パピヨン
街道を反れて山深い谷間を抜ける。
リュプケ「ここからなら、帝国軍に見つからずに帝国に入れる。」
ベッカー「……」
エレミア「そりゃ、そうだなー。」
当たり一面、白い粉、超巨大な蛾が空を舞っていて、
その鱗粉が降り注いでいる。
リュプケ「普通なら、その粉を吸ったら死ぬ。が、お前らなら平気だろ?」
だろうな、他の動植物が居ないし。
ここいら一体だけ雰囲気が違う。枯れた木々に寄りかかるように大きな繭が点在してる。
ベッカー「行くかぁ。」
通り抜けるだけ。軽い気持ちでベッカーはバイクを走らせた。
リュプケ「魔女に伝わる話では、コイツラは地球の穴から這い出てきて、その穴を中心にコロニーを作ってるらしい。詳しいことは知らんがね。」
神話に出てくる魔女に伝わる伝承?コイツラそんな昔から居るのか?ベッカーは見るのは初めてだった。
禁足地がある。ソレは知ってたが……
ベッカー「で?コイツラは何を食うんだ?」
リュプケ「幼虫の頃は、ハッパ、成虫はー」
答えは聞かなくても、目の前で起こった。
蛾がベッカーの後ろに付いてたエレミアを捕まえて飛び去ったのだ。
大空に舞ったエレミアが少し興奮気味で
「コレって大丈夫ですかー?」
なんて言ってる。大丈夫なわけあるか。
エレミアが食べられる。そう思えて焦ったベッカーも進路を変えて、その蛾を追う。
ベッカー「まずいんじゃないか?」
リュプケ「エレミア、その高さから落ちたらさすがにバラバラになる。」
エレミア「あ、なんか食べようとしてきませんよ?」
どこかへ連れ去っている?
エレミア「あ、穴が見えてきましたー!」
大空、エレミアははしゃいでいる様子だ。
ベッカー「心配してやってんのに……」
コロニーの、中心に行くにつれてますます異様な光景が広がる。蛾の死骸に見たこともない幼虫(?)が群がっている。
ベッカー「どういう、とこなんだここは?」
リュプケ「研究なんかされるもんかい。危険すぎる。」
ベッカー「急ごう。」
エレミアを捕まえた蛾は一目散に穴に向かっている。
山を下ったところにある。白い粉で覆われた山々の中心にぽっかり空いた黒い点は近づくにつれてその大きさにベッカーは驚いた。
すると、突然、底から、無数の手がぬっと出てくる。
ベッカー「なんだあれは?!」
無数の黒い手の中心に、黒い顔がついている。目とむき出しの歯だけが白く際立って見えた。その後に大きな蜘蛛のような腹がついている。
リュプケ「禍津神だ。」
ベッカーはその言葉を聞いただけで、今見てる物がやばいしろもんだとわかった。
エレミアを持った蛾はそいつの下にエレミアを投下した。
急降下して落とされたから、なんとかエレミアは起き上がってその場から逃げた。
ソレを目で追う禍津神は低い声を出した。
まるで、笑ってるようだ。
逃げるエレミアをゆっくり追うように禍津神は手を動かして行く。
エレミア「ベッカー!」
ベッカー「エレミア!乗れ!」
あんなのと戦うとか無理だ。エレミアと合流したベッカーはバイクを全速で走らせた。その後にドシンドシン足(?)音を立てて禍津神が迫ってくる。
リュプケ「三十六計、逃げるにしかずってね。」
さすがにバイクの速度には追いつけないのか、禍津神は追うのを諦めた。
エレミア「なんなんです?ここ?なんなんです?あれ?」
戦場から馬、弓がきえてバイクや銃がでてきても、人知を超えた世界が確かにそこにあるということかな?
ベッカーはその領域をさっさと抜け出した。
帝国両側、そこには人影があった。
え?人いるのか?こんなところに?ベッカーは内心焦ったが、ガスマスクの下の顔は明らかに人間のものではなかった。
亜人「お?軍人?まだ、おれ、取ってきてない。」
亜人「む、むらにある。」
エレミア「……我々を、帝国軍人と思ってるようですね。彼ら。」
ベッカー「だな、うまくやり過ごそう。」
エレミアとベッカーはヒソヒソと話した。
亜人「あんたらにも、これ、やる。ここ、アブナイ。」
ガスマスク?禁足地をガスマスクなしで通り抜けてきた、という事実を理解してないらしい。
ベッカー「センキュー。」
ベッカーはそれを苦笑いして受け取ると、亜人達は近くの繭を解体し始めた。
「ご苦労なこった。」頭の中に魔女の声が響く。
ベッカー「帰りはここ以外にしてくれ。」
魔女に文句を言う。くらいには落ち着いてきた。
リュプケ「まさか、あんなのがいるとは思わなくてなぁ。そうしよう。」
禁足地には魔女も知らない世界が広がっていたが、ソレをも生活の糧にしている人たちがいる。
「不思議なとこでしたね。」
走るバイク。ベッカーの後ろにしがみついたエレミアが言う。
リュプケ「目的の研究所は近くにある。さっさと行こう。」
ベッカー「とんだお使いになってきたなぁ。」
光の剣までの道程は遠い。