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第16話 ゲーマーのオッサンと高床式住居と肉食獣。

 『開戦は間近!』


 とばかりに、ジーナさんの戦闘技術強化&防衛設備の拡張に本腰を入れよう――としていたその矢先。


「今日は朝からすごい吹雪いてるな……」


「これまでは、小屋のまわりがここまで雪深くなることなんてなかった」


 三年間も竪穴式の小屋で暮らしてきたジーナさんが驚くほどの大雪に見舞われた俺たち。

 これ、こんな吹雪が続いたら辺りの雪かきだけで他のことに何も手が回らない……いや、家に出入りが出来なくなるからある意味完璧な防衛体制が整うんだけどさ。


「……ていうか本当に吹雪のせいだけなのかな?」


 俺がこっちに来たばかりの頃と比べ、明らかに『風当たり(物理)』が強くなってる気がするんだけど。


「これ、もしかして何も考えずに木を伐りまくったせいで風向きが変わって、うちのまわりが吹き溜まりになってたりしない……よな?」


 自分のやらかしかもしれないと思い当たった瞬間、じわっと背中に冷や汗がにじむ。

 日本でも豪雪地帯だと1メートル超の積雪とか普通にあるもんな。

 ソースは『立山黒部アルペンルート』。

 1メートルどころか10メートル、20メートル積もる……さすがにあそこは極端過ぎるか。


「ジーナさんが村で暮らしてた頃は冬、雪が積もりだしたらどうしてたの?」


「んー、ジーナはほとんどおうちの中にいたからよくわからない!」


 それは箱入りのお嬢様だったのか、それとも軟禁されてたのか、はたまたインドア派だっただけなのか……。


「あっ! でも、寒くなると玄関が高いところに変わってたと思う!」


 ああ、そういえば小学校の頃、白黒写真で二階から出入りしてるのを見たような見てないような。


「ならさっそく、うちも二階建てに改装――」


 と、勢いよく立ち上がろうとした俺。

 ここで重大な事実に気づく。


「……スターワールドの建物って全部平屋だったんだけど……」


 二階のある家……建てられるのかな?


* * *


 ――結論から言えば『二階建ての家』を造ることは出来なかった。


 これはゲームのシステムがそういう仕様になっているのか。

 それとも俺の『スターワールドの世界に二階建ては無い』という固定観念が邪魔をしてるのか。


 とはいえ、平屋ながらに『土台を高くした家』を建てることには成功した。

 そうだね! みんな大好き『高床式住居』だね!

 そんなもの百葉箱でしか見たことがない? ……確かに。


 もちろんあんな外から中が覗き込めるようなスッカスカの外壁はしてないし、雪の重さにも耐えられるように梁や柱だって立派なものになってるんだけどね?


 いや、状況が落ち着いたら生産施設や寝室は別の建物に移していく予定だし、そうなると渡り廊下も出来るから高床式住居というより『背の高い寝殿造り』と呼ぶ方が正しいかも?


 『高床』部分は高さを約3メートルに設定。

 吹き込む雪を防ぐための囲いと出入りできる扉も完備。

 外から見れば完全に『二階建て』にしか見えないけど……あくまでこの家は平屋なのである!


「ということで!

 最初の高床式住居と比べれば縄文時代から弥生時代!

 もしかしたら奈良時代、はたまた平安時代くらいまでいっきに進化したおうちです!」


 ジーナさんもこれからは『縄文美人(野生児)』あらため『平安美人』……いや、まだまだ彼女の体にはふくよかさが足りないから平安美人は無理だな。

 体は臭いまま……平安時代も体臭はキツかったみたいだしそこはクリアか?


「一週間でおうちがお屋敷に変わった……。

 というか大きさが凄いことになった……」


「まぁ中は相変わらずギャランドゥ……じゃなくてガランドウなんだけどね?」


 とりあえずちゃんとした床も出来たし食卓とベッドだけでも作っておかないとだな。


* * *


 少しだけ話は戻り。

 俺が一生懸命、家の建て直しに励んでいたころのジーナさん。

 彼女が言っていた「私は弓が得意じゃない」という発言。

 どうやら彼女の腕前云々ではなく、それまで使っていた弓の性能に問題があったらしく。


 まあ、素人が作った『ただ弦を張っただけの木の棒』みたいな弓じゃ、まともに狩りなんてできるわけがないもんね?

 俺が作った弓である『スターワールド印の矢いらずの長弓』を手にしてからというもの、彼女の腕前はぐんぐん上達。


 技能レベルの上昇とともに、毎日仕留められる獲物の数も右肩上がりで増えていき――


「パパ! かまくらの中がお肉でいっぱい!

 お肉! お肉! お肉がいっぱいだよっ!!」


 ちょっと落ち着け、野生児。

 あと、それは『かまくら』じゃなくて『雪室ゆきむろ』……まぁ見た目は一緒だし今はどうでもいいか。


 いや、俺だって肉は食べたいよ?

 むしろ食べたくて仕方ないよ?

 でもさ、今そこに山積みになってるのって――


『狼と兎の死体』


 なんだよ?

 そう、俺にだって狩りまでは出来るかもしれないけど、それを『食肉』にする術が無いのだ。

 何しろ俺はシティボーイ。

 スーパーでパック詰めされた肉しか触ったことがないからね?


 もちろん『食肉解体台』の設置まではもう出来てるんだ。

 でもほら、解体なんてしたら……血とか出るじゃないですか?

 ゲーマーならゾンビ物でスプラッタも慣れてるだろうって?


 いやお前、ゲームと現実をごっちゃにするとか何かの犯罪のたびにエロゲ、エロアニメ、ロリコンをやり玉に挙げて批判する自称評論家かよ!!


「ちなみにジーナさんは……動物の解体とかできたり……する?」


「無理!!」


 元気よく即答する彼女。


 でしょうね……。

 彼女のワクワクとした、むしろ肉食獣のようなギラギラとした視線に押し切られ、いよいよ覚悟を決めることになった俺。


「うう……うう……あああ……。

 かゆ……い……うま……」


「パパがおかしな顔で唸りだした!?

 ていうか、なにこれ!?

 見たこともないくらい綺麗なお肉!!

 ……えっ!? 骨とかモツはどこにいったの!?!?」


 どうやら俺が獲物の解体をすると、入手できるのは肉と毛皮だけになるらしい。

 骨や内臓は跡形もなくどこかに消えてしまう仕様のようで、個人的にはホラー要素が減ってありがたいんだけど――


 それってつまり、出汁用の豚骨とか鶏ガラも手に入らないってことだよね?

 あと、この肉……いったいどこの部位なんだ?

 そんな疑問を抱えつつ死んだ顔で黙々と、狼と兎をさばき続ける俺だった。

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