちらから見ると逆三角形になるといえば伝わるだろうか?ちなみに、中央は一本線が通るかの如く空けてある。)

 そして、別にしていたお稲荷さん、つまりま白さまを元々の家に帰し、庭から採ってきた榊を榊立に挿し、格好よく配置すれば完了だ。

 蝋燭立にロウソクを立てて火を灯し、3人で手を合わせる。田神には何故お前があんな目にあったのか、何故蝋燭立とお稲荷さんの像が家に出現したのかだけは、作業中簡単にだが伝えてあるので、語りかけることもハッキリしているだろう。俺としては昔は我が家のお稲荷さんは4体で、内2体がま白さまとして出張していたなど知る由もない(事実としては覚えていなかっただけなのだが)ので、新たにお迎えすることになったお稲荷さん達にはこれからよろしく。我が家のお稲荷さんにはおかえり、がんばったな。と伝えるだけに留まった。



エピローグ


 結局、全てが終わる頃には辺りは暗くなっており、車で来ている田神が「話を全部聞くまで眠れるわけないだろ?」と言うので、我が家に泊まることになった。特段珍しいことでもなく、祖父母も嬉しそうに是非そうしなさい!と言うので、俺も承諾した。やれやれ、部屋に布団持ってかなきゃな……




 「というわけなんだよ」

 「何がだよ、まだ何も話してないじゃないか」


 夕食と風呂を済ませ、俺の部屋に布団を2組敷き終えると夕食の残りの厚揚げ、お揚げ、おいなりさんをつまみながら(つまみながらと言いつつ、俺もこいつも下戸である。飲み物は麦茶だ。)短い雑談を挟みつつ、いよいよ本題に入る。


 「いいじゃないか、言ってみたかっただけさ」

 「なんだそりゃ。それより、早く話してくれよ。気になって気になって、お前のお祖母様の美味しい料理も味が半分わからなかったんだぞ」

 「はは、そりゃ残念だったな。今日はお前も好きなお揚げ尽くしって感じだったのに。――さて、何から話そう?」

 「お前のお祖父様を悪く言うつもりは全くないんだけど、正直ほとんど聞こえなかったよ」

 「なら時系列は置いておいて、じいちゃんがした順に話していくか。俺も細かく分かってるわけじゃないから、話し終えた後一緒に整理しよう」

 「分かった」


 「まず、じいちゃんの電話の相手が言ってた『いえ、そのお……ま白さまは、居ないんです』ってとこの説明からだな」

 「あぁ。ま白さまってのは、お前の家から1丁目のほうに持っていったお稲荷様なんだよな」

 「ん。同じ神様同士で話し合うなり遊び相手になるなり、なんとかなるだろうってことだったんだろうな」

 「それがなんで居なくなるんだ?俺が見たのもま白さまだって言うし、それに俺が佐々木さんから聞いたのはオシラさまって――」

 「まてまて、そう一度に畳み掛けるな、順番にだ」

 「あ、あぁ、ごめん……つい」

 「まぁ分かるけどよ。ならまずなんで居なくなったのか、からにするか」



 まぁ、理由は単純だ。それまでは1年に1人ってペースで神隠しがあったらしいんだが、ま白さまが来てからそれが途切れたらしい。ま白さまはちゃんとお役目を果たしてくれてたってことだな。だがそれを良いことに、管理を面倒くさがる連中が出てきたらしい。じいちゃんがま白さまをお祀りするのに結構色んな決まり事を定めて、それを何人か(電話してきた人もその内の一人だったらしい)に託してたらしいんだが……反対する人たちも居たみたいだけど、結局賛成多数ってことでま白さまは件のお社に一緒に入れられちまったってわけだ、喉元過ぎれば熱さを忘れるのが人間ってことだな。だが……


 何でかは分からんが、閉じ込められたま白さまは1体だけだったんだよ、1つの像と1つの蝋燭立だけ。片割れの像と蝋燭立は何故か閉じ込められてはいなかったんだとさ。じいちゃんは兄ちゃんが弟を逃がしたのかもって言ってたけどな。


 そんなこんなで……仮に閉じ込められた方を兄、逃げた方を弟とするか。弟のほうは閉じ込められこそしなかったものの、誰に顧みられることもなく野ざらしに、兄のほうは結果だけ見ると、一人でも頑張ってたんだろうな。じいちゃんがま白さまを祀ってからは、幼い子供が神隠しにあったって話は聞かなかったらしいから。


 そうそう、オシラさまの話もだな。これはじいちゃんが話したわけじゃないから俺の推測だが、多分ましろさまが訛っておしらさまになったんじゃねぇかな。最初はまっしろさまだったって話だし、呼びやすい名前ってもんがあるんじゃねぇの?


 で、だ。多分お前が一番気になってるのが、何故お前があんな目にあったのか。だろ?……だよな。それについてなんだが、まず昨日の昼過ぎくらいか?じいちゃんが方位神の話を始めてさ。昨日は天乙様がこの辺を通ったかもしらんなあって。昨日のじいちゃんが昨日って言ってたんだから、今日からすれば一昨日か。んで、俺としてはほーんと聞き流してたんだが、そういやお前は散歩が趣味だったなと思い出して、念の為注意しておくかって電話したんだよ。そしたらまぁ様子が変だったからさ、気付けに脅かしてみたら元に戻って一安心。ってところで、金属が落ちるような、転がるような音がしたろ?

 ありゃあ鈍い俺でも分かるくらい、普通じゃない感アリアリだったからな。直前までのお前の様子からして、狙われてる、あるいは呼ばれてるんだと当たりをつけて適当な理由をつけてすぐに帰ってもらったんだよ。……あ?何ニヤニヤしてんだよ。……はぁ?んなこと言ってねぇだろ。うるさい。覚えてない。


 話を戻すぞ。じいちゃん曰く、天一神くらいの神格になると、通り過ぎた後に気のようなものが残ることがあるんだと。もしお前がいた周辺にま白さま(弟)がいたとすれば、天一神の気を吸収してほんの少しだけ力を取り戻した、なんてことが考えられるよな。もし周辺にいなかったとしても、神様に人間が定めた物理法則なんて通用はせんだろうしな……で、力を取り戻した弟くんは兄をにしろ自分をにしろ、助けて欲しかったんだろうな。たまたま――あるいはそれ以前からお前を呼んでた可能性もあるが――近くに居たお前に助けを求めたんじゃねぇかな。実際俺の邪魔が入らなきゃ、上手くいってたのかもしれん。ん?いやいや、その場合お前にどんな影響が出てたか分かんねぇんだぞ?ちゃんと感謝しろ。

 んで、惜しいとこまでいったのにお前につれなくされちまったもんだから、最終手段とばかりにお前ん家まで着いていったんだろ。お前が言ってた風呂で広がった黒い靄ってのは、蝋燭立を触った手に付いた煤だろうな。ありゃあま白さまとしてお祀りされていた時のものだろうから、それを全身に浴びたことで、ま白さまとの繋がりが強くなったのかもよ。だとすれば、その直後から物音が聞こえだしたことにも説明がつくしな。


 ここまでで、何か質問あるか? ……あぁ、うちにお迎えしたお稲荷さん達な。じいちゃんは詳しく教えてくれなかったけど、簡単に言えば邪気を抜いたお稲荷さんをお迎えして、今後ちゃんとお祀りしていけば何の問題もないとさ。ま白さまが遊んでくれていたお陰で、多少なりとも丸くなったんだろ。まぁあんな量のお稲荷さんが庭にいると確かにビビるけど、逆に護ってくれるって考えればこんな心強いこともないしな。お前もうちに来た時はお参りしていけよ。

 それに、じいちゃんもお稲荷様が何の罪もない子どもたちを攫ったなんて考えてないだろうし、危ないことなんてないさ。


 ……そういやそのお稲荷さんだけどさ、お前が佐々木さんに聞いたっていうオシラ様ってあったろ?そうそう、多分ま白さまが訛ったんじゃねぇかなって話してたやつ。佐々木さんの話を聞くとどうも、ま白さま(オシラ様)と放置されてたお稲荷さんは同一視されてたみたいだよな、オシラ様は子どもを攫うって意見が多数派だったんだろ?でもさ、じいちゃんがま白さまを何人かの手に託して、そのお陰で神隠しが止まったってんなら、功徳というかさ、ま白さまありがとうって雰囲気が広がるもんじゃね?なのに、何故かオシラ様は神隠しの犯人扱いをされている……




 「何でだと思うよ?」


 上名はそう言うと電気を消し、部屋は常夜灯に照らされるのみとなった。

 確かに今日起きた、そしてそれに関連する今までのいきさつも、ある程度は納得のいく説明を貰ったと思う。ということは、これからの話は寝る前のお供に相応しい、蛇足的なものなのだろうか?僕はもそもそと布団を被る。


 「何でなんだろうな……ま白さまのことは秘密扱いだったとか?」

 「いや、じいちゃんはそんなルールは作ってないと思う。向こうの人達が勝手に秘密にしたってんなら無くもないが」

 「うーん……何でだろ?」


 僕はそう言って、上名が寝ている方にちらりと視線を向ける。すると、いつになく真剣な表情の友人が目に入る。暗くて、そう見えただけだろうか?


 「いいか、これからする話は誰にもするなよ、正しいかも分からないしな」

 「……あぁ」

 「まず神隠しの件を要約すると、以前はちゃんと祀られていたお稲荷さんが戦争が終わった頃、1箇所に集められるようになる。その管理をしていたのが田神家で、最後までお世話をしてたのがお前のばあちゃんだったってわけだ」

 「……確かに、記憶の中の祖母は車椅子に乗っていたような気がする」

 「それで、お前のばあちゃんが足腰を痛めちまって、お稲荷さん達の世話が滞る。結果、神隠しが発生しだした。これをじいちゃんは、寂しくて遊び相手が欲しかったのかもって、ちょっと濁してたよな?」

 「そうだね。長く遊びすぎると向こうの住人になっちゃうとか」

 「みたいだな。だけどさ、これっておかしくないか?いくら蔑ろにされてたとはいえ、お稲荷さんが恨むとすれば自分たちを押しやった大人だろ?いくら遊びたかったからって、子どもを攫っちまうなんてことはしないと思うんだよ」

 「本人は遊んでるだけのつもりだったけど、それが結果的に……なんてことは?」

 「絶対ないとは言い切れない。だけど、お稲荷さん達だって分かってるはずなんだよ、人の子どもと遊ぶにしても、長く一緒にいると良くないってさ」

 「うーん……神隠しはお稲荷様の仕業じゃないって言うなら、一体他のなんなんだ?前言ってた方位神さまとか?」

 「……」

 「上名?」

 「…………人間だろ」

 「えっ?」

 「考えてもみろよ。もしお前が何かの理由で子どもを攫っているとする。そんな時、周りで神隠しの噂が立ったらどうする?」

 「……利用するだろうね。僕がお稲荷様の状況を知っていれば、それに紐づけたりもするだろう。……待てよ?もしそうなら、お稲荷様の状況を奇貨として……?」

 「真相は分からないけど、そういう見方も出来るってことさ」

 「もしそうなら……嫌な話だね。これで神隠しが止まるなんてことになれば困ってしまうから、ま白さまを蔑ろにしたのも、放置されたお稲荷様とま白さまを結びつけたのも、その誘拐犯ってことになる」

 「あぁ。そして素知らぬ顔で、犯行を続けようとした」

 「でも待てよ。佐々木さんやお前のお祖父様の話じゃ、神隠しは止まったって……」

 「あぁ。佐々木さんは新聞を読んだって言ってたんだろ?じいちゃんの話と合わせても、それは間違いないだろうな」

 「なんでだろう?犯人が飽きたか、それとも改心したのか……」

 「くくっ……お前は本当に優しいな」

 「何だよ……なら、お前はどう考えてるんだ?」

 「いや、なに」



「神隠しにあうのは、何も子供だけじゃないってことさ」


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