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第07話 家主の少女の昔話を聞くゲーマーのおっさん。

 なんとかかんとか主食のどんぐりを美味しくいただくことに成功した我がヒカル・コロニーの面々。

 いや、どんぐりが主食とか縄文時代か!

 ……少なくともうちは縄文時代だった。


 あと、面々っていっても俺一人しかいないんだけどね?

 ジーナさんがいるだろうって?

 彼女は居候先の家主ではあってもコロニーのメンバーではないんだ。


「ていうか、オッサンが毎食毎食こんな甘ったるい物ばっかり食ってたら成人病まっしぐらだわ。

 あとジーナさん、メープルシロップの直飲みは見てるだけでも胸焼けがするから止めて?」


「パパ、食べられる時に食べておく。これが自然の掟」


「そうやって計画性無く食料の消費をしてるからドングリ生活を送らなければならなくなったんじゃないかな?」


「フッ……昔のジーナはドングリだけの食卓でこんなに幸せな気持ちになれるとは思わなかった」


 良くわからない感慨にひたっている縄文娘はさておき。

 そのドングリですら彼女一人分の備蓄しかないわけで。

 それを二人で分け合えば、消費は倍……いや、毎食彼女が俺の三倍は食べてるから、それ以上の勢いで減っていく。


 というか俺達の命綱であるドングリ、あと二、三日で在庫が尽きてしまいそうなんだよなぁ。

 ……これ、もしかしなくとも最初からさ。

 俺が居なくても、ジーナさん一人だったとしても『ひと月持つかどうか』の量しかなかったよね?


 そして甘どんぐりですら辛いのに、それまで尽きてしまえば。

 ジーナさんみたいにメープル直飲みで春まで過ごすとか、オッサンとしてはちょっと勘弁してもらいたいんだけど……。


「ということで。そろそろまともな食べ物を手に入れないとヤバい状況です」


「メープルがあれば五年は戦えるよ?」


「何と戦うつもりか分からないけど無理だからね?」


 とはいえ、ここは雪積もる冬の山。

 畑を耕すことも、山菜や果物を手に入れることも難しい。

 だから俺たちにできるのは、『山で狩り』をするか、『里で交易』をするかの二択となってしまう。


 いや、狩りをするにしても最低限『塩』は欲しいから、どのみち一度は人里に行っておく必要があるんだけどな。

 動物の生き血から塩分を補給するとか、文明人の俺にはキツすぎるもん。


 でもほら、ジーナさん。

 若い女の子がこんな山の中で一人暮らししてるとか……どう考えても訳ありじゃん?

 これまではあえて聞かないようにしてたけど、もし彼女と縁のある里へ出向くなら、事情を知っておかないとトラブルの原因になりかねないんだよね。


「ちょっと込み入った話になるんだけど……いいかな?

 もちろん答えたくないことは答えなくてもいいからね?」


「……ジーナはまだ男性経験は無い」


「そんな話はこれっぽっちも興味ないんだけどね?」


 ……嘘である。なんとなく、ちょこっとだけ嬉しい。

 なにその自分でもそこそこ気持ちの悪い『オッサン心理』。

 そして同居人の女の子にそんな質問をする人間だと思われてるとしたら軽く死にたくなる。


「えっとさ、ジーナさんってまだ若いじゃない?

 それなのに、どうしてこんな山の中で一人、世捨て人みたいな生活をしてるのかなと思ってさ」


「お父さんが死んだから?」


「親父さんが亡くなったのは……予想がついてるんだけどさ。

 それならそれで親戚を頼るとかもできたんじゃないかな? って思って」


 俺の何気ない一言。

 『親戚』という言葉に、ジーナさんの眉がピクリと反応。

 そして、これまで見たことのない表情――あからさまに嫌そうに顔をしかめた。


「うちのお父さんはとてもいい人だった。

 でも……とても馬鹿な人だった」


* * *


 それは、彼女の――彼女の親父さんの昔話。

 ジーナの父親は、『ンシュ村』一番の豪農の跡継ぎだった。

 そんな彼が――田舎で純朴な生活をしていた男が町へ出た時、たまたま一目惚れして嫁に迎えた女性があまり質のよろしくない人間だったらしい。


 ジーナの母親は商人の娘で、甘やかされて育ったわがままな女だったという。

 自分が働くことを何よりも嫌い。

 そのくせ金を使うことが大好き。


 新しい衣服が欲しい。

 珍しい食べ物が食べたい。

 高い酒を飲みたい。


 自分の欲望のままに実家の伝を使って買い物三昧。

 そしてジーナが生まれたすぐ、


『これで嫁としての義務は果たしたわよね?』


 と言わんばかりに、さっさと街に――実家に帰ってしまったという。

 普通なら、そんな娘の行動を彼女の親族が諫めそうなものだが……カエルの親もまたカエル。

 ジーナの母方の親族も彼女と同じく、金に汚い人間ばかりだったのだ。


「こっちで娘の使った金をそちらで払ってほしい」


「こちらの身内に不幸があったので一時的に生活の面倒を見ることは出来ないか?」


「大事な娘の夫なのだからお前は私達の息子だ。

 早くに亡くなったお前の親の代わりに私達に孝行するのが人の道だろう」


 分かるような分からないような、もっともらしい言い訳を並べたて、金の無心を続けるジーナの母親とその親族たち。

 俺からすれば家を出た時点でそいつは他人も同然。

 そんな連中とは縁を切ればいいだけの話だと思うのだが……ジーナの父親はそれでも、そんな女に惚れていたらしい。


 彼は一度も文句を言わず、言われるがままに金を出し続けた。

 しかし、いくら裕福とはいえ、田舎の農家の収入だけでそんな生活が続けられるはずもなく。


 古くからいた使用人たちは「この若旦那ではもう駄目だ……」と見切りをつけ、一人、また一人と去っていく。

 もちろんそうなれば畑を耕す人間が減り、収穫量も落ち、収入も減ってしまう。


 それでも彼は少しでも減ってしまった収入を補おうと、今まで以上に、朝から晩まで働き続けたが……到底、嫁の浪費には追いつかず。

 肉体的にも精神的にも限界を超えていた彼は、ある日とうとう倒れてしまう。


 そしてそんな父親のために、母親が久しぶりに家へ戻ってきたと聞いたとき……ジーナは心から喜んだという。

 もっとも、その喜びは顔も知らない母親――自分の知らない女と会えたからから……などではなく。


 母親が戻ってきたことで少しでも父が心安く生活できるから。

 そして母親が父の看病をしてくれる……そう思ったから。



 しかし――現実はジーナが考えるほど甘いものではなかった。

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