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第04話 ゲーマーのオッサン樵になる!

 防寒具を借りたとはいえその効果は、


「なんというか、焼け石に水というか乳首に絆創膏というか」


 寒いものは寒いのである!

 せめて、せめてUNISHIROのダウンジャケットをっ!

 ……などと無い物ねだりをしてるほどの余裕も無いので、さっそく極寒の雪山で木材の伐採作業に入る。


 とはいえ、竪穴式住居の近くに生えている『手の樹』を一本だけ指定、自分自身に伐採指示を出した……んだけどさ。


「ははっ、なにこれ、体が勝手に動き出したんだけど!?

 あはっ、あはははは!! なにこれなにこれ!! むっちゃ気持ち悪い!!」


 たとえるならば手足が痺れている――いや、全身麻酔の状態での強制二人羽織か?

 いっさい力をいれていないのに勝手に動く体に思わず吹き出してしまう。

 もちろんジーナさんには怪訝な目でみられているが、気にしたら負けである。


 はや歩きで数秒の場所にある樹の根元。

 寸分の狂いなく、同じ場所に石斧を打ち込み続ける。


「……いやこれ、全然伐れて無いんだけど?」


 作業がまったく進んでいるように見えないが、そこは技能が作用していると思いたい。

 吹雪はしていないがしんしんと雪降る中、樹に斧を叩きつける『コーン、コーン』という軽やかな音だけがこだまする。


 もちろん、こんな寒い場所でジッとしていたらすぐに体調不良バッドステータス――『低体温症』や『凍傷』になってしまうので、自分の体調を確認しながら『オート進行』を解除。

 何度も小屋に戻って体を温めながらの作業となるのだが。


 ……ゲーム内での体調不良ってポーンの死亡に直結するからね?

 『重度の低体温症』なると意識不明になるし、『重度の凍傷』にかかってしまえばその部分がもげ落ちてしまうという。


 何度も『軽度』の症状にかかりながらも、その都度小屋に戻って焚き火に当たるを繰り返し、数時間かかってなんとか一本の『手の樹』伐採が完了した。


「あんな太い木、お父さんでも何日もかかって伐り倒してたのに……さすがはパパ!」


「パパではないけどね?」


 いや、突っ込むのはそこじゃないと思うんだけど……。

 石斧で叩き続けてただけで切り屑が出るわけでもなく。

 樹が倒れるときも倒木音が響き渡ることもなく。

 樹の切り株の回りに『人の腕ほどの太さと長さの丸太』が大量にバラ撒かれただけなんだよ?


「これ、他の人が見てる前ではやっちゃダメなやつだ」


 もっとも、ここにはジーナさんと俺しか居ないし、何かを自制することはないんだけどな!


「はっ、あはっ、あはははははは!! なにこれ楽しい……。

 もうこれフルダイブMMOだろ!?」


 ただ現実世界で樵をしただけ?

 いやお前、樵は石斧で木は伐らないだろ……。


 伐り倒した手の樹から回収できた木材はおおよそ250個。

 これが多いのか少ないのかはまったくわからないが。


「さっそくではありますが!

 これより新しい焚き火の作成および点火式始めたいと思います!」


「おー!!」


 無駄にテンションの高い俺とジーナさんである。

 先ほどと同じように頭の中で『作成・焚き火』と妄想……思考すればすぐに目の前に現れる『透明な焚き火アイコン』。


 それを設置したい場所、ほとんど燃え尽きかけている囲炉裏の場所に重ね合わせ、脳内で左クリック。

 先ほどと同じように体が勝手に動き出し、木材の運搬、(いつの間にか加工されていた)薪を円形に並べたかと思えば、火種もないのにそれに火が点る。


「パパすごい! なにこれ明るい! すごい暖かい!!」


 途端に小屋の中に広がるオレンジ色の光。

 冷蔵庫の中かと思えた室温が、ものの数分で15度……20度……25度ちかくまで上昇してゆく。

 先ほどまで燃えていた『普通の焚き火』と見た目はなんら変わらないのに、その暖かさと明るさはまるで別物だった。


「ふっ、これが製作スキルの力……。

 どうやら暖房力の圧倒的な差を見せつけてしまったみたいだな」


 というかこの焚き火。

 明るさとか暖かさ以外の部分も意味のわからない高性能な代物で。


 煙も煤も一切出ない、締め切られた空間でも燃え続ける――酸素を消費もしない、二酸化炭素が発生することもないのは序の口。

 設置した場所がフローリングだろうがカーペットの上だろうが、燃えたり焦げたりすることも一切なし。


 とうぜん建物……壁や天井に燃え広がることもなく、野外……大雨大雪の中でも消えることがないという完璧仕様。

 ゲームの中では薪をくべることなく『二日間(ゲーム内時間で考えると実質二週間)』も燃え続けるという、石油ストーブが裸足で逃げ出すような燃料効率なのだ。


「温かい……明るい……温かい……」


 焚き火にそっと手をかざしながら、まったく語彙力のない呟きを繰り返すジーナさん。

 というか……むっちゃ眠くなってきたんだけど……。

 樵仕事なんていうまったくやったことのない労働による肉体疲労。

 さらに真冬にガンガンに暖房を焚いているという背徳的な心地良さ。

 それでなくとも病み上がりというか一度死んだこの体。


 うつらうつらと横揺れ、縦揺れする俺。

 ……てか臭っ!? なんだこれ!?!?

 あっ、ジーナさんがいつの間にかもたれかかって来てただけか。


 見た目はオッサンが近づくことすら憚られるほどの美少女原始人なのに……いや、原始人ではなく現地人だった。


「……とりあえず次は風呂……まずは洗濯から試してみるか?」


 そう、彼女のドブみたいなこの臭いさえなくなれば!

 俺だって優しく抱きしめてあげることもやぶさかではないのだから!

 ……無駄に上から目線の俺であった。


* * *


 そこからどれほどウトウトしていたのか。

 マップ画面で時間を確認してみると、


「21時半か……」


 自分が横揺れを始めたのが何時からなのか知らないので、どれだけ時間が経っているのかは不明なのだが。


「てか、普通に腹がへったな」


 部屋に引きこもってからこのかた、栄養補給と言えばゼリー飲料オンリー。

 こうして自由に動けるようになると、まともな料理――美味しいものを食べたいと思ってしまうのは、食い物に関してだけは妥協しない日本人の業だろうか?


 さすがに他所様の家で勝手に食材を漁るのはただの泥棒なので、申し訳ないがダンゴムシのように丸まっていたジーナさんを起こし、何かもらえないかとお願いする。


 ……そして、彼女が出してくれた料理。

 俺が異世界で初めて口にすることになるご飯なのだが。


「……確かにそう聞いてはいたけど、本当にどんぐりなんだ?

 それもそのまま煮ただけでドングリがドングリとしての存在を存分に主張してるヤツ!

 なんとなく『ドングリを食べる=クッキー』みたいなイメージしてたのに!

 てか、ドングリって食用のは栗みたいにほのかに甘いって聞いたはずなんだけど……これはアクとエグみとほのかな苦味。

 それらが絶妙に合わさり、マイナス要素しか積み重なっていないハーモニーをかもしだし……。

 ジーナちゃんはいつもこれを食べてるの?」


「お父さんが生きてたときはお父さんの作ったごはんを食べてた。

 雪うさぎのお肉はおいしいけど、雪狼のお肉はちょっと臭くてとても固い。

 でも、お肉を食べてる感は狼のほうがまさる。

 吹雪が続いて食べ物が全然採れないときは、保存していたドングリだった。

 でも、こんなに不味くはなかった。

 今日も狩りに出かけたけど……私は弓があまり得意じゃないから、何も捕れなかった。

 でもパパを拾った!」


 『ムフー』と鼻息荒く、とても満足げな笑顔を見せるジーナさんが不憫可愛すぎて生きているのが辛い……。

 うん、俺のこと、拾ってくれてありがとうね?

 あと、たまに幼い感じになるの、とても可愛い。

 ……じゃなくてだな。


 繰り返しになるけど、今はまだ冬に入ったばかりなんだよ。

 それなのに、すでに最終兵器のドングリに手を出している状況ってそれ……。


「つまり、もう食材が壊滅してるってことだよね?」


 得意げだった顔がショボーンとなるジーナさん。

 俺、煮たドングリだけでひと冬越えられる自信がないんだけど?

 栄養価は知らないけど味的な意味で。


「俺も技能に『戦闘』があるからオートなら弓を使うことが出来そうなんだけど、いかんせんレベルが低いからうさぎに当てられる気がしないし。

 そういえば調味料とかってどうなのかな?

 塩とか酢、砂糖に醤油に味噌、ニンニク生姜、胡椒に唐辛子……とりあえず塩くらいはあるかな?」


「塩は、入れ物にこびりついたのが少しだけある! 他のは全然わからない」


「それを『ある』とは言わないんだよなぁ……」

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