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第11話 ゲーマーのおっさん、他所でも料理をさせられる。

 ジーナさんの自由過ぎる行動に、逆に余所者の俺に対する警戒感が下がった様子の幼女様。


「その娘がそれほど気に入っているメープルというものに少し興味が湧いてきたのです。

 ミーナも少し味がみてみたいので、グラスに入れて持ってきて欲しいのです」


「それはダメ。何故なら味見はジーナの役目だから!」


「ジーナさん、他所に差し上げたお土産の味見をしようとするのはさすがに……。

 ご領主様、メープルシロップはあくまでも何か……そうですね、パンケーキなどに添えて召し上がるような、はちみつのような代物でございます。

 彼女のように直に飲もうとするのはさすがに……普通の方は胸焼けするくらいの甘さでございますので」


「なるほど、メープルとは樹から採れる水飴ではちみつほどの甘さのあるモノなのですか。

 ……はちみつ、商人さんなのですからその値段はわかっているのですよね?

 それを土産として、このような辺境の村の領主に小樽にふたつも持ってくるとは……ふふっ、さすが都から来た人は剛毅なのです!」


 なんだろう? ご領主様の話し方――声のトーンが少し低くなったような?


「パパ、ジーナはその『ぱんけぇき』というモノをまだ食べてない」


「うちにはその材料がなかったからね?」


 奥に下がっていたメイドさんが小さなグラス――切子グラスのおちょこのような、小さな入れ物にメープルシロップを注いで持ってくる。


「へぇ……濃い琥珀色で美しい……この香りは……木の香りでしょうか?

 密を何かのチップで燻した……それとも何かの樹液を煮詰めた……」


 ひと目見ただけで原料を推測してしまうご領主様。

 というか幼女様、話し方から子供らしさが抜けてますよー……。

 小指の先に少しだけメープルをつけ、舌先でそれをペロリと舐める姿はその年齢では考えられないほどに妖艶で。


 俺はロリコンじゃない。

 俺はロリコンじゃない。

 俺はロリコンじゃ……ないっ!


「これは……確かに濃厚な甘さなのです!

 それでいてはちみつのような癖のある匂いもなく、後味もスッキリしている。

 リアンナ、商人さんの言った『パンケーキ』というものの作り方は知ってるのです?」


「申し訳ございませんお嬢様。

 そのような名の食べ物は聞いたこともなく……」


「ふっ、そんな時はパパにお願いすれば良い。

 なぜならパパはグルグルグルグルするだけで何でも作れる!」


「いや、さすがにパンケーキはグルグルだけでは作れないからね?」


 フライパンの上でグルグルしちゃったら生地が広がってクレープになっちゃうし。


「商人さんは商人ではなく料理人なのです?」


「いえいえ、そのような大層なモノではなくただの男の手料理でございますれば」


「……なるほど、作れないとは言わないのですね?

 彼女の家には材料が無かったと言いましたが、何か変わった食材が必要なのです?」


「そうですね、さすがにパンケーキその物を作るのは無理かも知れませんが……。

 小麦粉やそば粉、玉子に牛乳やバターなどございましたらそれなりに近しいもの……ガレットやクレープなら可能でしょうか」


* * *


 などと余計なことを言ってしまったのが運の尽き。

 何故かご領主様の館の厨に案内されてしまった俺。


「いや、さすがに身分の確かではではない人間を台所に通す、あまつさえご主人の口にされるものを作らせるのはどうかと……」


「すくなくともあなたが『男爵家の末娘』を命懸けで暗殺に来るような変わった人間には……いえ、どこからどうみても変わった人間にしか見えてはおりませんが」


 クスクス笑うメイド――リアンナさん。

 いや、否定するなら否定するでちゃん否定してくれないかな?

 というか幼女様、男爵様の末娘なのか。

 間違いなく将来美人さんになるであろうあの風貌、八歳とは思えない聡明な受け答え。


 屋敷の中に他の家族らしき人間が一人もいないってことは彼女も訳ありなんだろうけど……。

 うん、自分自身とジーナさんの生活だけでもいっぱいいっぱいだし余計なことに首を突っ込むのはよろしくないな。


 厨から外に出て、案内されたのは小さな小屋。というか『食材倉庫』――季節的には天然のチルドルームってところだな。

 うちにも同じような部屋を作るつもりではあるんだけど、そもそも入れる食べ物が皆無という。


 綺麗に整理され、日付の書いた小札まで付けられた棚に並ぶのは、


「小麦の袋はこちらに。蕎麦などのざっこくはあちらにまとめて置かれています。

 さすがに冬ですので野菜など……種類はそれほど多くはありませんが、ネギとキャベツ、それからイモだけは大量にありますね。

 確か朝から卵と牛乳が届いていたはず……そちらの棚に並んでいる分だけですので無駄使いは控えてくださいね?」


 貴族様の冷蔵庫にしては地味な食材の数々。

 ていうか、卵とか牛乳って冬でも採れるものなんだ?

 久々に見た『ドングリ以外の(まともな)』食材にあれやこれやと考えた末、リアンナさんの許可をもらって調理を開始!!


* * *


「……ひとことだけいいです?」


「ふあぃ、あんれひょうは?」


「お行儀が悪いのです!

 喋る時は口の中の物を飲み込んでからにするのです!」


「……んぐんぐ……ゴクッ。

 これは失礼いたしました。

 それで、何かお聞きになりたいことでもございましたでしょうか?」


「むしろ聞きたいことしか無いのです!

 ええと、まずはこの、ミーナの前に置かれたペラペラのヤツは何なのです?」


「それは最初にご説明した『クレープ』ですね。

 お好きなようにメープルシロップをかけ、小さく切って……すでに召し上がっておられますね。

 ……お味にご不満などございましたでしょうか?」


「とても美味しかったのです!

 というかメープルシロップがとてもいい仕事をしているのです!」


「それは良うございました。では、私は食事の続きを」


「だから待つのです!

 その……あなたと娘の前に置かれた『ソレ』はいったい何なのです?」


「これですか? これは『お好み焼き(肉なし)』と『ねぎ焼き(肉なし)』と『イモのガレット』ですね」


「三品ともとても美味しゅうございました」


「そう、それなのです!!

 なんかこう、やたらと食欲が掻き立てられる、良い匂いがしてるのです!!

 それなのにミーナの前にはこのペラッペラのクレープしか置かれていないのです!! どう考えてもおかしすぎるのです!!

 あと、どうしてリアンナは食べてるのです!?」


 いやだって、小麦粉、卵、キャベツ、ネギがあったんだよ?

 そんなの、関西人なら粉モンにして『焼きたく』なるに決まってるじゃん!

 ……調味料に醤油みたいなのもあったしさ。


 冬場だから大丈夫だとは思うけど、さすがにサルモネラが怖いのでマヨネーズは自重したんだけど……『能力』を使って作るんだから……いや、普通に食中毒が(そこそこ頻繁に)起こるゲームだから危険だな。


「さすがパパ!

 甘いのもいいけどしょっぱいのも美味しい!」


「ミーナにも少し分けるのです!」


 そしてまたジーナさんに伸ばした手を叩かれる幼女様なのであった。


* * *


~食堂での一コマ~


「……というような料理をご領主様にお出ししたのですがいかがでしょう?」


「そうですね、とくに問題はないと思いますが……まずはその『クレープ』だけをお嬢様の前に置きましょう」


「えっと、それはどうして……?」


「もちろんその方が『いい反応』をしていただけるからです」


 どうやら幼女様だけではなく、メイドさんまで掴みどころのない人だったらしい。

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