第39話 『時計仕掛け』と『真空管』。
人里離れた隠れ里みたいな村――の、さらに奥地。
山の中でひっそり暮らしているはずの俺とジーナさん。
にもかかわらず、おかしな連中に立て続けに襲われているという。
いや、もしも『ゲーム(スターワールド)』だったら、この程度の襲撃は日常茶飯事。
無駄に動物が暴走したり、地底から巨大な虫が湧いてきたり、宇宙から機械生命体が降ってこないだけありがたいんだけどね?
……ないよね?
というか、二回目にヤッちゃったガマガエル……。
あれでも一応、『ンシュ村』に唯一訪れていた商人だったんだよなぁ。
ルミーナ嬢の屋敷の食料は全部あいつが持ち込んでいたらしいし、男手がなくなった村の方でも、食糧不足は避けられない……いや、無駄飯喰らいが減ったぶん、例年より楽になってる可能性もあるか?
まぁ、食料だけならどうとでもなるんだけどね?
お屋敷の人たち、村の住民と全員合わせても五十人弱しかいないし。
誰も働かずに引きこもったとしても、俺が毎日数時間畑仕事をすれば余裕で養える人数である。
もっとも、俺は聖人君子でもなければ、この村の領主でもない。
身内以外には基本、損得勘定しか頭にない、舌を出すのもめんどくさい系男子なのだ。
俺のことを露骨に嫌ってる村の連中が飢えようがどうなろうが、正直知ったこっちゃないのである。
そう、今の俺にとって大事なのは――
「パパ! 今日はおっきいイノシシいた! 狩ってきた! 早く食べよう!」
――ジーナさんの日本語……じゃないや、なんとか共通語?
最近、ちょっとずつ劣化というか、幼児化してきてる気がするんだけど……。
もしかして二人きりで暮らしてて他の人とあまり話すことのない弊害だろうか?
「ていうか何その原始人三段活用……。
ある意味カエサルっぽくもあるけれども!」
今日も元気に鉄砲担ぎ、山の中を走り回ってきた彼女。
「おにく~イノシシのおにく~明日はクマのおにく~♪
おにくおにくおにく~おにくをたべると~おいしい~♪」
「そのイノシシだけでも一週間は持つからね?
熊とか狩ってこなくていいからね?」
不思議な踊りを踊りながら凄まじくIQの低そうな歌を歌う彼女に、俺も自然と笑顔になる。
「わかった! ぜんしょ? する!」
「いや、マジで熊はいらないからね!?」
もちろん相手は野生動物。
殺らなければこちらが殺られるので見敵必殺で問題は無いんだけど……。
雪も溶けて、日中はぽかぽかと暖かくなってきた今日この頃。
狩るだけ狩って、お肉を腐らせてしまったら勿体ないし?
「冷蔵庫か冷凍庫がそろそろ欲しいところなんだけど……。
作るには『真空管』が必要だからなぁ」
ん? 「真空管で作れるのはテレビくらいじゃないのか?」って?
そこはほら、『スターワールド』では――
いやこれ、ゲームを知らない人からすれば意味不明な話だよな。
ご存じの通り、俺がこの世界で『物』を作る手段。
基本的には『スターワールド』っていうクラフト系(?)ゲームのシステムをそのまま引き継いでる感じなんだけどさ。
たとえば料理をするには、『キッチン(かまど)』と『食材』が必要。
つまり、材料だけじゃなく、それに対応した『作業台』もセットじゃないとモノは作れない。
これまでに登場したものだと、
『原始的な竈』
『木製の石工台』
『食肉解体台』
などなど~が『作業台』ってことだな。
ああ、『焼却炉』や『溶鉱炉』なんかも一種の作業台になるか。
今までは、素材だけで作れるような簡単な物しか作ってこなかったんだけど。
たとえば鉄砲――ライフルとか拳銃とかって、『鋼で筒を作って終わり!』みたいな単純な作りじゃないじゃん?
ほら、エアガンのプラモデルですらバネとかスプリングとか、それなりの数の部品が入ってるし。
そんなニッチなプラモなんて知らない?
えっ? みんなエアガンとかお城とか鎧兜とか、はたまた昭和の団子屋や寿司(※大量の米粒をランナーから切り離し、ピンセットで一粒ずつ貼りつける無限地獄)を作ったことないのか!?
……いや、今はプラモの話なんてどうでもいいんだ。
ということで、そういった複雑な構造を持つ『電気を使わない道具』を作るには、コアパーツとして『時計仕掛け』が必要になってくる。
これは『加工台』で鋼を材料に作れるから、もうすでにライフルや拳銃に使ってるんだけど。
でも、そこからさらにワンランク上がった電化製品。
電気こそ使わないけど、マシンガンとかアサルトライフルとか、より複雑な武器を作るにも『真空管』っていうパーツが必要になるんだよ。
で、この真空管。作るには『ガラス』と『金』が必要なんだよね……。
もちろん、さらに上位には『電子基板』だの『F・A』だの、意味のわからないパーツもあるけどさ。
ガラスについては、その辺の砂……はさすがに無理でも、川まで下れば『珪砂』が手に入る。
でも金は、さすがに……ねぇ?
今のところ、マップで確認できる範囲にある露天採掘ポイントは、鉄鉱石と岩塩くらいだし。
手当たり次第に山を掘ってればそのうち見つかるかもしれないけど……さすがにそこまで暇でもない。
ああ、それに電化製品を動かそうと思ったら、発電機や電線の材料となる『銅』だって大量に必要になるな。
「うん、そのあたりの素材はルミーナ様に頑張って仕入れて――
……仕入れ先の商人ヤッちゃってるわ……埋めたのは女騎士様だけど」
ま、まぁ? そのへんは幼女様におまかせしておけば、うまくやってくれるだろ。
知らんけど。
「とりあえず、今は鋼の増産と畑仕事だな。
とくに日持ちする作物……そろそろ米も食いたいな」
「コメ? パパが食べたがるほど、それってそんなに美味しいの!?」
「んー……どうだろう?」
納豆とかドリアンとか、あるいは出会った当時の彼女みたいな激臭はしないけど。
外人さんの中には、匂いが無理って人もいるみたいだし?
「まあ、丼モノにしちゃえば気にならないと思うけど」
「ドンブリモノ!? それはもう、半分以上ドングリなんじゃ!?
つまりパパが作れば、すっごく美味しい!!」
「いや、ドングリは何の関係もないんだけどね?
でも、ジーナさん大好きなお肉を甘辛く味つけして、ご飯の上にのせて……って、ヨダレ! ヨダレ垂れてるから!!」
相変わらず、美少女の無駄遣いな彼女であった。




