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第23話 ゲーマーのおっさん、お客さんをお出迎えする。

 さすがに『肉の形をした肉』を食う気にはなれなかった俺。

 軽めに『お好み焼きもどき』をつつくことに。

 そう、ゲーマーとはとても繊細な生き物なのである。


 ジーナさん?

 もちろんリクエストされたピカタを完食してた。


「ていうか、ガッツリいったなぁ……」


「パパ、ジーナは前にも言った。

 食べられるときに食べておかないと、次いつ食べられるかわからないと」


 まあ、言ってること自体は正しい。……正しいんだけどさ。


「というか外にある大量の死体、マジでどうしよう」


 もちろん、どうもこうも処理するしかないんだけどさ。

 ちなみにゲームだと、


『放置すると腐乱して、それを見たコロニーメンバーの士気がダダ下がりする』


 ので早急に処理が必須だったりするのだが。

 でもほら、さすがに現実となると……触りたくないよね、死体。

 それも、罠にかかったり矢が刺さってたりでそこそこスプラッタな状態だしさ。


 なんかこう『どんな人間でも死んでしまえば仏さん』みたなこと言う奴もいるけど……少なくとも手前勝手に襲ってくるような連中の死体をそんなふうには思えない。

 そう、俺の心はバチカン市国並みに狭いのだ。


「……よし! とりあえず現実逃避しよう!」


「パパ、なくなった食べ物は戻らないよ?」


「いや、今はお肉の話とかしてないからね?」


 さっき逃げた連中が『どうなったのか?』だけでも確認しておこうとマップを開く。

 数人は途中で息絶えたらしく、村に戻れたのは五人だけみたいだ。

 そのうちの一人の男、どうやら『村長』らしいのだが――


「……幼女様の屋敷の中庭で、家族総出でなにかやってるっぽいけど。

 さすがに音声までは聞こえないからなぁ」


 画面には、ルミーナ嬢とメイドさんたち。

 五体のポーン前に並ばされている七つのポーン。

 たぶん、今ごろ俺のことを『諸悪の根源』みたいにあることないこと、いや、ないことないことの捏造とかしてる――あっ。


 ルミーナ嬢の隣、女騎士様のポーンが動いたと思ったら村長のポーンが血を撒き散らして動かなくなった。


「……おおう。

 これって多分『斬られた』ってことだよな?」


 中庭のポーンたちがワチャワチャと動き始めたかと思ったら、

 

・村長以外の六人は、そのまま屋敷から追い返され、

・ルミーナ嬢のメイドさんたちがお着替えというかガチガチに重武装を始める。

・お屋敷から全員で村に降りていったかと思えば家々を御用改めしていき、

・慌てて隠れた男や、抵抗したらしい人間が全員外に引きずり出されて……。


 えぇぇぇぇぇ……。 なにこの唐突に始まった『ンシュ村連続殺人事件』……。

 村長が何を吹き込んでどんな怒りに触れたのかはわからないけど、幼女様の行動が迅速で徹底しすぎてるんだけど?


「ていうかこれ。

 画面越しじゃ『某ドット絵ソシャゲ』の広告くらいにしか見えないけど、『横溝○史作品(やつは○むら)』みたいなことが本当に起こってるんだよな……」


 自分の家の周辺でも似たような惨事が放置されてることは棚に上げ、愛らしい顔をした小さなお貴族様にただただ戦慄する俺だった。


* * *


 そこから数日――というか、三日が経過した。


 もちろん、その間ずっと家の中でのんびり……などできるはずもなく。

 少し離れた場所に火葬用の簡易炉を設置したり、そこへ大量の死体を運んでは放り込んだり。

 ただただ気が滅入る作業に追われる毎日。


 それにもようやく一段落ついたかと思ったら――


『ピピピ……ピピピ……』


「ヒウッ!? パパっ! また変な音が鳴ったっ!!」


 久々のアラーム音。

 もっとも今回は、

 『赤ポーン(襲撃者)』を知らせるけたたましい警告ではなく、

 『白ポーン(来客)』を知らせる、控えめな鳥のさえずりのような通知音だったが。


「……どうやら、この前お邪魔したお屋敷のメイド長さんが何人か連れて『遊びに』来たみたいだね」


「わかった! 撃ち殺す!」


「ちがう。そうじゃない。お姉さんはただの来客だからね?」


「女の客。つまりパパを惑わす敵! どう考えても撃ち殺すべき!」


 うちの娘が物騒すぎるんだが?



 それから十分ほど。

 坂道を上がってきたのは予定通りのメイド長――リアンナさんだった。

 『山の中を女の人だけで⋯⋯』と思わなくもないが、後ろに控える使用人さん。

 戦士とか忍者の類いの『アレ』だからなぁ。

 

 ていうか、警戒のため、そして非常時の報告のため。

 何人かは様子をうかがうために隠れるかと思ったんだけど、そういう動きをする気配もなく。


「あら? これはこれはヒカルさん。

 わざわざお出迎えと、まことに恐縮です」


「いえいえ、出迎えというか、たまたま外に出ていただけですので。

 ようこそお越しくださいました、リアンナさん」


 おっとりした表情の彼女と、柵に設えた押戸越しに挨拶を交わす俺。

 ……もちろん『たまたま』なんてのは嘘なんだけどさ。


「山道は寒かったでしょう。

 ご迷惑でなければ、中で何か温かいものでもいかがですか?

 もちろん皆さんもご一緒に」


「ふふっ、ありがとうございます。

 ではお言葉に甘えてしまおうかしら?」


 「少々お待ちを」と声をかけて、マップ画面を開き。

 『柵から門の前までの罠の発動』を一時停止。


「ああ、道をそれた柵の向こう側には絶対に立ち入らないでくださいね?

 オオカミやクマに備えた罠が『びっしりと』仕掛けてありますので。

 うっかり踏み込んでしまえば怪我ではすみませんから」


「まあ、それはそれは……ふふっ、そうですよね。

 このような山の中では何がおこるかわかりません。

 備えはとっても大事ですものね?」


 何を考えているのかまったく読めないリアンナさんの笑顔とは裏腹に、背後の女性たちは『そびえ立つ防壁』の存在感に口元を引きつらせる。

 もっとも、そんなリアンナさんの顔も、門扉を開き、中の建物を見た途端――


「……ヒカルさんは大工仕事までお得意なんですね?」


 大きく見開かれることとなるのだが。

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