第01話 『不良債権の整理』から始めるゲーマーのおっさん。
『侯爵家使節団によるンシュ村襲撃』
行軍中の素行不良――立ち寄った村や町での略奪まがいの振る舞い――もあってか、世間では『ネレイデス家新当主旗下の男爵家三男による蛮行』として知られ始めている今回の事件。
もちろん、その噂を広めているのは『ルミーナ嬢の手勢』なんだけどさ。
俺たちヒカル・コロニーにとっても、正規の軍隊相手の初めての戦闘だったんだけど……。
蓋を開けてみれば、何の統率もとれていない烏合の衆相手に怪我人を出すこともなく勝利。
さすがに『村人(のフリをした山賊連中)』や『(嫉妬でブチギレた)行商人』が襲ってきたときと同じとは言わないが、苦戦することなく、あっさりと殲滅することが出来た。
――とはいえ。
戦闘が起こればその後始末の必要があるわけで。
彼らの蛮行の被害者である、攫われてきた少女たちの扱いに少々困っていたり。
年若い、五歳から十五歳までの娘さんばっかりで五十人もいたからね?
ヒカル・コロニーの三倍、村に残っている人間とほぼ同じ人数になるのだ。
「お話というのは、そんな彼女たちに対する村人の反応のことなのです。
最初は同情からか、それなりに親切にしていたようなのですが……」
夕食後、リアンナさんが困り顔で切り出す。
「なんと言いますか、働きもしない彼女たちの食事の面倒を我々が見ているのが気に入らないらしくて」
「あー……」
自分たちは毎日朝から晩まで汗水垂らして畑仕事……してるのか? 知らんけど。
その隣で、見ず知らずの他人がお上の施しで食っちゃ寝してたら、そりゃ文句の一つや二つ出てくる……。
いや、そもそもそいつら、まともに税も納めて無いんだよな?
「ヒカルさんが世話役に任命した『アニス』と『コリン』……でしたか。
彼女たちは不満も言わず、懸命に手伝ってくれていますが」
アニスとコリン。
村の男どもを返り討ちにした直後から友好を示してくれていた『青色ポーン』の二人。
通称『青ポーンちゃんズ』である。
まぁ以前は『反抗的(薄い赤色)』だった村の連中も『戦場の後片付けを任せて(穴だらけの血まみれで転がっている死体を見て)』以降は、だいぶ『しおらしく(白ポーンに)』なってるんだけどね?
「村の女たちにしても、自分たちと似たような境遇だからこそ、その扱いの差が気になって仕方ないのでしょう」
とはルミーナ嬢。
もっとも、その顔はこれと言って興味もなさそうだが。
すでに村の人間に対して『あなたたちなど必要ありません』宣言済みだから仕方ない。
「そもそも我々がここに来た時点で、協力しようともしなかった連中が、どの面下げて文句を言っているのか」
そんな彼女の後ろで、腕を組んで不満顔なのはアデレードさん。
「生活に足りない食料や道具だって、ヒカルの気遣いで面倒見てやってるいるというのに、それでもまだ文句があるのか!」
これでもそれなりの気遣い……俺の命やジーナさんの貞操を狙った人間の身内に対して、女子供と老人しか残ってないからと言うことで、多少なりとも配慮してたんだけどねぇ?
感謝しろとは言わないが、その結果がコレというのは……。
「……むしろ、余計な面倒を見たから舐められてるのか?」
「その考えも否定はできませんね。
それに、不満を持っているのは村の人間だけではないようで」
「こちらはマップ画面で『色』を見ての判断になりますが」と、リアンナさんが話を続ける。
実際、攫われてきた女の子たちのうち、十人ほどは『薄赤ポーン』なんだよな……。
逆に、死んだ兵士の頭蓋骨を石で叩き続けてた『ホラー少女』みたいに、『濃い青』の子も五人ほどいるけどさ。
「戦闘に巻き込んだのはこちらの都合とはいえ、ミーナたちを逆恨みするのは筋違いなのです!」
「あー……」
たぶんだけど、ルミーナ嬢やジーナさんと自分を比べて、
「自分はあんな目に遭わされたのに、あの人たちは……」
などと思ってしまうのかもしれない。
……もちろん彼女たちの、そんな気持ちも分からなくもないが。
加害者の男たちはそれこそ全員処理済みだし、連中がやったことの責任を俺たちに求められても困るわけで。
「……いつまでも彼女たちの世話をする義理もありませんし。
この際、村の人間ともども、きっちり線を引いてしまいましょうか」
* * *
思い立ったら即行動――というほど腰が軽いわけでもないが。
面倒事は早めに片付けるのが精神衛生的にも良いからね?
その日のうちに、村まで出向くことにした俺たち。
村の広場……という体の、ただの空き地に村人たちと保護していた少女たちを集め、少し長めの説明を始める。
とはいえ、内容はたったの二点。
・少女たちを、それぞれの家に送り返す。
・ンシュ村を廃村とし、新たに『ネレイデス侯爵家北方鎮守府・府都ジニアス』を建設する。
「ちなみにジニアスというのは――」
「ふふっ、わかっているのです!
ミーナが天才という意味なのです!」
「ジーナさんの名前から取りました」
「どうしてそうなるのです!?」
「もちろん、うちの娘がこんなにも可愛いからですが?」
「死ねばいいのになのです……」
本来のジーニアスの意味、守護神や守護霊としての意味合いもあったりするんだけど、異世界で『ラテン語では――』とか言ってもわからないだろうし?
「っと、今はその話は置いておいて。アニス! それにコリン!」
「「はいっ! 天使……ヒカル様っ!」」
妙な呼ばれ方をされたが、聞き返してもろくなことにならない気がしたのでスルー。
「いきなり彼女たちの世話を押し付けて悪かったね?
そのご褒美――というのもなんだけど、もし嫌でなければ、うちでメイド見習いとして暮らしてもらおうかと思ってるんだけ」
「「よろこんでっ!!」」
「お、おう……」
まるで居酒屋店員のように元気よく、食い気味に飛び出す返事と満面の笑顔。
……その背後でホラー少女が目を見開いてこっちをガン見してるのがめっちゃ怖いんだけど?
続いては、新たな領民の選抜。
前に出たアデレードさんが、俺の代わりに発表を引き継ぐ。
「それでは新しい『府都』の住民として受け入れる者を発表する!」
およそ五十人ほどの村人の中で、彼女が名前を挙げたのは十七人だけ。
選考基準は、『最初から我々に明確な害意を持っていなかった者』であること。
アニスとコリンももちろん含め、しばらくは行動制限を設けた上で、農作業、伐採、採掘、建設などの作業に従事してもらう予定だ。
……まぁ、最初の任務は『保護していた少女たちを各地に送り届けること』になるんだけどさ。
「引っ越しなどは、新しい家が建つまで待ってもらうことになるが。
ああ、もちろん領民になりたくないなら断っても構わない。
何か質問があるなら聞こう」
彼女がそう締めくくった途端、あちこちから上がるざわめき。
「なっ、名前を呼ばれなかった私たちはどうなるんですか!?」
「好きにしろ。
ただし、許可なく府都に近づいた場合はその時点で殺す」
あまりにもあまりな彼女の返答に、さらに広がる怒りの声。
「ふざけるな!!」
「領主のくせに村人を捨てるのか!!」
「私たちに死ねと言うのか!!」
などと口から泡を飛ばしながら叫び始めた『元』村人たち。
『パァァァン!!』
その足元に向けて銃を発砲したのはリアンナさんだった。
「……静かにしなさい。
そもそも、あなたたちの意見など初めから求めてはいません」
まさか自分たちが攻撃されるとは思っていなかったのだろう。
ようやく事態を理解した村人たちの顔が青ざめていく。
「い、今ある村は……どうなるのでしょうか?」
「年内には更地にする」
俺たちの本気をようやく察したのか、沈黙する村人たち。
そんな中、声を上げたのは――




