第44話 お屋敷のみんなが一致団結しているのは『アレ』のおかげだったらしい。
ルミーナ嬢から――いや、伝えられたのはアデレードさんからだったけれども。
王都からンシュ村にやってくる一団を『どうにか』して欲しいというお願い。
もしこれが『命令』だったら反発したかもしれないけど……面識のある幼女に変態の魔の手が伸びるのを放っておくのは大人としてどうかと思うし?
てか『面識のある幼女』という、日本で成人男性が口にするだけで人間性を疑われそうなパワーワードよ……。
とはいえ、相手は侯爵家の『上意』を受けた正規軍である。
すでに本流とは見なされていないルミーナ嬢に、交渉の余地なんてあるはずもなく。
「一応確認しておきますが、俺に任せるってことはお家と袂を分かつ……いや、相手とはもともと相容れない関係みたいですしちょっと違いますね。
鬱陶しいババアに喧嘩を売って、何の役にも立たない王家にも冷水をぶっかける。
そうなっちゃいますけど、構いませんね?」
「それでいいのです!
ミーナは変態の嫁になどなりたくはないのです!
そしてそれを押し付けてくるような連中ともこれ以上関わりを持つ気はありません!
……でも、さすがに勝算がないのは困るのですよ?」
迷いなく、きっぱりと答えるルミーナ嬢。
「なら結構です。ククッ、これまでは多少なりとも自制していましたが……ここからは全力を出しましょう」
「……笑顔がとても邪悪なのです……」
……もしかしてこの前『悪魔』呼ばわりした意趣返しかな?
「もちろん勝算……まぁのこのこと出てきた連中を各個撃破して相手をすり潰していくだけなんですが。
最終的に『勝ち』のラインをどこに定めるかにもよりますね。
たとえば、一番シンプルなのは『死なない』こと」
死ぬまで――死んでもゲームが楽しみたい俺的には究極の勝利である!
「これは至極簡単です。
拠点を山の奥地へ、奥地へと移していけばそのうち相手が諦めます。
問題は人里からどんどん離れていきますのでかなり寂しい――今の生活とそれほど変わらない気もしますね……」
「確かに今でも他所との接点などほとんどありませんからね。
というか、ものすごく地味な作戦なのです……」
「『死なない』ことに特化した専守防衛の作戦ですので。
でも……それじゃ面白くないですよね?」
「ふふっ。十数人で侯爵家を――国を相手に戦おうというのに、『面白くない』ですか?」
「いやいや、面白いかどうかはとても大事ですからね?」
まぁゲーマーなんて生き物は、どんな縛りプレイでも楽しめる『自縄自縛体質』しかいないんだけどな!
「それに、そう言うルミーナ様だってずいぶんと良いお顔をされてると思いますよ?」
「……そうですね。
吹っ切れてしまえば、これほど気楽なことはないのです!」
ということで。
そこから喧々囂々侃々諤々の結果出された俺達の勝利条件は、
『ルミーナ嬢のお父上の仇討ちを果たす』ということ。
「それは……私にとっては最上の結果ですが……。
ですが、それではあなたに何もメリットがないのではありませんか?」
「そんなことありませんよ?」
そもそも俺は、死んでもゲームがしたくて『プラグイン』した人間なのだ。
好き勝手に『生きて(ゲームして)』、自分のコロニーを広げられれば他にやりたいことなんて――
「……いや、さすがに老後に一人ぼっちは寂しすぎるし。
できれば奥さんは欲しいかも?」
「いらないから! パパの面倒はちゃんとジーナが見るから!!
大きくなったらジーナがパパのお嫁さんになってあげるから!!」
娘の『パパのお嫁さんに』発言ほど当てにならないモノは無いんだよなぁ……。
というか、ジーナさんはそれ以上の成長は……希望を持つのは大事だもんね?
「……いいでしょう。
それでは、事が実った暁には私が――」
「あっ、それはいらないです」
「なんでですか!?」
いやだって、『変態』との結婚を回避するために動いてるのに、事が終わったら『変態(生粋のゲーマー)』と結婚するとか意味わからん……いや、俺は害のない変態だから問題はないんだけれども!
何にしても九歳児の嫁とか世間体が悪すぎる……。
* * *
方針さえ決まってしまえば、あとは行動あるのみ!
……ではあるんだけど。
これからやろうとしてるのは、侯爵家――ついでに国を相手の大喧嘩。
そんなことに加担したとなれば当人だけではなく、親兄弟から親戚七代くらいまで吊るされても文句は言えないわけで。
「天涯孤独のルミーナ様はともかく、リアンナさんやアデレードさん、それにお仕えしてる皆さんは大丈夫なんですかね?」
「大丈夫かと聞かれれば……まあ、大丈夫なのではありませんか?」
「そうだな。私やリアンナに限らず、お嬢様に付いて王都を出た時点で、実家からは三行半――絶縁状を叩きつけられているからな!
他の使用人たちも、旦那様や大旦那様が身寄りのない者を拾って育てたような者ばかり。本家とは縁が薄い連中ばかりさ」
「もっとも、今のあの男……いえ、『あの女』が家のことに口を出すようになってからは、そうした慈善や奉仕に掛けていたお金も全部、自分たちの贅沢に消えるようになりましたが」
……なるほど。
いやでも、いくら彼女たちに後腐れがないとはいえ、ルミーナ嬢への多少の恩義だけで命がけの反乱に付き合ってくれるものなのだろうか?
「そのあたりも問題ありませんよ?
屋敷の皆、ヒカルさんの料理と『アレ』にガッチリ心を掴まれてますから。
といいますか、今では全員が『姉妹』のように団結しておりますので。
……出来ればもう少し『アレ』や『ソレ』をたくさん納品していただければ、順番待ちが解消されますのでありがた……皆喜ぶと思いますよ?」
「アッ、ハイ……」
ちなみにアレやソレというのは、ルミーナ嬢がうちに来たときにメイドさんたちが持ち帰った手動こけ――ゴホン。
工芸品とその改良版のことである。
「……いやいやいやいや!! 一瞬流しそうになっちゃいましたけど!!
さすがにあんなモノのために命を張る人なんていないでしょ!?
少なくとも俺だったら、あんなモノの何倍も丁寧にねちっこ――ゴホン。
……その量産、そしてさらなる改良を約束いたしましょう」
「ふふっ、ちゃんと伝えておきます。
これで彼女たちの士気も、ますます高まるでしょう。
……あと、私の部屋の鍵はいつもあいておりますので」
――後日知った話なんだけど、この世界の男というのは、ことセッ……行為に関して非常に自分勝手らしく。
教会の教義を曲解して『快楽は罪』みたいな結論に至った結果、行為の最中に相手に痛みを与えることこそが正義だと信じている、『なんちゃってサド男』がやたら多いのだとか。
そもそもSMってのは、「Mをいじめる遊び」だと勘違いされがちだけど……。
本当はS、つまり主導権を握る側が、いかに相手を気持ちよくさせるかを追求する『究極の奉仕』なわけで――うん、びっくりするほどどうでもいい話だなこれ。




