第31話 ゲーマーのおっさん、冬から春へ。
少しだけ時は流れて――二月の終わり。
いやほら、俺がこっちに来たのって、十二月の初め頃だったじゃん?
それからおおよそひと月、家を建て替え食材を手に入れ。
なんとか凍死と餓死の心配はしなくていい状態にはなったものの、そこから本格的に外が吹雪だして……。
いやもうね。雪国ヤバい。マジでヤバい。
北海道のニュースで、ホワイトアウトした道路を映してるの見たことあるけど――実際に体験すると、真っ白な世界の恐怖感たるやハンパじゃないからな?
もちろん、晴れる日だってゼロじゃないんだけどさ。
それでも、わざわざ『屋敷(家畜小屋含む)』の外に出るのも億劫で。
ということで。
家の中で……家の近場で俺の出来ることと言えば、『雪かき』『木工細工』『弓の稽古』の三本立てくらいしかなく。
あっ、あと追加で『離れの一階(風呂の下のスペース)』で、暗い場所でも育ちそうな野菜を試しに育ててみた!
まぁ、俺が思いつくのなんて、『もやし』『ホワイトアスパラ』『きのこ類』くらいしか無いんだけどさ。
野菜の種はどうしたのか?
おっ、何だお前、スターワールド初心者か?
そんなの土地を耕し終われば出てくる『何を植えますか?』の選択画面からポチるだけに決まってるだろ?
……いや冷静に考えると、だいぶおかしな話なんだけどさ。
もやしとかきのこが『畑から生えてる』のを見た時の違和感と言ったらもう……。
もっとも、今回一番ビックリしたのは『収穫までのスピード』なんだけどね?
……もやしって普通、一週間くらいはかかるよね?
それが一日でモッサモサに育ってたんだけど?
ホワイトアスパラはよく知らないけど……絶対に三日じゃ育たないよね?
椎茸とかしめじとか舞茸もアスパラと同じで三日だったからね?
普通はこう……原木? に『菌』を染み込ませたコルク栓みたいなのを挿し込んで、数年がかりで育てるやつじゃん?
ソースは歴史モノの創作小説だから作者の妄想の可能性もあるけど!
とりあえず全部『ゲームのシステムヤベェ……』で済ませたんだけどさ。
自分にメリットのあることはすべて受け入れてこそのゲーマーだからな!!
不利益? もちろん運営が対応するまで延々と『苦情メール(おねがい)』を送り続けますが何か?
ていうか育てておいてなんだけど……。
もやしとか肉の添え物くらいしか使わないんだからこんなに要らないし。
きのこに関しては見た目も食感も苦手だからまったく食べないし。
だから実質増えたのは『ホワイトアスパラ』オンリーという。
てかさ、ホワイトアスパラってそこそこニッチな野菜じゃん? お高いし。
だからあんまり食べた記憶は無いんだけど……ビックリするほど旨いんだよ!!
茹でて塩振るだけでも十分なのに、シチューに入れて良し、バターソテーにしても良し、アスパラフライとか永遠に食い続けられるからな?
ちなみにジーナさんが食べた感想はと言えば、
「もやしは根っこが歯に挟まる。そして喉に詰まりそうになる。
つまりジーナを殺しにきている!
でもお肉といっしょに少しだけ食べるとおいしい」
『もやし暗殺者説』がこの世に誕生した瞬間である。
「アスパラは野菜で一番おいしい!
ジーナが料理したドングリよりおいしい!
お肉といっしょだともっとおいしい!
でもシチューに入ったのが一番!!」
そもそもドングリ。
俺の中では食材ではなく『独楽(真ん中に爪楊枝を挿す)』の材料だったし……。
「キノコは……シメジのいっぱいあつまってる感じがきもちわるい!
あとマイタケのビラビラしたのもきもちわるい!
シイタケは煮たのを一度見たけどナメクジみたいで食べなかった!!」
……なんだろう、ジーナさんの感想が俺とほぼ一致なんだけど?
ていうか用意してあった、しめじのバター炒め、椎茸の丸焼き、舞茸と卵の炒め物。
ジーナさんが箸をつけようともしなかったので、俺が責任をもって泣きそうになりながら頂きました……。
そんなこんなで、家の中でも退屈せずゴソゴソと何かを探し出せる俺。
もともと『インドア最高! お家こそが正義!』を信条とする引きこもり気質な現代人だからね?
それとは対象的に、『縄文生まれ、野生育ち』でどんなに天気が荒れていても、命の危険がありそうでも、狩りに出かけたがるお肉大好き娘のジーナさん。
……まあ、彼女もいまでは『マップ』を使えるから遭難の心配はそうそう無いんだけどさ。
「ジーナさん、もしも俺が外に狩りに出て……帰ってこなかったらどうする?」
「……パパ、居なくなっちゃうの?」
途端に目から涙を溢れさせる彼女。
「いや、ジーナさんのことを一人にして俺がどこかに行くとかないから!
……でも、こんな嵐の中に外に出たら何が起こるかもわからないでしょ?
もしも、ジーナさんが外に出て行っちゃったら……俺だってジーナさんが戻ってくるまで、今、ジーナさんが感じてるような気持ちになっちゃうんだよ?」
「……ごめんなさい。ジーナ、もうわがまま言わない……」
いや、ほんとにね?
もしも『彼女(家族)』に何かあったら……うん、考えるだけでも恐怖で身震いしそうになる。
「というか、こんなんじゃジーナさんがお嫁に行くときに寂しくて廃人になっちゃうかもしれないな……ゲーマーとしての意味ではなく」
「大丈夫! ジーナはお嫁になんて行かない!!
……だからパパにも奥さんはいらない!!」
……なんて今は言ってるけど、もう二年もしたら、
『臭いから近寄らないで!
あと、気持ち悪いから一緒に洗濯するのも止めて!!』
とか言い出すんだろうなぁ。
あっ、想像するだけで涙が溢れて……。
「というか、ジーナさんが嫁に行かないのと俺が奥さんをもらうのはまったく別の話では」
「まったく同じ話だから!!」
「お、おう……」
相手が居るわけでもないのに不毛な言い合いをする二人。
でもほら、リアンナさんとか騎士様とかワンチャン……。
「……ジーナ、こんなにのんびりした冬は初めてかもしれない。
ていうか冬なのに、お腹にお肉がついてる気がする!」
良く食べて、よく寝て。
出会った頃はまるで鶏ガラみたいな体だったのが、今では年相応の女の子らしい体つきに育ってきたもんね?
そもそも日本じゃ冬に体重が増えるのは当たり前だし?
てことで、狩りに出られないぶん、ジーナさんは『家畜の世話』、そして俺と一緒に弓の稽古をしながらのんびりとした冬を過ごしている彼女。
てかさ、ジーナさんが面倒を見ている家畜。
さすがに牛は増えて無いんだけど鶏がさ。
暖かい小屋の中で、栄養価の高い飼料を好きなだけ食べているせいか、雌鶏が毎日のように卵を産みまくり。
初めは三羽しかいなかったのが、この二ヶ月で二十羽を超える勢いで増殖中なのである。
「……そろそろ、食べれる?」
「クワッ!?」
「ご領主様にも卵をお裾分けする約束だからもうちょっと増えてからのほうが――いや、雄鶏なら問題ないか?」
「クワワッ!?!?」
……
……
……
「ウサギにはウサギの、鶏には鶏のおいしさがある!!」
「認めよう、若鶏は確かに旨かったと!!」
そんなこんなで、いかにもスローライフらしい日々を送っている俺たち。
たとえば、風呂上がりに焚き火をぼーっと眺めていたら、いつの間にか数十分が経っていたり。
以前の俺なら考えられなかったような、そんな時間の過ごし方である。
……もっとも、その時は隣にはジーナさんがぴったりとくっついて寝ているので煩悩と全力で戦う羽目になるのだが……。




