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第24話 幕間 メイドさん『が』お宅訪問。

 村の粛清――村人の選別を行ったのが三日前。


「……まったく山から下りてきませんね。

 あの時渡した食料だってそろそろ尽きているはずなのですが……。

 もしや、私が村人を差し向けたとでも思い、娘ともども他所に移ってしまったのでしょうか?」


 退屈そうな顔でため息をつき、窓から外を眺めるのはこの館の主であるルミーナ様。

 一度しか会ってはおりませんが賢しい彼のことです。

 村長の家……ジーナという娘が昔暮らしていたらしい家まで焼き。

 山の上からでも『村で何かが起こった』と分かるようにしてあったのですから、お嬢様が彼らを襲わせたなどとは考えないと思いますが……。


「村長の話ぶりでは一方的に殲滅されたということでしたので怪我をしていて動けない……などということはないでしょうし。

 『小屋が砦になっていた』という話も気になりますし、一度こちらから出向いて参りましょうか?」


「そう……ですね。

 もしもそれが本当だったとしたら、今後のためにの是非にこちらに取り込んで……いえ、人の機微に聡い人でしたし、ここは『協力』と言っておくべきですね。

 すみませんがリアンナ、その目で見てきてもらえますか?」


「かしこまりましたお嬢様」



 などと気軽に安請け合いしてしまった私。

 使用人の中から腕の立つ人間を三人ほど選び、屋敷を出たまでは良いものの。


「さ、さすがに外は寒いわね」


「今はまだ12月、これからまだまだ気温が下がるらしいですけどね。

 ほら、二階におかしな扉があったでしょう?

 外に出るにはあそこから出入りしないといけなくなるほど雪も積もるらしいですよ?」


「もうそれ屋敷が完全に埋まってるってことじゃない……」


 うう……領都生まれ、王都育ちの私にはこの寒さは堪えます……。

 と言いますか、ブーツの下に付けた球技で使うラケットの先っぽのような道具、非常に歩きにくいです。

 ……そう言えばあの日来た彼も玄関先では死にそうな顔になっておりましたね。


* * *


 それほど急な坂ではないとはいえ、雪の積もった山道を登るのはなかなかに骨が折れること。

 これ、もし彼らがすでにどこかに行ってしまっていたら……余計なことを考えるのはやめておきましょう。


 村を出てから三十分、そして一時間と真っ白な雪の上を進む。


「……ねぇ、アレはいったい何かしら?」


「何かと聞かれましても……ただの壁では?」


「……そうね。確かに『壁』ではあるわね」


 道の先が開けたと思ったら、突如として現れた『それ』に思わず声をあげてしまう。

 このような場所にそびえ立つ壁を『ただの壁』と言い放った彼女は大物なのかそれとも……。

 思わずため息をつきそうになってしまった私に声が掛かる。


「どういたしましょう?

 二手に分かれ、片方は警戒に回しましょうか?」


「……いえ、必要ないわ」


 あれだけの構造物を、雪山に短期間で造れる人間だ。

 こちらが下手に警戒して刺激するより、誠意を見せて油断させるほうが何倍も効果的だろう。

 私たちはそのまま、速度を緩めることなく坂道を進んだ。


 そこから五分ほど歩き、やっとたどり着いた防壁の前。

 いえ、あれだけ大きな壁の前に、さらに丈夫そうな柵まで設えられていたのだけど。

 ……あの連中、よくもこれだけの防御態勢が整った屋敷を襲おうなどと思ったわね。


 まるで待っていたかのように、柵の向こうで立っていた彼に挨拶の言葉を掛ける私。

 防壁の上のほう。

 矢狭間から一瞬ちらりと見えた小さな影は、ジーナという娘でしょう。

 何かおかしな動きをすればすぐにでも射殺してやるという殺気……ではないわね?

 なんでしょうかこれは?


 例えるなら、子猫が見知らぬ客に警戒して毛を逆立ててるような、そんな感覚?

 ああ、もしかして……父猫が知らない雌猫を連れてきたとでも思って焼きもちをやいている?

 ……いや、それはそれでどういうことなのよ……。


 前に屋敷を訪れた時と変わらない、のんびりした雰囲気の彼に出迎えられる私たち。

 『たまたま外に出ていた』などと言っていますが……村の男たちを返り討ちにした前例があるのです。

 何かしら、来訪者を感知する術を持っているのでしょう。


 「こんな雪の中いったい何の用か?」と、問いかけられくらいはすると思ったのですが……彼の口から出たのは寒かっただろうというこちらを気遣う言葉だけ。

 『中で暖かいものでも……』などと下心すら無さそうな顔で言われたものですから、思わず『ではベッドで温めていただきましょうか』などと口走りそうになる。


 ……王都を出る前、そして出てからのいろいろでよほど心がささくれだっていたでしょう。

 といいますか、目の前で何やら指を動かし始めたのですが。

 もしかしてと思ってはおりましたが、やはり彼は『魔道士』……いえ、これだけのモノを造るのですから『魔道具師』だったのでしょうか?


 私の『大工仕事まで得意なのですね?』という探りの言葉も『そうですね、素人の趣味程度には』と、軽く流されてしまう。

 ただの趣味で領地の中にこれだけの軍事施設を建てられてはたまったものではないのですが……。


「なにもないところですもうしわけないですが」


 本当に申し訳無さそうな顔をした彼の手により門が開き、中に迎え入れられる私たち。

 ……いえ、外からも? その屋根だけは見えておりましたし?

 薄々『背の高い屋敷が建っているのだろうな』とは思っていましたが……。


「な、な、何なのですか、あれは……!?」


「ふふっ、やっと驚いてくれましたね。

 いえね、俺も雪国で暮らすのは初めての経験でして。

 数日どころか数時間で積もる雪に、最初はどうしようかと困ったんですよ」


 木造建築でありながらも重厚さのあるその外観。

 長く庇をとり、建物と建物を繋ぐ外廊下の壁……あれって雨戸のように開閉が出来ますよね?

 もっとも、一番に目を引くのは高い場所に設えられたその入口なのだけど。


「なんと言いますか……まるで『神殿』のような作りですね……」


「おお! さすがメイド長! 一目で『寝殿』造りと見抜くとは!」


 まさか本当に神殿なのですか!?

 家をそのように建てる意味のわからない発想に、彼は『魔道具師』ではなく『魔工学士』ではないのかと思い始める私。


「このまま外で話していても寒いだけですし、遠慮なくお入りください。

 あっ、面倒ですが雪だけははたき落としておいてくださいね?」


 身につけていた外套を外してパタパタと振るう彼と同じように体についた雪を落とす。

 ……あまりの驚きに、ブーツにかんじきを付けていたことを忘れていた私。

 そのまま階段を上ろうとして……ひっくり返りそうになったのを見て吹き出したこと、しばらく忘れてはあげませんからね?

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