第40話 『ふごふご』されるゲーマーのおっさん。
またまた時間は流れて、四月も半ば。
思わぬところ――まぁルミーナ嬢以外に知り合いなんて居ないんだけどさ。
「『例のアレ』がこちらに持ち込んでいた売り物の荷物のことなのですが。
出どころの怪しい食料などいりませんよね?」
「そうですね。すでに麦や米などの主食も作ってますから。
これといって必要はないですね」
「普通、『作り始めた』というのは『まだ育っていない』という意味なのです……。
必要ないという判断には至らないはずなのです……」
「フッ、ちびっこ。
おコメは生だと『おコメ』だけど、料理すると『ゴハン』って名前が変わる!
あと、ふかふかのショクパンと同じくらいおいしい!」
「クッ、またこの娘は食べ物自慢を……っ!
うちにだってふかふかのパンくらい……というかショクパンとは何なのです?」
優越感たっぷりに腕を組み、背中をのけぞらせながら見下ろすジーナさんと、悔しそうにそれを見上げるルミーナ嬢。
「他にも織物や包丁などもありましたが……。
というか、その娘が着ている服はいったい何なのです!?
シルク……ではなさそうですが、高級な赤ワインのような深い赤に、薔薇の花弁のような質感とか見たことがない素材なのです!」
「ふふっ、うちの娘の今日のファッションに気づいてしまいましたか?」
「この男は相変わらず……その娘のことを語る時はずば抜けてウザいのです……」
「これ、ベルベットとかビロードとか呼ばれる布なんですけどね?
冬は白をメインに、可愛らしさを前面に出したコーディネートにしてたんですが、季節はもう春ということで!
ちょっとシックに。少し背伸びした少女の愛らしさといいますか、彼女にしか出せない清楚と妖艶の間を演出してみました!」
「いえ、私が聞きたいのはその娘の感想ではなく、その布の出どころ――まあ、どうせ自分で作ったのでしょうけれども!
あと、毎回毎回その娘の服を見せびらかされてるのです!!
それならそれで、私の分も持ってくるとか無いのです!?」
「お嬢様。先ほど私が、同じ素材でできた……がーりー? な、わんぴぃす? というものを頂いておりますので」
「だからどうしてあなたは、家主ではなくメイドにばかり贈り物をするのですか!?」
……いや、今は服の話とかどうでもいいんだった。
そのときに、『例のアレ』が持ち込んでいた貨幣――まあ大した額じゃなかったんだけど、それをもらってさ。
なんとかかんとか、10個ほどではあるけど『真空管』が完成したわけだ。
作りたいものはいろいろあったんだけど……まずはやっぱり火力から? というわけで!
『ライフル』を『アサルトライフル』にバージョンアップ!
しかも外観は『某16系』ではなく! 甲殻類がドンパチやってる『新(言うほど新しくない)アニメ版』に出てくる『シュレ○ディンガー』っぽいやつだからな!
……弾切れしないアサルトライフルという、某ゾンビゲーのエンドコンテンツみたいな武器ができてしまったわけだが。
これで終末世界も安心だな!
――まあ、俺が暮らしてるのは異世界の限界集落なんだけどさ。
そんな、火力というか戦闘力だけが突出して高くなっている我がヒカル・コロニーではあるが、もちろん他の分野だってかなりの進化をしている。
まずは畑。
『野菜じゃなくて綿花なら野生動物に荒らされないだろ、知らんけど』
の精神で、壁の外側に植えた大量の綿花が無事に育ち。
先ほども出てきたけど、足踏みミシンをキコキコするだけで『ベルベット生地』だけではなく『パイル生地』だって作れるように!
タオル、バスタオル、そして湯上がりに羽織るガウンまで揃い踏み、お風呂関連が大いに充実した!
「……ジーナさん、ガウンを羽織ったからと言って下着をつけなくて良いわけじゃないからね?」
「寝る前にちゃんと着替えるから大丈夫だよ?」
確かにそうだろうけれども!
俺が言いたのはそういうこっちゃないんだよなぁ……。
「ふごふごふご……パパの使った後のバスタオルは、すこしだけ」
「この娘は一体何をしてくれてるのかな!?
あと、『少しだけ』の先は言わなくていいからね!?」
もちろん、綿がいっぱいあるからお布団だって――
「ふごふごふご……パパの使った後のマクラのカバーは、すこしだけ」
「とりあえずなんでもかんでも嗅ぐのやめようね!?
ほら、もし俺がジーナさんのお布団に潜り込んでくんかくんかしてたらどう思う?」
「『パパはジーナの匂いが嗅ぎたいのかな?』って思う!」
……まっすぐ育ってくれているようでなによりである。
というかさ、料理もそうなんだけど、畑で育てられる作物。
たぶんだけど……俺の知識がゲームでいう『MOD(改造、追加データ)』みたいな扱いになってるっぽくて。
またまた農作物の話になるんだけど、スイカとかメロン、米とか麦なんかは、実際に食べたこともあるし、育ってる姿も見たことあるじゃん?
だから、どの程度『知っていれば』生産可能なのか試してみたんだけど。
・林檎・梨・蜜柑・桃
普通によく知ってる系。
いけた。
・葡萄
ぶどう狩りはしたことあるけど、細かい品種はよく知らない系。
デラウェアや巨峰、マスカットの種類まで指定できた。
・マンゴー・バナナ・パイナップル
たぶん旅行先で見たような……な曖昧系。
いけた。てか『パイナップルって木になると思ってたら、畑に生えるんだ!?』ってびっくりした。
・カカオ・キウイ・ライチ
テレビや写真で見たことある気がする系。
いけた。ちょっと驚いた。
・パパイヤ・スターフルーツ
食べたかどうかも怪しい、名前だけは知ってる系。
無理だった。
……思った以上に作れるものの幅が広くてびっくりした。
ん? 名前しか知らないものは作れないのに、アニメに出てくるアサルトライフルが作れるのはおかしい?
……なに言ってんだ?
お前んちの本棚にも、武器関係の本くらい山ほどあるだろ?
そもそも好きなアニメの設定資料くらい、読み込んでて当然だし?
名前しか知らないなんてあり得ないし?
普通は実物だって押し入れにしまってあるよね?
あれだよね?
素材さえあれば、機動兵器くらい普通に作れる程度の知識はあって当然だよね?(ここまで早口)