第37話 スイカもメロンもさくらんぼも大好きなゲーマーのおっさん。
『お土産箱』の次にルミーナ嬢が見たがったのは、もちろん『鉄砲』――ではなく。
彼女が興味を示したのは、あちらこちらと屋敷の敷地内に所狭しと広がる『雑多な畑』に実った作物たちだった。
「……意味がわからないのです」
「そうでしょうね。
俺としてもそろそろ敷地を広げて、作物ごとにちゃんと分けて管理したいと思ってはいるんですけど。
いろいろと他のことがあって、ついつい後回しになってしまって……」
近場でどうにかできる他のモノとは違い、鉱物の採掘は移動にも時間がかかるし。
「そういう話ではないのです!
雪が溶け始めてから、まだ半月ほどしか経っててないのです!
なのにもう実がなるほどに大きくなっているのです!
植わっている野菜の季節感もめちゃくちゃなのです!
それなのに全部元気に育っているのです!
あと、あの黄色いやつとか赤いやつは見たこともないのです!!」
「ちびっこ、あの黄色いのは『とうもころし』。とても甘くておいしい。
シチューに入れるともっとおいしい。
あっちの赤いのは『とまと』。潰すと、グニュ、グチャッとして気持ちが悪い」
「なぜ『とまと』は味ではなく潰したときの感想なのです!?
あっちにあるのは、ミーナが見たことのあるものとは形が違いますがスイカなのです?
その隣のウリはどうして皮がひび割れているのです?」
「ちびっこ、ああ見えてスイカの中身は……赤い!
それととても甘くて美味しい!!
向こうのはメロン!
すごく良い匂いでとても甘くて美味しい!!」
「あなたの感想が全部『とても甘くて美味しい』で何も伝わってこないのです……。
それと、ミーナは小さくはないのです!
むしろ胸だけならあなたより大きいくらいなのです!」
「フッ、このあいだパパに『小さな胸は嫌い?』って聞いたら、『小さいのが大好き』だと言っていたからジーナの勝ち!」
畑を見てただけなのに、まさかの流れ弾が飛んできただと!?
「違います、そんなことは言って……言ったかもしれませんが、あくまでもそれは成人女性の小ぶりのおっぱいの話です!
それに『小さいのが』好きなのではなく『小さいのも』好きなのです!」
「……あなたは何を言っているのですか?」
「もちろん『おっぱいの大きさに貴賎なし!!』という主張ですが。
あっ、もちろん柔らかいおっぱいだけではなく筋肉質な」
「あなたの好みの胸の話などどうでもいいです」
「あっ、はい」
ちなみに、一番多く植えているのは野菜ではなく『綿花』だったりする。
冬が終われば、さすがにいつまでも毛皮のままじゃ暑苦しいからね?
畑の作物を一通り説明した後は、『家畜小屋』にもご案内。
牛のお腹が大きくなっていることに驚かれたあとは、ようやく昼ごはんの時間である!!
……というか、牛の件に関しては俺も聞いてなかったからルミーナ嬢と一緒になってびっくりしたんだけどさ。
調理の補助はいつも通りリアンナさん。
とはいえ俺の料理方法が独特すぎる(素材を鍋に入れてグルグルする)ので、盛り付けたお皿を運んでもらう以外にしてもらうことは無いんだけど。
「ルミーナ様、ご期待にお答えできず申し訳ないのですが。
さすがに三回目ともなると『それはイジリではなく、イジメなのでは?』という苦情が入りそうですので、お約束の『食卓にお皿が一品だけ』ネタは今回ナシということで」
「どうしてミーナがそれを待っていたと思ったのです!?
といいますか、二回目ですら必要なかったのです!!
というか、私以外の誰から苦情が入るのです!?」
「ちなみに今回のリアンナさんからのリクエストは『炒ったスイカの種を五粒』でした」
「まさかの身内の犯行だったのです!?
あと、スイカの種は食べ物ですらないのです!!」
いや、俺も食べたことはないけど、一応それも食べ物なんだよ?
たぶん中華料理? か何か。
慣れない山登りでお腹が空いていたのか、ジーナさんと競うようにコーンクリームシチューを食べるルミーナ嬢。
「……貴族としての『ルミーナ様』より、こうして子供らしくしてる『ルミーナちゃん』のほうが可愛いですよ?」
「……あなたは人のプロポーズを断ったくせに、いきなり口説きはじめるとはどういった了見なのですか?」
いや、日本人のおっさんとしての感想を述べただけで、口説いてるつもりはまったくないんだけどね?
もちろんお付きのメイドさんたちにもお腹いっぱい食べてもらった後は――
「食べすぎて一時間は動けません……」
いや、あんたら、本当に遠慮とか一切しないで食ったな!?
「……ええと、私の目の前にある、この赤い液体は?」
「トマトジュースですね」
「……皆の前に置かれているのは?」
「メロンとスイカをカットしたものですね」
「あなた、最初に『それ』はもうやらないと言いましたよね!?!?」
だって、リアンナさんがどうしてもってきかなかったから……。
ちなみに、うちで育てている果物。
この世界の、品種改良もされていない『野菜に片足突っ込んでるそれら』とはまったくの別物らしく。
「……その娘ではありませんが、甘くて美味しい以外の感想が出てこないのです……悔しいのです……」
ルミーナ嬢が俺にはわからない敗北感に打ちひしがれていた。