第15話 ゲーマーのおっさん、『乱暴(ランボー)者』になる?
「パパ! ジーナもその弓が使いたい!!」
「お、おう」
矢を番えることなく放てる弓。
オーバーテクノロジーどころか魔法の領域の武器である。
そんな、そこはかとなく厨二心をくすぐる武器に、『属性持ち』のジーナさんが飛びつかないはずもなく。
もちろん俺としてもぜひ使ってほしい。
そもそも彼女のために作ったようなモノだしね?
使い倒して『技術』を上げて。
ウサギとか狼とか――ついでにジーナさんに害を成しそうな『人間』だってバシバシ狩ってもらいたい。
でも、ひとつ問題が……。
それには彼女に『ヒカル・コロニー』へ参加してもらう必要があるのだ。
マップ上に表示されてる彼女のポーンの色は『青』、つまり友好状態である。
コロニーに参加してもらう条件はすでにクリア出来てるんだけど――
「どうやって誘うのかがわからないんだよなぁ……」
口頭で誘えばいいのか?
それとも俺の知らない何かしらの条件があるのか?
ゲームだったら勝手に加入してきたり、戦闘で捕まえた敵の忠誠心を下げたり、あるいは奴隷として買ってきたりしてたけど……。
とりあえず、マップ画面に表示されてるジーナさんのポーンにタッチしてみる。
……なんだろうこれ。
とくにやましいことはしてないのに、妙に背徳感ある行為に思える不思議。
ポップアップで表示された彼女のステータスは名前と年齢だけ。
職業とか技能のパラメーターが出ないのは、そういう仕様なのかコロニーメンバーでは無いからか。
……てか勧誘するってボタンがあるじゃん!!
タイムラグなくそこをタップ。
『ジーナをコロニーに誘いますか?』
もちろん選択肢は【YES】一択なんだけど……えっと、ちょっと待って?
『ジーナ、俺の本当の娘になってくれないか?』
『ジーナ、俺の子どもを生んでもらえないか?』
……何この極端な選択肢!?
どうして扱いが『家族』か『嫁』の二択しかないんだよ!
そこは普通に『コロニーに参加してもらえないかな?』でいいだろうが!!
『※表示された勧誘文以外でのコロニー勧誘は無効です』
えっ? 俺の考えに反応して追記が出たんだけど?
もしかして喋れる……自我みたいなものがあるのかこのシステム!?
……
……
……
いや、そこの返事は無いのかよ!!
* * *
「家族! ジーナとパパは、これから本当の家族!!
シーナのパパはパパで、パパの娘はジーナ!!」
「お、おう、そうだね」
『あのさ……もし嫌じゃなければ。
これからはジーナさんのこと、本当の娘だと思ってもいいかな?』
という俺の言葉に飛び跳ねんばかりの――というか本当に飛び跳ねながら喜んでくれているジーナさん。
……なんというかこう、純真な田舎娘を利用するためだけにだまくらかしているようで、非常にいたたまれない気持ちなんだが?
いや、もちろん? 彼女に嘘を言ってるとかじゃないんだよ?
もっとも、そんな喜ぶ彼女の姿――『娘』という言葉に『そこはかとない寂しさ』というか、どこか複雑な感情がないわけではないけど。
それでも彼女と家族になれることに、彼女が感じているのと同じ嬉しさはあっても後ろめたさなどまったくない。
でもほら……ね?
夢見がちな(ゲーム脳の)オッサンとしては、
『娘じゃなくて……お嫁さんじゃダメ……ですか?』
みたいな? みたいな?
そんな童貞丸出しの展開を夢見てしまうのも仕方がないと思わないか?
いや、もちろん俺は童貞じゃないけど。……ないけどっ!!
うん、まぁそれはそれとして。
もしも今後、ジーナさんにちょっかい出すような奴が現れたら。
あまつさえ求婚しようというような不埒な男がうちに来た時のために!
父親として! そう、父親として!
そんなヤツは叩き潰せるように体を鍛えておかねばならないのだ!
……などと、独身男がいきなり娘を持ったことでテンションが迷子になってるのはさておき。
ヒカル・コロニーに加入したことで、俺の作った『矢のいらない弓』を問題なく使えるようになったジーナさん。
彼女にはさっそく射撃の訓練に励んでもらうとして、次は俺の仕事――防御設備の強化だ。
具体的には、
・『四方を囲むように柵を設置』して侵入経路を制限し、
・『通り道に大量の罠を設置』して、奇襲や襲撃に備える。
主な目的は『敵の数を減らすこと』そして『自分たちが退却する時間を稼ぐこと』となっている。
……というか、俺って(凍死と餓死が隣り合わせだったが)山の中の一軒家で暮らす親切な少女に拾われただけのオッサンだよね?
それがどうして『ベトナム帰りの帰還兵』みたいな状況になってるんだよ!!
『モノ作り(サンドボックス)ゲーム』とはこれほどまでに殺伐としたものなのか!?
……そういえばスターワールドでも開始三日目にコロニーが襲われるのは固定イベントみたいなものだった。
まあいいさ。
売られた喧嘩は『言い値でイイネ!』が21世紀をハムラビ法典で生きるゲーマーの正義。
相手が山賊だろうが村人だろうが、殲滅戦だって辞さない所存である。
「とはいえ、村の人口もこっちに手を出してきそうな人間の人数も把握できてない……いや、調べるのは難しくないか」
『広域マップ』から村のある『グリッド(マス目)』をタップすれば、デフォルメとはいえ正確な地図と住民の情報も見られるし。
便利な時代……いや、機能である。
「てかこれと言って手出しをした覚えもないのにどうして村の連中、それも男連中がほとんど『赤ポーン(敵対状態)』になってるんだよ……」
ただ、いくら情報が手に入っても、こちらがたったの二人であることに変わりはなく。
損害を計算せず物量で押し込まれるだけで負けてしまうのもまた事実。
もちろんただの村人、それも『こそ泥』しか出来ないような連中がそこまでの覚悟を持ってるとも思えないけどさ。
「何にしても、もっと大量の罠をしかけておかないとな」
ちなみに現在仕掛けてある罠は、
『トラバサミ』+『跳ね上げ式の木の杭』という、殺意マシマシなコンボ罠。
ゲームの仕様としてコロニーメンバーは罠に掛からない設定になっているので、自分にもジーナさんにも危険がないことは確認済みである。
「それにしても作れるのが罠だけというのも歯がゆいな。
塹壕……待ち伏せ……機関銃……。
チッ、素材さえあればタレット(自動迎撃装置)だって置けるのに……!」
思考が完全に戦闘モードに移行しているがここは異世界なのだ。
しかも法律なんてあってないような辺境の地。
『やられる前にやる』
――それこそが、自然の摂理ってモノではないだろうか?




