第36話 ゲーマーのおっさんと『工芸品』。
いきなり『俺の嫁になる』などと、トチ狂ったことを言い出した幼女様。
その理由をたずねてみるも、
「いいですか?
貴族の娘の結婚とは、自家にとっていかに有益な相手を選ぶかが最優先なのです。
そこに恋愛感情や年齢差、相手の見た目などを加味、考慮する必要はまったくありません」
「それもう完全に、『お前のことなんか好きでもないし、おっさんで見た目もパッとしないけど我慢してやる』って言ってますよね?」
「そこまでは言ってないのですよ?
さすがの私でも、どれほど有能であろうと、あの商人と褥を共にしたいとは思えませんので。
それにあなた――好きですよね? 若い娘が?」
「『さすがの私』って言い方に、『他の貴族の娘より達観してるからお前でも許容してやる』感がダダ漏れなんですけど!?」
「……あなた、被害妄想が激しいと言われたことはありませんか?」
……なくもないです。
「そもそもですね、何か勘違いをされてるみたいですが!
別に俺は若い子が好きというわけでは! ……好き……というわけ……いやまぁ、どちらかと問われればもちろん大好きですけれども!」
何故だろう? リアンナさんの視線がすごい痛いんだけど?
「そ、それでもですね!?
物事には限度というものがありますから!
ということで、ありがたい……というと語弊がありますが、縁談は謹んでご遠慮させていただきます」
「……わかりました。今回は素直に引き下がっておきましょう」
思ったより切り替えの早い幼女様。まぁ半分は冗談だったんだろう。
……言い換えれば、半分は本気だったってことだけど。
「ということで、話は戻りますが。
あなたの持っている力――『マップ』というもので、この村であなたに敵意を持つ者の確認ができるのですよね?
私を裏切り、あなたを売った元村長一家は……アレするとして、そのような者が他にもいるのでしょうか?」
『アレする』ってなんだよ、『アレする』って!
「そう……ですね。
あの連中以外でハッキリと真っ赤なのは、以前家畜を預けていた家族くらいですかね?」
ちなみに、『ピンク(薄っすら隔意あり)』まで含めれば、村に残っている人間のおよそ六割まで増えるんだけどさ。
これ、過半数超えで嫌われてると見るか、想像していたほど恨まれていなかったと見るか難しいところだな。
逆に、『水色』を通り越して『青』の人も二人ほどいたりするけどね?
「なるほど……まぁ、その家族についてはおおよそ理由は察せられますが――リアンナ」
「かしこまりました、お嬢様」
一体なにをかしこまったんですかね?
* * *
「ヒカルさん、さすがにお嬢様にあのようないかがわしいモノをお見せするのは……。
もちろん『私と二人きり』の時であれば、まったく問題はないのですけど」
「パパはおばさんと二人きりになったりはしない!!」
「いやいやいや、俺の責任ではないですからね!?
というかリアンナさんも隣で見てましたよね?
ルミーナ様が箱の中から『ソレ』をご自分で選び出し、勝手に握りしめるところを。
あと、何を連想されてるのか存じませんが、『アレ』はまったくいかがわしいモノではありませんからね?」
場所は変わって――というか日付も変わって、翌日の我が家。
婚約話の後で『ライフル(と腰に差していた拳銃)』の説明をしたところ、ルミーナ嬢が「その筒の使い方を見てみたいのです!」とか言い出したんだけどさ。
一応ほら、鉄砲ってこの国じゃまだ使われてない武器だし?
出来るだけ他の人間、村の人間には知られたくないじゃん?
さすがに見物に来るような連中はいないだろうけど、そこそこ大きな音がなるし。
……もちろん山の中で撃とうと音は響くんだけどさ。
だから「今度リアンナさんがうちにいらした時にでもお見せしますよ」って社交辞令的にリップサービスしたら……ご領主様直々に来ちゃったという。
というかそのルミーナ嬢。
ジーナさんが最初に領主館を訪れた時以上の落ち着きの無さで屋敷の内外問わず走り回る走り回る……。
なんというか、見てる分には子供らしい子供。
外に出て、見たこともないものに目を丸くしてはしゃいでるその姿はとても愛らしいんだけど……いかんせん相手はルミーナ嬢だからなぁ……。
とりあえず家の中に通して『お茶』を出し、日本の地方工芸品を真似て作った『土産物詰め合わせ箱』を見せつつ、
「売れそうなものってありますかね?」
と尋ねてみたんだけど。
何故か一番最初に手に取った『こけし』を握りしめたまま、耳まで真っ赤にしてフリーズしてしまっ――あっ、再起動した。
「あ、あ、あ、あなた!!
こ、こ、こ、これはいったい何に使うものなのですか!?」
「そもそもそれは『使う』ものじゃなくて『飾る』ものですけど。人形の一種ですね」
「このような形をしているのに!?」
この幼女様はいったい『ナニ』の形だと思ってるのかな?(ゲス顔)
あと、握り方がどう見ても『ソレ』を初めて握る子どものものとは思えないです。
「ちなみに、そっちにあるクランクを人形の底にある穴に――そう、そこに差し込んで回すと」
「ヒィィィッ!? な、なにやら小刻みに振動しているのです!!
これ、絶対に飾るものじゃないのです!!
間違いなくいかがわしいモノなのです!!」
「パパ、ちびっこがうるさい……」
実は『ジョークグッズ』の機能まで搭載した、ハイブリッド工芸品だったりする。
というか幼女様、それを手放すこと無く延々と回し続けてるんだけど。
「……リアンナさんは普段、ルミーナ様にどのようなご教育を?」
「お嬢様はいつも、ご自分で選ばれたご本をお読みになりますので……」
スッと目を逸らすリアンナさん。
なるほど、この世界にも『そのような』本があると。
それ、ジーナさんの教育のために貸してもらえないかな?
アワアワしたままでこけしを振動させ続けるルミーナ嬢。
見かねたメイドさんがそっと手から引き剥がし……あれ? どうしてそれを手ぬぐいで丁寧に包んで懐にしまったのかな?
耳まで真っ赤にしながら、睨むような目で俺を見てから他の細工物の確認へと移っていく幼女様がなんというかこう……。
大丈夫、俺はその程度のことで童子たり……動じたりはしないから。
なぜナラおレはロリコンじゃナいので!!
多少言動がぎこちなくなっているが気にしてはいけない。
鮭を咥えた熊。
首を振る牛。
寄木細工。
龍の彫り物。
そして、スイカを頭にかぶった熊。
「あなた、凄く手先が器用なのですね?
このように繊細な彫り物から可愛らしい細工物まで……」
「ルミーナ様は、こけしが一番のお気に入りだったご様子ですが」
「はぁっ!? き、気に入ってなどおりませんが!?!?
……といいますか、この妙ちくりんな生き物が『スイカ熊』なのです?
私の記憶が正しければ、スイカというのは水っぽい瓜のはずですが、どうして熊がそれを頭にかぶっているのです?」
そんなこと俺に聞かれても……。
もし気になるなら、直接『本家』にでも問い合わせてください。