ヒカリ
ーずっと子孫の顔が見れるぜ?ー
ーそんなに国の存亡が気になるかね?ー
ー……アナター
まだ体の節々が痛い。地球のヘソから鉱物を採掘する。
手に豆ができるならいい、死んだ体ではそんな変化(適応)はない。
かけ布団を横にどけて、ベッドの脇に座る。
ベッカー『皮がめくれたけど、治るのか?これ?』
両手を見る。治る気配はない。
リュプケ「修復魔法で治せるぞ?前やっただろ?」
前って……俺がネクロイドになりたての話じゃないか。
ベッカー「そういうのは、だいぶ前っていうんだ。」
エレミア「私のも直してくださいよ。」
ベッカー「わかったわかった。ほらよ。」
ベッカーのかざした手から光が漏れる。
鉱物採掘でボロボロだったエレミアの手も、柔らかな光りに包まれて、みるみる修復されていく。
魔法剣の師匠に修復魔法を教わっていて良かった。
人を治す回復魔法ではなく、ものを直す修復魔法。
自分達がアーティファクトということを思い知らされる。
デュラ子「良かったんですかね?あの子、あそこにおいてきて?」
マリサは亜人の村においてきた。
ベッカー「この旅には、生の人間はついてこれないさ。多分、守りきれない、死ぬことになる。」
死ぬにはあの胸はもったいない。生きててこそ価値がある。
ヘパ「今日中に光の剣はできる。それまで街でも散策してな。」
地球のヘソで採掘し、夜のうちに出発し、亜人の村には寄らずにヘパの工房で一夜を明かした。
エレミア「コレでいいんですよ。」
ヘパの工房を出て近くの小高い丘に上がる。
帝国領に隣接するココは先の帝国との戦争、一方的な蹂躙にさらされたはずだ。
ベッカー「リュプケが道がわからなくなったのはそのせいか?」
それでも、帝国との和平交渉で帝国から西に抜ける交易路に組み込まれてココまで復興したということか。
ベッカー「ん?なんだあれ?」
北の方角、小国の首都の方向から、巨人が歩いてくる。
鋼鉄の巨人。
ベッカー「黒鉄の……シュバルツカッツだ。」
ベッカーは急いでヘパの工房に戻った。
エレミア「?どうしたんです?急に。」
ベッカー「シュバルツカッツだ!エレミア、手を貸してくれ!」
?エレミアもデュラ子も何のことかわからない。
ベッカー「奴をここで仕留める。」
多腕、外側の大きな手に斧と盾を持ち、内側の手が射撃武器になっている鋼鉄の巨人、シュバルツカッツは街に差し掛かっている。
エレミア「私、あれを見たの初めてです。」
デュラ子「貴方の国はあんなのと戦ってるんですか?」
ベッカー「こっちも魔女がいるから迂闊には出てこないが、ゴッドリバーが出てきたとなると、今後、戦場に出てくるだろうなぁ。」
シュバルツカッツは地面に斧を振り下ろした。
空を舞う大地、街全体が飛び上がるほどの地響き、大爆発のごとく土煙を上げた。
ズズズズ……
シュバルツカッツ『ゴッドリバーめ、抜け駆けしおって、こちらの計画が台無しではないか!』
デカい電子音声が響き渡る。
ベッカー達は身を伏せた。
エレミア「無理ですよあんなの!?」
街道沿いの丘で待ち伏せ、したはいいが、さて、どうしたものか。
デュラ子「私と貴方で足止めして、エレミアさんのモーニングスターで仕留めるのはどうでしょう?」
とりあえずその方向で試してみる。
シュバルツカッツが近くまで来たところをエレミアが前に立ち塞がった。
エレミア「やあやあ!我こそはエ、」
シュバルツカッツは何も言わずに斧を振り下ろした。
大地と共に空に舞い上がるエレミア。
「ひやー!」
シュバルツカッツ『?なんだ?襲撃なのか?』
襲撃班の出ばなをくじく、そのために示威行動として斧を振るう、そこまでは読み通りだ。
ベッカーは土埃に紛れてシュバルツカッツの足元まで接敵した。
ベッカー「五行の剣!土!」
きぃん!
ベッカー「発動しない?!」シュバルツカッツの装甲は魔法に耐性がある。まさか、接触発動系の魔法も弾くとは。
ベッカー「デュラ子!」
高速詠唱、土煙の中から大きな氷の杭が放たれる!
ガシャン!
シュバルツカッツの頭にあたったソレは、少し彼を揺らしただけで粉々に崩れ去った。
シュバルツカッツ『うおっ!?魔法使いがいるのか!!』
シュバルツカッツの武器腕から近接制圧用の散弾が連射される。
シュバルツカッツ『ガハハ!ツメが甘かったな!お前達!』
土煙がもうもうと辺りを覆う。
沈黙。
シュバルツカッツ『ふむ、センサーに感なし。死んだな。』
ベッカー「届いた。結構、早かったな。」
ビシュン!
土煙の中で何かが青白く光る。
シュバルツカッツ『何の光だ?』
スパンッ!巨人が大きな音を立てて転ぶ。
シュバルツカッツ『右足破損!?どうなってる!?』
土煙で確認できない、赤外線モードに切り替えてシュバルツカッツはベッカーを確認した。
シュバルツカッツ『小癪な奴め!』ベッカー目掛けて散弾を連射する。
カメラの画像では何発か直撃したはずだ。人影はその場で揺らいでいるだけだ。
シュバルツカッツ『幻影?!俺の体は魔法は効かないはずだぞ!?』
リュプケ「バーカ、ハッキングだよ。」
シュバルツカッツの脳が知覚する映像に銀髪の隻眼の魔女の顔が浮かぶ。
ベッカー「遠隔で何でもできるんだなぁ。」
シュバルツカッツ『うわぁぁぁ!』
ベッカーは手にした光の剣で巨人を解体していく。
リュプケ「奴の電脳キーがザルだったから、間に合ったな。」
ベッカー「一時はどうなるかと思った。」
魔女がいるから迂闊には出てこない、その言葉を表面的にしかベッカーは理解していなかったが、なぜそうなのか身を持って知り得た。
ベッカー「デュラ子、エレミア!」
土煙の中で二人を呼ぶ。
エレミア「死ぬかと思いました。」
いや、死んでるだろ俺たち。デュラ子の返事がない。いやな予感しかしないが、土煙のせいで視認できない。
土煙の上がったそこには、仰向けで倒れたまま動かない魔法生物、デュラハンの姿があった。
リュプケ「あらら」
ベッカー「即死か……」
デュラ子は運悪く、散弾を頭に受けたらしく、首から上がなかった。
リュプケ「まぁ、デュラハンなんてまた作ればいいのさ。」
魔女にとって、俺たちは生産物でしか無い。
リュプケ「なんだよ、私にだって感傷に浸るくらいの感性はあるぞ?そう、気を落とすなよ、ベッカー。」
一時的とはいえ、仲間だったし、何より肌を重ねたベッカーには応えた。
ベッカー「体は埋めといてやるかな。」
リュプケ「そうだな、魔法生物のはパーツ取りもできないだろうし。構造が違うよ。」
デュラ子の体を埋葬して、ベッカーは自分の剣を刺して墓標にした。
光の剣は鞘に納めてる分には普通に見えるが、一度鞘から抜けば、その輝く刀身が神話のソレであるとわかった。
シュバルツカッツ死亡の報は夕刊の号外になって、
街中にばら撒かれた。小国内で死亡したから今後、国際問題になるだろうが。ベッカー的には自国以外がどうなろうと知ったこっちゃなかった。
ヘパ「試し斬りには大物だったな!」
ヘパは自分の作品が帝国の四天王を倒したと知って大喜びした。
ベッカーとエレミアはヘパの工房で一息ついた。
ヘパ「そうだ、この鎧はどうする?」
あ、作ってたのか。しかし、もう、その鎧を着る者はここには居ない。
ヘパ「は?どういう事?」
その時、サイレンが鳴った。
ヘパ「誰か森に入ってきたな?」
机の上の水晶でそれを確認する、そこに写っていたのはマリサだった。
ヘパ「なんだよ、いるじゃん。連れてこいよ。」
ベッカーとエレミアは顔を見合わせた。
マリサ「宿敵も倒し、光の剣も手に入れたと?流石は我が伴侶!」
ヘパ「お前さんの鎧もできてるぞ!」
ベッカーはバツが悪かった。が、マリサは気にしていない様子だ。
マリサ「ぴったりです、さすが名工!腕がいい!」
ヘパも褒められて鼻が高い。
3人は宿屋を借りた、明日は故郷に帰る。そのことをベッカーは部屋でマリサに話した。
マリサ「どんなところだろうと、たとえ、敵国だとしても、わが伴侶の行くところ一緒に行くのは当たり前です!」
マリサの決意は硬い。が、その頭をベッカーの胸に押しつけた。
マリサ「だから、今度は黙っておいてかないで……」
部屋のろうそくの明かりが音もなく揺らめいている。