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第42話 パソコンは定期的に再起動するゲーマーのおっさん。

 深刻なのか呑気なのか。

 困っているのか、それとも余裕なのか。

 今日のルミーナ嬢はどうにも掴みどころがない。


「いずれにせよ、あと半月もすれば『自称ネレイデス本家』の使節団がこの屋敷にやってきます。

 ……ロウリーウ男爵家の三男を連れて」


 なにその、サウナでタオル振り回してそうな名前。

 ていうか、四十過ぎて『令息』って。

 それもう『異世界子供部屋おじさん』じゃね?

 そんな、ある意味『心に響きそうな』ファンタジー作品、俺だったら絶対に見たくねぇわ……。


「わざわざ遠いところをご苦労さまなことですね。

 ……それにしても、『それなりの人数』とはいったい?

 まさか攻城兵器を引っ提げた一万人規模の兵団とか言いませんよね?」


「あなたは私を国家反逆者か何かと勘違いしていませんか!?

 そもそも、ネレイデス家の全兵力をかき集めたとしても三千に届かないのです!」


「ははは! まぁ多く見積もっても五十人というところだと思うぞ?」


 横からさらっと補足してくれたのはアデレードさんだった。


「だってほら、ルミーナ様が『それなり』なんて大げさに言うから。

 それくらい、うちに強盗に来た村の男連中に毛が生えた程度じゃないですか」


「まったくお前は。

 相手はまがいなりにも毎日厳しい……

 のんびりと訓練を……

 受けている人間だっているかもしれない騎士たちだぞ!?」


「まとめるとほとんど何もしてないってことじゃないですか……」


「いや、侯爵領内に居る人間はそれなりに頑張ってはいるんだ! ……たぶん。

 しかし、王都に居る連中はなぁ……暇さえあれば街に出て商人に小銭をせびるようなヤツラもそれなりの人数いたからな」


「何もしてないより厄介じゃないですか……」


「ネレイデス侯爵家の名誉のために言っておきますが、お祖父様やお父様がご存命の時はそのような人間は――少数しか居なかったのですよ?

 それがあの女……の息子が当主となってからは自分たちにおもねる人間ばかり傍に置き、諫言するような人間はあるいは遠ざけ、あるいは私のように僻地に追いやってしまいましたが」


「それもう自分の首を絞めているだけでは?」


「少しまともな人間ならそう考えるでしょうが、そもそも『少しまともな人間』なら暗殺、お家乗っ取りなどしないのです」


 ごもっともな話である。


「……もう一年前の話となりますが、私がこちらに連れてこられた時もそれなりに酷いものでした」


「お嬢様、あの時は村の村長が率先して連中の歓待をしておりましたので」


「ハハッ、盛りのついた犬みたいにあちらこちらでヤッてやがったな!」


「アデレード、笑い事ではありませんよ?

 ……いえ、当時の私も、笑うことしかできませんでしたが」


 昔話なんかだと、こういう人の行き来の無い村では『血が濃くなりすぎないように』と、外から来た旅人に嫁をあてがう風習があったりするけど……この村の場合、定期的に『外から攫って』きてたみたいだからなぁ。


「はぁ……まったく、あの馬鹿は……。

 死んでまで私に迷惑をかけるのです」


 幼女らしからぬ憂い顔で、深いため息をつくミーナ嬢の言葉を、リアンナさんが引き継ぐ


「愚かなことに、この領では一度、『そういう前例』を作ってしまいました。

 今回も同じ人間が来るにせよ、話を聞いた別の者が来るにせよ。

 その連中は『また同じ扱いを受けられる』と思い込んでいることでしょう」


「しかも今回は、前よりも人数が多いだろうからな!

 村の女だけじゃなく、この屋敷の者までどんな目に遭わされるか……!」


「いや、少なくともアデレードさんは自分でどうにか出来……いえ、なんでもないです」


 むっちゃ睨まれたんだけど……その眼力だけで、半分くらいの男は萎縮するんじゃないだろうか?


「……というわけで、どうにかなりませんか?」


 まさかの、いきなりの丸投げ!?


「どうにかも何も、そんな連中に関わってもロクなことにはならないでしょうし。

 いっそ、逃げちゃえばどうです?」


 ……

 ……

 ……


「……なんで、全員そろって口半開きで固まってるんです?」


「その発想は……無かったのです!?」


「なんでやねん」


 ……とも言い切れないのがなんともなぁ。

 日本でだって『逃げるのは恥ずかしい』的な風潮が長いあいだあったし。

 むしろ、学校で率先して逃げること、投げ出すことを教えるべきだと思うんだけどねぇ?


「……でも、それは無理な話なのです。

 ミーナのように、可愛いだけが取り柄の幼気な少女は、国を離れたら一人では生きていけないのです……」


「フッ、ちびっこも新しいパパを拾ってくるといい!」


「そんなモノは普通落ちてないのです!!」


 いやルミーナ嬢は、どこへ行っても余裕で生きていけるタイプだと思うんだけど……。

 むしろ隣国に落ち延びたあと、数年で軍を率いてこの国を攻め滅ぼすくらいは平気でやりそうだと思うのは俺だけ?


「まぁ、『お家が大事』とか、『お供の皆さんが心配』とか、思うことは色々あるでしょうが。

 ああ、ルミーナ様のことですから、当然『愛国心』なんてものはお持ちでは無いですよね?」


「あなたはミーナを何だと思っているのです!?

 王家を思う気持ちくらいはもちろん……といいますか、あなたにとって王家とはいったいどのような存在なのです?」


「どのようなと聞かれましても……俺、平民ですしねぇ?

 『まったく関係ない存在』であり、『関わり合いになりたくない存在』以外の何物でもないですが」


 これでも俺、ちゃんと納税もしてた日本国民だし?

 見ず知らずの異世界王族とか、知ったこっちゃないもん。


「そこまでハッキリ言われると、むしろちょっと清々しいのです……」


「そもそも君主制の『王家』なんて、その地域の豪族の代表でしかないでしょう?

 ルミーナ様の場合なんて、誰が見ても分かるような『お家騒動』が起きてるのに、その代表が何の手も差し伸べようとしない。

 つまり、『王家にとって、貴族なんてその程度の存在』だと自分で言ってるようなモノじゃないですか?」


「……少し極端な意見ではありますが、間違ってはいないのです。

 といいますか、あの女は自身が王弟の孫なので、こちらの言い分などすべて握りつぶしているのです」


「だったらそんな連中のことなんて忘れて……って、随分と話がズレてしまってますね。

 つまり俺が言いたいのは『もっと自由に生きようよ!』……あれ? 何か違うような?」


「そんな話はまったくしていなかったのです!

 王都からくる連中をどう処理するのかの話なのです!」


「さすがにそれを俺に聞かれるのは……。

 もういっそのことその言葉のままに『処理』しちゃえばどうです?

 少なくとも、俺なら家族が……ジーナさんが危険にさらされることになりそうなら、その気配があるだけで殲滅しちゃいますけど?」


「ジーナもパパに何かしようとするような奴は撃つ!!」


「思っていた以上に無茶苦茶な人たちなのです!?

 ……でも、ちょっとだけうらやましいのです」


「フッ。ちびっこ、パパの娘はジーナ限定!」


「いや、別にそんなことは無いんだけどね?」


「フアッ!?!?」


 だって、もしかしたらお嫁さんをもらってジーナさんに妹が出来るかもしれないし……。

 あっ、ルミーナ様(が娘になること)は無いです。

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