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第14話 ゲーマーのオッサン、ダークサイドに堕ちそうになる。

『他人の金で食う飯は旨い!』


 とまでは言わないが、久しぶりにドングリ以外の食べ物、それもお腹いっぱいご飯が食べられたという幸福感は格別のもので。


 ……もっとも、その幸せも『勝手に人の家に忍び込み家探しをする馬鹿』の存在で消し飛ばされてしまったのだが。

 いや、もしかするとこの世界、あの村ではそれが『普通』の行為なのかもしれないけどね?


 必要なものや使える道具はすべて新居に運び終えていたため、これと言った実害がなかったから良かったものの。

 けれども、あの小屋にはジーナさんが親父さんと共に過ごしてきた思い出――たとえそれが楽しいだけのものではなかったとしても――が詰まっていたはず。


 もっとも、当の本人はこれと言って気にする様子もなく、無邪気な顔で荷下ろしを手伝ってくれている。


「さすがにお家の中を荒らされるのは初めてだけど。

 誰かに見張られてたことは何回かあるよ?」


 何でも無いことかのように、さらっとそんな事を口にする彼女。


「……いやいやいや!

 そんなことがあったんならもっと早く教えて欲しかったんだけど!?」


 村から追い出した、しかも父親を亡くしたばかりの年若い少女を監視する。

 それが彼女を心配する親心のようなもので無いことは、今回の空き巣のような行動により明らかだろう。


 ならば一体どんな目的が?

 俺の心が汚れているのか、それともエロゲの影響か。

 ロクな想像が思い浮かばない……。

 

 今回の家探しに関しては、おそらく領主の館に運んでいた『荷物の中身』を探りたかったのだろう。

 そしてあわよくば盗れるものがあれば――などという下衆な根性での行動だったに違いない。


「ちょっと本格的に防犯……。

 いや、『撃退』と『討伐』の準備を進めないとダメみたいだな」


「こんな何にもない村の、何にもない小屋を襲う山賊なんていないよ?」


「村には何もないかもしれないけどさ。

 うちには――ジーナさんっていう宝物があるからね?」


「……パパがすごいことを言い出した!?」


 耳まで真っ赤にして、視線を右往左往させながら俯いてしまったジーナさん可愛い。


 ……いや、冗談じゃなくてさ。

 もしも俺のことを助けてくれた。

 こうして一緒に暮らしている君に何かあったら。


 もしかして、これが『独占欲』というものなのだろうか?

 ガールズバーや地下アイドルに貢いで破産するオッサンの気持ち、今なら少しだけわかる気がする。

 そんな三十一歳の冬の日。


「余計なことばっかり考えてると闇堕ちしそう」


「なにそれカッコいい……」


 ちょっとオカシナ感性の持ち主のジーナさんである。


 先にもマップで確認したが、近くに人影はなし。

 加えて『アラート機能』も設定済み。

 『赤ポーン』――敵意を持ってこちらに接近する人間がいれば、警告音で知らせてくれるはず。


 ……とはいえ、警報が鳴ったところで、今の俺にそれをどうこうできる手段は無く。


「とはいえ、使える材料は大量の木材だけ。

 作れそうなのは棍棒?

 いや、高校の選択授業で三年も剣道をやらされてたんだし、ここはやっぱり木刀かな?」


「パパ、まずは貰ってきた荷物を、お家の中に入れる」


「……はい、仰るとおりです」


 まったくもって、もっともな話である。


* * *


 ジーナさんと二人、ちゃちゃっと荷降ろしを終えた俺。

 武器の生産のため、さっそく『木材加工台』を設置することに。

 読んで字のごとく、『木』を素材にした装備品や道具を作るための作業テーブルだな。


 もちろん、あの村にだって武器――ジーナさんが腰に差してるような『でっかいナタ』のようなモノはあるだろう。

 猟師がいれば、狩猟用の弓を使える人間だっているはず。

 だから最低でも『火縄銃』レベルの武器が欲しいところだけど……現状、『鉄』が無いんだからどうしようもない。


 というわけで、予定通りまずは『木刀』を制作。ついでに『弓』だな。

 さらに篭手、脛当て、兜、胴丸と、木製の防具一式まで揃えていく。

 ……まぁ、防御力には期待できないけど、見た目で『威圧』くらいは出来る――かもしれないし。


「今のなに!? いつもと同じでトントンしてただけなのに!!

 長さとか太さとか、どう考えてもその形にはならない丸太から凄い弓が出来た!!

 パパ! ジーナも! ジーナの弓も作ってほしい!!」


「もちろん、そのつもり……なんだけど。

 まずは、ちゃんと『想定通り』に動くかどうか確認してからね?」


 家を出て裏手に回る。

 それなりに広くて開けた場所を選び、雪をどかして囲いの壁を建設。

 その中央に、木でできた『人型の射撃的』を設置。


「これで……よし!

 ジーナさん、ちょっと試し撃ちお願いできるかな?」


「うん! パパの頼みなら喜んで……って言いたいけど。

 さすがに『弓』だけじゃ試し撃ちはできないよ?」


 至極真っ当なツッコミが飛んできた。

 ……たしかにその通り。

 『普通の弓』なら矢がないと撃てないもんね?


 だけど、今回作った弓はただの弓じゃない。

 『スターワールド』――ゲームの『技能』で生成した『特殊な装備』(になっているはず)なのだ!!


「まぁまぁ、騙されたと思って! ほら、一回引いてみて?」


「わかった! ジーナはパパのこと信じる!!」


 キリッとした表情で弓の弦を引き絞るジーナさん。


 スターワールドでは弓だろうが銃器だろうが、いちいち『弾』を持ち歩く必要なんてなかった。

 おそらくは構えるだけで、それとも引き金を引くだけで。

 なにやら不思議な力で――


「……あれ? 矢が……出てこないね?」


「うう……信じたのに……パパを信じたのに……」


 またまた顔を赤くして、まるで裏切られた子犬のように俺を見上げてくるジーナさん可愛い


「え、えーと……。

 おかしいなー……?」


 目をそらしながらも「ちょっと貸して?」弓を受け取り、的の前に立ち、構える。

 『技能』で補正がかかっているのだろう、綺麗なフォームで弓を引き絞ったその時――


「パパ!? なにも無いところから矢が出てきた!?」


 いつの間にか握られていた矢羽。

 指を離すと『シュンッ!』と鳴る音とともに放たれた矢が、的の中心に突き刺さ――らない。

 中心どころか人形にすら当たってないという。


「……」


「……ハズレたね?」


 うむ、どうやら『ゲームの設定』はちゃんと引き継がれているらしい。

 だとすれば、なぜジーナさんの時には矢が出なかったのか――

 あっ! そういえば彼女、今のところ『コロニー』のメンバーじゃなかったんだった……。

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