第06話 ゲーマーのおっさん、料理を作る!
『大は小を兼ねる』とも言うし?
おっぱいだって大きな方が……果たして本当にそうだろうか?
大には大の、小には小の、そして中には中の良さがあるのではないだろうか?
しかし改造された特大!
てめぇだけはっ……俺は一体何の話をしているのだろうか?
外見だけなら堅牢な屋敷、中に入ればただの倉庫でしかない新居を手に入れた俺とジーナさん。
そこに台所、『原始的な竈』を設置するため、『木製の石工台』を作成してそのへんに転がってる岩石を……
「岩石の落ちてる場所はマップ表示されてるんだけど、雪の中から掘り出す必要があるとか何の嫌がらせだよ……」
普通に考えれば雪が降ればその下にあるものがうずもれるのは当たり前なんだけどさ! でもゲームだと冬でも普通に拾えたじゃん!!
「これだから現実は……」と、『女性と付き合ったことのないエロゲプレイヤー(物凄い偏見)』のようなことをつぶやきながらも頑張ること半日。
「台の上に石を置いて足で何かをキコキコしてるだけでレンガみたいな形になるとか意味がわからない……」
「もうそのへんはそういうものだと諦めてもらうしかないんだけどね?」
というか俺的にはジーナさんが『レンガ』を知ってたことにビックリなんだけど。
あれ? もしかしてだけど彼女の家が竪穴式住居なだけで、この世界にもレンガ作りの家、下手したら鉄筋コンクリート製のビル……はさすがにないか。
「えっと、ジーナさんはここで暮らして長いの?」
「ん? そろそろ三年半になるから長いと言えば長い?」
……これ、下手に深く突っ込むと、泣き出しちゃうような話になるかもしれないな。30超えて涙腺の緩くなってる俺が。
結局また、まるまる一日かかっての石材加工。
そしてそれを積み上げることにより完成したのが、
「……苦節四日間、やっと完成した竈がこちらになります!」
「普通の人は四日では何も成し遂げられない。
もしかしてパパは魔法使い?」
……それは「どうせお前みたいなおっさんゲーマーはクソ童○だろ?」って意味じゃないよね? 大丈夫だよね?
さっそく竈に火を入れ、鍋でメイプルウォーターを――
「ジーナさん、ちょっとお鍋貸してもらえるかな?」
「いいけど何も入ってないよ?」
「ピンポイントで悲しい現実を直視させるの止めよう?」
だ、大丈夫だから!
これからは俺が頑張っていろんな美味しいものを食べさせてあげるから!
手の樹から桶に集めておいたメイプルウォーターを鍋に移せばいよいよ調理の開始!
……とはいえ、煮詰まるまで延々と鍋を混ぜ続けるだけのお仕事が待ってるんだけどね?
「メープルメープルぐるぐるぐるぐる」
「メープルぐるぐるメープルぐるぐる!」
「メープルメープルぐるぐるぐるぐる」
「メープルぐるぐるプードルぐるぐる!」
「いや、プードルはぐるぐるしちゃダメだろ……」
まるで古き神々を呼び出す呪文のように『ぐるぐる』と唱えながら一心に鍋をかき回す俺と、何が楽しいのか隣に並んで横揺れしながらぐるぐるを繰り返すジーナさん。
なにこれ、技能を使ってるはずなの、思っていたよりも時間が掛かる……あっ出来た。
「……お水がいきなり茶色くなった!?」
「お水はお水だけどメープルウォーターだからね」
「でも何の味もない、木の匂いがするだけのお水だったよ?」
「ああ、いつの間にか味見してたんだ?」
俺が作っていたモノはもちろんメープルシロップ。
もっとも、さすがにこれは直飲みするようなモノでは無いからなぁ。
「何にせよ、まずは味見を」
「味見! ジーナがやる!! ジーナ味見得意っ!!」
「お、おう、わかったわかった」
味見用の小皿などという洒落たモノがあろうはずもなく。
というか小さじはどこ……コップを持ってきたんだ?
じゃあちょっとだけ……ああ、自分で入れたいんだ?
いいよ? はいどうぞ……いや、メープルシロップはそんな、なみなみとコップに注ぐものじゃないからね!?
「甘い!? パパ! これ凄く甘い!!
なんで!? どうして水を煮込んだだけなのにこんな甘くていい匂いのするスープが出来るの!?
食べるものが何も無い時、ジーナも水を煮て食べたことがあるけど何の味もしなかったよ!?」
「うん、煮てたのは水じゃなかったからだね。
あと、ビックリするくらい悲しいエピソードを楽しい話みたいに放り込んでくるの止めよう?
それと、さすがに見てて胸焼けしそうだし体に悪そうだから一気飲みも控えて欲しい……いや、そんな捨てられた子犬みたいな顔をされても……」
不憫エピソードの多い少女のその顔はおっさんに効く……。
「こ、これからどんぐりを美味しく料理するから! ね? ね?」
「……わかった。ジーナはまてる子」
でもメープルシロップを注いだコップは手放さないんだね……。
* * *
「というわけで!
次はこれを使ってドングリクッキーを作ります!」
「どんぐりくっきー! ……って何?」
「ふふっ、クッキーっていうのは小麦粉とバターと砂糖を混ぜて焼いたお菓子で」
……素材がどんぐりとメープルシロップしか無いんだけど?
クッキーのアイデンティティが皆無なんだけど?
「ま、まぁ『為せば成る』ともいうしな!
すぐできると思うから、ちょっとだけ待っててね?」
そう言いながら、ドングリ料理で創造を開始。
……頭の中に完成形が浮かんできたんだけど、これは……。
「最初に熱した鍋にどんぐりを投入します!」
「お水を入れないと焦げちゃうだけで柔らかくならないよ?」
技能があるから大丈夫! たぶん!
「続いて、メープルシロップを回しかけながら、じっくりと転がします!」
「ドングリドングリぐるぐるぐるぐる!」
先ほどと同じように鍋を混ぜ続けること30分。
ドングリクッキーも完成である!!
「パパは何でもぐるぐるするだけで作れる!!」
いや、さすがに何でもは出来ない……と思う。
さっそく出来上がった料理を不揃いの木皿に盛り付け、食卓――はないので、寝床の毛皮の上に座り込み食べてみることに。
「甘い! ほくほく! クッキーって美味しいね!」
「そうだね。皮を割ると現れる黄金色のどんぐりの実、そしてほっくりとした歯ごたえ。
いやこれ、クッキーじゃなくて甘栗……甘どんぐりじゃねぇか!!」