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第35話 『ンシュ村スイカ熊』とプロポーズされるゲーマーのおっさん。

「――というわけで、お土産です」


「ムグウッ!! モガァァァッ!!」


「……いえ、にこやかな顔で転がされましても。

 そのような小汚い男など欲しくはないのですが。

 あの、一応『それ』が『そう』なった流れだけ説明していただいてもよいですか?」


「もちろんです」


 ということで場所は変わって……まぁいつものごとく領主様のお屋敷である。

 カエル親父――正式にはノトスという名の男。

 本来ならその場で火葬にして終わりでよかったんだけど……。

 というか、ジーナさんは完全にそのつもりだったけど。


 でもほら、これでも一応『御用商人』って肩書きがあるらしいし?

 こちらで勝手に処理して、痛くもない腹を探られるのも面白くないからね?

 ……そもそも御用商人に猿ぐつわをかませて縄でグルグル巻き、葛籠に詰めて領主の屋敷に持ち込んでる時点でどうなんだって話なんだけどさ。


「では、そこそこ長い話になりますが、かいつまんでご説明を――」


・昨日の夕方、奴らが村に到着したこと。


「そうですね、それはこちらでも把握しておりました」


・そのまま常宿にしている元村長の家に入ったこと。


「いつものことなので、それもおかしくはないですね」


・そこで家人から俺とジーナさんの話を聞いたであろうこと。


「……あの女……連座となるところを助けてやった恩を忘れて……」


・その瞬間に顔――というか『ポーンの色』が真っ赤になり、いきなり俺に敵対的となったこと。


「……ちょっと待ってください。

 聞き流してしまいそうになりましたが、そこまでで既にいろいろとおかしいのです!」


 と、食い気味に割って入ってくるルミーナ嬢。


「ええと、あなたは昨日、村まで下りてきていたのですか?」


「いえ、一日中、家の中でンシュ村名物『スイカ熊』の木彫りを彫ってましたけど」


「簡単な質問をしただけなのに、意味不明な特産品の名前が飛び出してきたのです!?

 スイカ熊! 間違いなくそんな男のことよりも気になるのです!!

 なるのですが……今は話を進めないといけないのです……。

 ええと、山の中にいたあなたが、どうやって彼らが村に入ったことを知ったのです?」


「どうやってといわれましても……風の便り? みたいな? 知らんけど」


「まったく意味がわからないのです!

 最後に投げやりになったのはどうしてなのです!

 ……あれなのです? もしかしてリアンナのように。

 村娘の誰かを食べ物と甘い言葉でかどわかし、あなたの情婦にしたあげく情報を流させているとか?」


「きょとんとした愛らしい顔でどぎつい事を言うのは止めてください」


 そもそも俺はリアンナさんの手も!

 ……いや、一緒に料理もしてるし、もしかしたら? 手くらいは触ったことがあるかもしれないけれども!


「パパはジーナ以外の女の体には何の興味もないのでそんなことはしない!!」


「モガァァァッ!!?」


「ジーナさん、前も言ったよね?

 ほら、それだとまるで俺が家では娘に手を出してる鬼畜義父みたいに聞こえちゃうからね?」


「でもジーナが夜中にパパのベッドに潜り込むとギュッてしてくれるよ?」


「言い方ぁぁぁぁっ!!

 それはジーナさんがトイレの帰りに寝ぼけて! 俺のベッドに間違えて入ってきたからでしょ!?

 で、俺はたまたま良い匂いのする! 柔らかくて温かい何かを無意識に抱きしめてただけだからね!?」


「なるほど。あなたにはそのときの記憶がある……と。

 つまり『寝ていた』わけではなく、『意識のある状態』での犯行だったと」


 どうして俺はいきなり追い詰められてるのかな?


「といいますか、今はその話は関係なくなくないですかね?」


「……確かにそうなのです!

 あなたの誘導で、 危うく大切な話を有耶無耶にされるところだったのです!」


「俺は何もしてないですけどね!?

 そもそも、ジーナさんが深く考えずに喋りだした結果であって――」


 いや、果たして本当にそうなのだろうか?

 彼女の発言の結果、メイドさんたちの俺に対する風当たりがどんどん強く、つまり『メイドさんお嫁さん』ルートが潰されていってる気がするんだけど?

 ジーナさん、野生児と見せかけて実は策士だった!?


「……まぁそれはそれとして。

 ここらで一応、もう一方の当事者の話も聞いておきますか?」


 チラリと転がされている男に目を向けるルミーナ嬢。

 その瞳からはまったく『興味』の色は見えない。


「どうせわけのわからない、内容のない言い訳を喚き散らすだけなのでいらないのです。

 といいますか、さっきからモガモガモガモガと煩わしい。

 アデレード、話の邪魔なので葛籠の中に戻してどこかに埋めてきてください。

 気持ちが悪いので出来るだけ遠くにお願いしますね?」


「モガアアアアアッ!?!?」


 彼女がそう言った途端、先程までは真っ赤な顔で怒り狂いながらもモガモガしていた男の顔からどんどん血の気が引いてゆく。


「いや、どうしていまさらそんなに驚くことがあるんだよ……。

 だいたいお前、ルミーナ様の政敵である継母の間諜だろうが?

 ルミーナ様が情報を流したように装って、俺のことを暗殺に来た挙げ句に失敗。

 その上で、こうして捕まり転がされてるんだぞ?」


「……この男はそのような事を言っていたのですか?」


 先程までの、何の興味も示していなかった彼女の声が、途端に怒気を孕んだ低い声に変わる。


「ああ、もしかしてあれか?

 愛らしい天使のルミーナ様ならお前の話を聞いて助けてくれるとでも、そこで継母の名前を出せば彼女が慌てだして自分が優位に立てるとでも考えてたのか?

 残念だけどそれはお前が騙されてただけで、本来の彼女は……。

 というか、もしかして自分がスパイだってバレていないとでも思ってたとか?」


「途中で聞きづてのならない事を言われたのです!!

 ミーナはどこからどう見ても愛らしい少女なのです!!

 まさしく地上に舞い降りた天使エンジェルなのです!!」


 プクッと頬を膨らます彼女。

 そして『地上に落ちた天使』は堕天使(悪魔)なので言ってることは合ってるかもしれない。


「といいますか、今はスイカ熊のお話なのです!!

 あと……二人が肩からぶら下げているモノが何かも聞かせていただけますよね?」


「あっ、はい」


 無言の騎士様に葛籠に押し込められ連れて行かれる男。

 ……いや、マジで生き埋めとか幼女怖ぇよ!!


* * *


 男の退場後。


 根掘り葉掘りの聞き取りを受ける俺たち――とはいえ、この世界の人間には聞いたこともないような『専門ゲーム用語』を交えてながらの話。

 ルミーナ嬢をして、なかなか理解が追いつかない様子で。


「……つまり、その『マップ』という空中に浮かぶ幻で、連中が来ているのを把握していたと?」


「そういうことになりますね」


「しかも、そのマップでは、そこに映る人間が自分に対してどういった心情を持っているかまで見通せると?」


「まあ、大雑把ですけどね?

 『友好的』『中立』『敵対的』の三段階。

 あとは、自分と同じ『コロニー』――『家族』? 所属しているかどうかがわかるくらいです」


「それだけでも、とんでもない能力なのですよ!?

 ちなみに……それは私や他の人間にも使える『力』なのですか?」


「んー……『使うことも可能』とだけ言っておきます」


「なるほど。その『コロニー』というのが鍵になっているということですね?」


「ちょっと理解が早すぎませんかね!?

 ……まあ、言ってることは合ってますけど」


 「なるほど」と一言。

 そこからしばらく、黙り込んで思案に沈むルミーナ嬢。


「……わかりました。

 これより私は、あなたの妻となりましょう」


「なんで!? 何がどう『わかった』のか、その経緯を説明してもらえますかね!?」


 とりあえず話に飽きたジーナさんが寝てたから良かったようなものの……ことと次第では大暴れしてるところだからね!?

 

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