第06話 ゲーマーのおっさん、下から左に受け流す。
「申し訳ありません……。
私に付いてきたところで意味はないと、何度も繰り返し説明したのですが」
困った顔でそう報告してきたのは、北部各地の様子を見るために屋敷を出ていた『スリーマンセルメイド隊』の一組だった。
「あなたが謝るようなことではないのでそのように気にしなくともいいのですよ?
遅かれ早かれ起きる話だったのですから」
先日話した通り、今年の北部の収穫量はどう考えても大凶作。
それを領主に徴収されてしまえば食うにも困るのは目に見えている。
だからといってこちらに来られても困るのだが、助けた娘――村に帰った娘がこちらでは毎日お腹いっぱい食べさせてもらえていたと大人たちに大いに自慢。
五十人ほどもいた少女たちを食べさせる余裕があるんだから自分たちも助けてもらえるだろうと、メイドさんたちの帰路に三十人ほど人間が勝手に付いてきたらしい。
しかも連中、勝手に少女たちを匿っていた屋敷、ンシュ村の領主屋敷に上がり込もうとしたらしく。
ちょうど様子を見るために村を訪れていたヴィオレッタがそれを見咎めて大激怒……。
「あなたたちはいったい誰からどのような許可を得てお父様の持ち物に手を触れようとしているのですか?
……返答いかんによってはぶち殺すぞムシケラども」
と、連中に向かって威嚇射撃。
「ヴィオレッタはちゃんと分別があって偉いね?」
「ありがとうございますお父様」
「待つのです! いきなり銃を発砲してる人間に『分別がある』はおかしすぎるのです!」
「いやだってジーナさんなら威嚇無しで殲滅してますよ?」
「パパ、いくらジーナでも年寄り子どもをいきなり殺したりはしない」
「でもおねえちゃん、「撃つ時はちゃんと体の真ん中を狙わないとダメ!」って怒ってたよね?」
「確かに言ったけど、それは今は言っちゃダメ!」
ふてくされるジーナさんと、褒められてニコニコ笑顔のヴィオレッタ。
「なんだろう、うちの娘達が仲良しさんでポカポカする」
「冷静になるのです! 二人とも言っていることはビックリするほど殺伐としているのです! ほっこり要素なんて皆無なのです!」
「可愛い女の子がキャッキャウフフしてれば話の内容なんてどうでもいいのだ」
「あなたは馬鹿なのか大物なのか判断に迷うのです……」
何故か部屋にいる娘以外の全員が呆れたような顔をしているが気にしてはいけない。
そんなヴィオレッタの剣幕に、さすがに多少は萎縮した連中なのだが、彼らの対応に出ていたのは年若い彼女を筆頭にジーナさんなど、ほんの数名だけ。
多勢に無勢と勢い付き、調子づいた彼らは口々に図々しい要求を並べたて始めたという。
その内容をまとめると、
「じゃあ自分たちはどこで雨風をしのげばいいんだ?」
「子どももいるんだぞ? せめてその子と親だけでも屋敷に泊まらせろ!」
「食べ物がない。ここまで『来てやった』んだから気を利かせてそれくらいは用意して欲しい。
そうすりゃ、この村に『住んでやっても』いいぞ!」
さすがに言い方こそ、そこまで酷くはなかったらしいが、言っていることはなかなかに意味不明で。
「何その押し売りならぬ押し移住……」
「おそらく、こちらが女所帯であり、私が幼くも愛らしい美少女であることから何かしら勘違いしているのでしょう」
確かにそういう感じの擬態――いや、もしかしたらあの幼女ボディは『義体』で、実は中身は……。
「少なくとも送り届けた娘たちは自分を攫った連中を俺たちがどう処理したかを間近で体験したはずなんだけどねぇ?」
それなのにその態度とか命知らずにもほどがあるだろ……。
「どちらにしても厄介この上ないですね。
今は『向こう』の悪評を広めている最中でもありますし、さすがに態度が非常識というだけで全員を処分するわけにもまいりませんので」
「貴族に対してその態度、処罰対象としては十分すぎると思うがな。
もっとも、今は余計な揉め事を増やすのは得策ではないというのも確かだが」
リアンナさんのため息にそうぼやき返したのはアデレードさん。
それでなくともネレイデス本家とややこしくなってる今、そんな連中の相手までしなくちゃいけないのは非常にめんどくさい――
「……いや、そもそもさ。
うちに来たからと言って、うちでとどまらせてやる必要もないんじゃないかな?」
そこで昔――というほど昔でもないが。
『某行商人』が騒ぎを起こした際、これからどうするかの話し合いの最中に説明されたンシュ村回りの地理を思い出した俺。
ここって確かに山に囲まれてはいるけど、行き来が出来る道が領都に抜ける『南の峠』だけというわけではないのだ。
「東に向かうと小さな漁村に抜ける小道があるんですよね?」
「ああ。ただし、あれは獣道みたいなものだからな。
こう大雨が続いた後では地盤もグズグズだろうし、少人数でも危なっかしくて通れないぞ?」
「でも、西側――なんとかいう侯爵様の領地に抜ける道は多少険しいけど軍隊が通ったこともある山道だったはずですよね?」
「西にあるのは『アレストロ侯爵家』の北方領ですね。
途中で水の補給もできないような荒れ道と聞いていますが、地崩れしない程度には堅牢であったはずです」
「なら、『ここはすぐに戦場になる。そんな場所にせっかく頼ってきた民を置くことは出来ない!』とでも言い含めて、全員そっちに回せばいいんじゃないですか?
もちろん道中の食べ物なんかは全部うちの持ち出しになりますけど、いつまでもここに居座られるよりはずっとマシでしょう?」
もちろん役に立つ人間ならば食料の供給をするくらいどうということも無いんだけど……図々しい人間の相手とかしたくないしねぇ?
そんな俺の提案に、顎に手を当ててしばらく考え込むルミーナ嬢。
「……なるほど。確かにそれはいい案かもしれませんね。
わかりました。さっそくこちらで手配を始めましょう。
あなたには申し訳ないのですが……道中の食料の準備だけお願いしてもいいでしょうか?」
「了解です。というか、なんだかんだで毎回ルミーナ様に丸投げで、本当に申し訳ない……」
「ふふっ、気にしなくてもいいのです!
ヒカルはミーナの『旦那様』なのですから!」
「違うよ? ちびっこはジーナのママだけど、パパのお嫁さんじゃないよ?」
「何なのですかこの父娘は!?
父親と同じくらい娘の言ってることもわけがわからないのです!!」
というかにこにこ笑顔のルミーナ嬢。
その顔に妙な迫力があるように思えたのは気のせいだろうか?
* * *
~ヒカルが風呂に向かった後の広間~
「……お母様。お父様はああおっしゃっていましたが、私はあのような連中に――お父様やお母様の善意を平然と踏みにじるような輩にそこまでしてやる義理はないと思うのですが」
さっきまでの無邪気な笑顔はどこへやら。
感情の読めない無機質な表情で淡々と語るヴィオレッタに、
「もちろん、私もそう思っておりますよ?
親切を都合よく利用するような人間は、いずれ必ず裏切りますからね」
ヒカルには決して見せない冷えた目でルミーナがそう返す。
「……ご命令いただければ道中で全員始末いたしますが?」
「ふふっ、そのような必要ありませんよ?
私に良い考えがありますから」
口元だけで笑みをつくり話を続けるルミーナ。
「それに、ヒカルはあの娘――ジーナだけでなく、あなたもそばにいないと心配しますからね?」
「お母様……私のような穢れた体の娘にそのようなお言葉……ありがたい限りでございます……」
頭を垂れるヴィオレッタの横で、ルミーナはリアンナへ目を向ける。
「リアンナ。あの者たちは領主の許可なく、村から勝手に出てきた者たち。
つまり『逃散』した人間、これに間違いは無いですね?」
「はい、お嬢様。本人たちの口からも『こちらの村で世話になりたい』という趣旨の発言を確認しております」
「王国法では、逃散した者はこれを捕らえて『農奴』とすることを認めておりましたね?」
「はい。治安維持の観点から各領主にそれを認めており、奨励もされております。
ただし、売却益については出身地の領主との折半という決まりもございますが」
「ふふっ。ということです。
……彼は、こういう手段は好みませんから……ここだけの秘密ですよ?」




