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第03話 『ここは異世界ではなくゲームの世界だ!!』と、自分に言い聞かせるおっさん。

 命の恩人である少女――日本でなら、十人中十人が美少女と認めるであろうジーナさん。

 初対面の俺をまさかの『パパ』呼びという、ちょっと掴みきれない性格をした女の子でもあるんだけど。


 もっとも、死んだと思ったら目覚めた先が『推定異世界』という今の状況に比べれば些細なことでしかないわけで。

 いや、異世界というのも正しいのかどうか。


 だって俺の目の前には、死ぬ直前までプレイしていたゲーム――『スターワールド』のマップ画面が広がっているのだから。

 ……雪が積もっていて、ほぼ白一色なんだけどさ。


「もっとも、異世界だろうがゲームの中だろうが、俺のすることは黙々とそれをプレイすることだけなんだけどな」


 これでも俺は、PCと繋がるために尻に『プラグイン』まで施した男、面構えが違うだろ?

 このいつ終わってしまうかもわからないボーナスゲームをしゃぶり尽くす。

 徹底的に今を楽しむためなら、命の恩人が少しくらい変人であろうとどうということはないのだ!


「というかジーナさん。

 さっきから焚き火の火力がかなり心細くなってきてるんだけど。

 拾われた身で、厚かましいお願いなのは百も承知なんだけど……もしよければ、もうちょっとだけ薪の追加とかしてもらえないかな?」


 生まれ変わろうが生き返ろうが、俺の中身なんて雌ガキに罵倒待ったなしの雑魚雑魚ヨワヨワ引きこもりゲーマー。

 虚弱体質が具現化したような生き物だからな!


 この寒さは……ちょっとキツイです……。


 しかしながら、彼女から返ってきたのは快い返事ではなく、しょんぼりした表情と申し訳なさそうに否定を告げる言葉だった。


「残念だけどそれは出来ない。だってもう薪が無いから。

 今日はパパが凍えそうだったからいつもよりたくさん燃やした。

 それに、寒いなら抱っこしあえばいい。

 なぜならパパとジーナは親子だから」


「そ、そうなんだ……。

 俺のために、いろいろ頑張ってくれたんだね? ありがとう。

 でもね、ジーナさん。俺たちは親子じゃないからね?」


 これほどの美少女と温め合う。

 当然オッサンに否などあろうはずなどなく。

 むしろ全財産請求されようと食いはない!!

 ……今の俺は無一文だけど。


 でもほら、ジーナさんって……スメルがさ。

 『風呂という概念が存在しない世界』じゃないのかと思うほどの芳しさなのである。

 何そのラノベ、絶対に売れないだろ……。

 いや、今はそんなことよりも薪の話だな。


 マップに表示されている『時計』だと、季節はまだ冬の入り口である12月。

 にもかかわらず、薪がもう尽きそうとか……これから来る本格的な厳冬をどうやって乗り切ればいいんだこれ。


 しかも俺の格好なんて、生前着ていたヨレヨレのスエットだけだし。

 なぜか靴と靴下を履いてたんだけど……それについては神様に心から感謝したい。

 ……もっとも、たかが寒いだけの苦境で絶望するのは、三流。いや、五流レベルのゴミゲーマーだけなのである。


「そもそも、ツンドラ地帯や砂漠スタートの縛りプレイなんて俺にとってはいつものことだしな!」


 幸いにもここは岩山ばかりの死の砂漠ではなく、寒くこそあれど樹木に囲まれた森林地帯。資源が潤沢なマップなのだ。


「昔、偉い人が言いました。

 『薪がないなら木を伐ればいいのよ』ってな!」


 思わず『ハンバーグ!』と叫びながらヴィブラスラップを鳴らしたくなる俺。


「パパ。テの木はすごく堅い」


 堅いだけなら大丈夫! ……なはず。

 『スターワールド』のシステムが反映されてる今、俺に不可能などないのだから!

 ……マップも出てるし、木くらいは伐れるよね?


 というわけで、まずは事前確認。

 視野が狭くなるので消していたマップ画面を再表示し、頭上に『ヒカル』と表示されているポーンをタップする。


「……出てくる情報、めちゃくちゃ簡略化されてるな」


 表示されたのは、名前・年齢・性別・体調コンディションといった最低限の個人情報のみ。

 技能は『戦闘・生産・製作・雑務・交渉』の五種類だけ。


 詳しい解説でも出ないかと、いろんな箇所をタップしてみるが――説明は一切なし。


 神様! さすがにこれは設計が不親切すぎます!

 もうちょっとだけプレイヤーに優しくしてください!


「……まぁ、無いものをねだってもしょうがないか」


 この世に俺がクリアできないゲームなんて――そこそこあったな。

 でも今は信じろ! 自分自信の『ゲーマーちから』を!

 そして願いをかなえてくれた神様を!


「さて、ジーナさん。ここで問題です」


「……なに?」


「目に見えない力を具現化するには、どうすればいいでしょうか?」


「ちょっと何を言ってるのかわかんない」


 そう、その通りだね!!

 無いなら作る。

 作れないなら――想像すればいいんだ!


「てことで! 俺が作りたいのは……焚き火!」



 そうしたらね、おぼろげながらうかんできたんです。

 『焚き火の作成には木材が五個必要です』という数字が。

 シルエットが浮かんできたんです。

 焚き火の設置場所をどこにするかという。

 クッキリとした姿が見えてるわけではないけど……。



 ……ともあれ、焚き火を作るには木材が五つ要ることがわかった。

 でもそれにはここを解体するか木を伐る必要があるんだよな。


「ということでジーナさん。

 お兄さんはこれから山に柴刈り――じゃなくて、そのへんで適当に伐採作業をすることになりました。

 おうちのどこかに斧とかノコギリとか、器を伐るための道具はないかな?」


「ノコギリ? は無いけど、斧ならお父さんが使ってたのがある!」


 ジーナさんは嬉しそうに立ち上がり、テントの片隅に置かれていた『石斧』を持ってきてくれた。


 うん……まぁ、ね?

 住居が竪穴式こんなかんじの時点で察しは付くよね?


「勝手に縄文時代あたりだと思ってたけど、まさかの石器時代だったか。

 てか縄文時代と石器時代は同じなんだっけ?

 もしかしてご飯も『マンモスまんがにく』とか出てきたりして?」


「贅沢は敵。我が家には肉なんて無い。

 というかマンモスって何? あとご飯はドングリだけ」


 まさかの主食はドングリ発言。

 もしかしてジーナさんは子リスさんなのかな?


 その切れ味に不安しかないが、とにかく伐採用のどうぐは確保できた。

 さっそくマップ画面から、この小屋の周辺に生えている『手の樹』数本を範囲選択し、自分に伐採命令を――


 ……いや、その前に。

 さすがにこの格好で外に出たら、低体温症でダウンするよな。

 というわけで、また彼女にお願いするしか無いんだけど。


「ええと、借りられる防寒具はないかな?」


「ボウカング? なにそれ動物? お肉は美味しいの?」


 確かに名前の響きだけなら『モンスターを狩るアレ』に出てきそうだけど!


「そうじゃなくてさ、手袋とか帽子とか、あと耳あてとか……コートとかブーツ?」


「ミミアテ? ブーツ? コート? は無い。

 でも手袋と帽子とチョッキならお父さんのがある!」


 故人の遺品を借りるのはなんとなく気が引けるんだけど……ゲーム的には呪われてそうで怖いし。

 まぁ今はそんなことを気にしてる場合じゃないんだけどさ。


 毛皮をざっくり縫い合わせただけのそれらを身につけた俺を見て、ジーナさんがぽつりとつぶやいた。


「……やっぱり、パパだ」


「違うけどね?」


 この子……もしかして、かなり重度のファザコンなのだろうか?

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