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第10話 ゲーマーのおっさん、傍若無人な保護者の行動に戸惑う。

「これはこれは、誠に失礼いたしました。

 いきなりの来訪にも関わらず、お出迎えありがとうございます。

 私、都の方(関西在住だしね?)から参りました。

 あちらでは商売人(体を壊すまでは営業職してたしね?)をしておりました、ミナモト・ヒカルと申します」


 相手が大人相手であろうが、子供相手であろうが、上位者に対する対応を変えるのは馬鹿のする行為である。

 失礼にならないよう、幼女と目を合わせず、口元を見ながらの挨拶。

 両手をぴたりと揃え、綺麗に腰を曲げ最敬礼(斜め45度)をする。


「ふふっ、このような鄙の地ではなかなか見ない丁寧なご挨拶なのです。

 見てもらった通り、そんなに畏まるような相手はいないのですよ?

 だからもっと普通に話しても大丈夫なのです!」


「はっ! 温かいお心遣い、誠にありがたき幸せにございます!」


「……もしかして、人の言うことを聞かないタイプのおじ……お兄さんなのです?

 とりあえず、玄関を開けっ放しだと寒いのです。

 せっかく出向いてもらったのですから、温かいお茶くらいは出すのですよ」


「なんとお優しい……さすが、ご領主となられるようなお方はお心が広い!

 では、お言葉に甘えまして……ジーナさん、お屋敷に入れて頂く前に、まずは外套と履物の雪を払いなさい。

 それと、何もございませんが、本日は手土産を持参しましたので、ご笑納いただければこれ以上の喜びはございません」


 外套とかんじきを外し、バタバタと雪を払ってから雪車に積んでいた小樽を二つ。

 後ろに控えている女性へと手渡す。


 一人はメイド服こそ着てはいないが、その柔らかい雰囲気がいかにもメイドさんという佇まいの二十代前半の女性。

 もう一人も鎧こそ纏っていないが、腰に長剣を差した女騎士のような女性だ。


 最初に小樽を渡したメイドさんがそれを抱えたまま、少しだけ困惑した顔でこちらに問いかけてくる。


「ええと、お持ちいただいたものに不躾な質問で申し訳ありませんが、こちらはどのような品なのでしょうか?」


「これは気が利きませんで、ご説明もせず申し訳ございません!

 こちらは甘味……ええと、メープルシロップというモノにお聞き覚えなどございますでしょうか?」


「……これは甘味なのでございますか?

 メープルシロップ……申し訳ありませんが、聞いたことはないですね」


「甘いものなのです?

 こんな田舎で甘いもの……それも冬に用意できる物となると、干した果実か何かなのです?」


「さすがご領主様はご慧眼であらせられる。

 『樹から採れる』という意味では、ほぼ正解でございます。

 そうですね、わかりやすく例えるならば、水飴……でしょうか?」


「樹から採る水飴……それもう絶対に果物じゃないのです!

 全然正解ではないのです!」


「ははっ、これは手厳しい」


「本当におかしな人が来ちゃったのです……」


 なかなかに掴みどころのない(相手もそっくりそのまま、同じことを思っているのだが)幼女ではあるが、その顔はどこか楽しそうだった。

 メイドさんに先導されるまま通されたのは――まぁ玄関先の小部屋なんだけどさ。

 常識で考えて、いきなり現れた妙な平民を奥に通してくれるはずなんてないからね?


 俺が知っているような、ふわふわのクッション付きの椅子ではなく。

 木製のベンチのような長椅子と大きな机が置かれた――おそらく応接室。

 というか、狼の毛皮をまとった怪しげな自称異邦人を客人と認めるだけの寛容性を持った幼女とか扱いにくいにもほどがある(もちろん相手もry)んだけど?


 しばらくして、テーブルの上にそっと出されたお茶を一口含んでみるが、緑茶や紅茶のような馴染みのある味ではなく。


「この風味は……なんでしょうか。

 遠くにゴボウの風味が見え隠れ……かといってごぼう茶などではなく……。

 総合的に判断すると土湯というところですかね?

 ああ、これはもしかして『平民は泥水でも啜ってろ』的な貴族様の意思表示みたいな?」


「ミーナはそんなことしないのですよ!?

 お外は寒いからと、気を遣って体が温まる薬湯を出してあげたのにえらい言われようなのです!

 それに、隣の子がいきなり何か丸いものを懐から取り出して食べ始めたのです!

 一体何なのですか、この二人は……。

 あれだけ丁寧に話してたくせに、家の中に入れた途端に自由奔放にもほどがあるのです!」


「ふっ、これはドングリ。

 パパが作ってくれた、世界一おいしい料理」


「どんぐりが世界一とか普段はどのような物を食べさせられているのですか……」


 思わずと言った様子で、後ろに立つメイドさんがボソッと呟く。


「ジーナさん、ドングリの話はしないように言ったよね?

 それとパパじゃなくヒカルって呼ぶようにも言ったよね?

 あと、他所様のおうちの机の上にどんぐりの殻を散らかすのは止めようね?

 ジーナさんのドングリ発言でメイド風のお姉さんが俺のことをドン引きした目で見てるんだけど?

 というか最初に説明しましたが、俺はこの子の父親ではないですからね?

 むしろ俺こそが拾われた人間、つまり彼女のほうが俺の保護者ですからね?」


「……もしかしてあなたは保護された相手に『パパ』と呼ぶことを強要する変態さんなのです?」


「完全に誤解です。

 むしろ私は『名前でもお兄さんでもオッサンでも好きなように呼んでくれて構わない』と伝えたのですが」


「好きなように呼んでいいならパパでもいいはず!」


「女の子みたいに普通に話してくれていいのですよ?

 というか、変わり者は変わり者を引き寄せるのです?

 あと、ドングリってそんなに顔がほころぶほど美味しいものなのです?」


 興味を惹かれたのか、ついついという感じでジーナさんの手のひらの上にあるドングリへと手を伸ばすご領主幼女。


「この子、ミーナの手を無言で叩いたのです!?」


 どんぐりを取られまいとそれを迎撃するジーナさん。

 幼女vs小柄なクール美人……なかなかにほっこりする光景である。


 というか、見た目『ちょっとワイルドなホームレス娘』が懐から取り出した謎の食べ物を、何のためらいもなくつまみ食いしょうとするとは……なかなか読めない行動をする幼女である。


「リアンナ、どんぐりとはそれほど美味しいものなのです?」


「普通の栗とは違い、甘みもそれほどありませんので……。

 少なくともお嬢様が召し上がるようなお味ではないと思いますが」


 微妙な表情で「オススメ出来ませんよ?」と告げるメイドさんに対して何故か得意満々の表情で返すのはジーナさん。


「確かにわたしが煮ても食べられたものじゃない味になる。

 でも、パパがグルグルグルグルすると、びっくりするくらいおいしくなる。

 あと、お茶はおいしくないので、メープルをコップに入れて持ってきてほしい」


 ジーナさん、相手はお貴族様だって理解して?

 そろそろ無礼討ちされても文句を言えないくらい失礼ポイントを稼いでるからね?

 ほら、後ろに立ってる、ちょっとエッチなボディをした騎士のお姉さんが顔を赤くしてプルプルして……怒ってるんじゃなくて、笑ってるみたいだからセーフなのかな?

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