天の川
魔法剣の師匠「あら?ベッカー久しぶり。」
ベッカー「カーラも呼んだのか?」
そりゃね?レオナールは執務机でタバコ吹かしていた。
カーラ「ちょっと、レオナール、何本目?」
レオナール「見ての通りさ。」
フィルターまで大事に吸って、また、タバコに火を付ける。
ゴッドリバー対策でてんてこまい。ガラス製の大きめの灰皿はフィルターで山になっている。
ベッカーが光の剣を求めて色々、回ってる間も2度ほど奴が現れたらしい。
ベッカー「カーラでも抑えられなかったのか?」
カーラ「戦場に出てきたから、予想はしてたけど、対策してるわね奴。」
レオナール「被害は甚大、このままじゃ、人口差で負けちまうよ。」
カーラ「そうなったら、私は帝国に鞍替えしようかしら?」
やめてくれ!縁起でもない!
カーラ「ベッカー。貴方この前、左腕なかったわよね?」
あれ?話してないのか?レオナールは首を横に振っている。
カーラ「まさか、他の魔女に浮気?!私がいながら?」
あー、こうなるのか。そりゃ言えんわな。
カーラとは、妻が亡くなった時に親密になってた時期があったからなぁ。しかし、隠し通せる話ではないだろう。
ベッカー「俺はもう、ネクロイドさ。」
カーラ「あー、あの森の魔女ね?!貴方は私のものよ!覚えておきなさい!」
リュプケ「なんか敵視されてるんだが……?」
カーラ「!幽世通信まで!私のベッカーからでていきなさいよ!」
リュプケ「何この狂人?」
お前が言うな。
レオナール「まあ、顔合わせはそこまでにしよう。ベッカー、例のはできたのか?なんとかするっていってたよな?」
レオナールは懇願するかのようだった。
ベッカー「光の剣だ。試し切りも済ませた。これでやつを倒す。」
ふーん。レオナールは思案顔だ。椅子に深く座って何事か考えている。
カーラ「そうだ、ベッカー。接触発動系の魔法剣の応用を話しましょうか。」
なんだよ、そんなのあったのか?
ベッカー「隠しっこなしだぜ、師匠。」
カーラ「違うわよ、ゴッドリバーとやり合って最近、私も編み出したのよ。地面じゃだめよ?相手の近くの建物や柱でも発動するの。」
木のヤドリギ、土の足場封じ。金の針金とか、か。
レオナール「……イヤイヤ、……ソレだと被害が大きい、別の方法は?」ブツブツ
カーラ「また脳内彼女と話してるの?レオナール。」
カーラが言うには、レオナールのは現し世の魔女との幽世通信ではないらしい。完全に実体を持たない幽世の者を心に住まわせている。
エレミア「あ、出てきた。終わりました?」
カーラ「ベッカー、アナタ、こんな子供もいいの?」
ベッカーの後ろから出てきたカーラはピンク髪の少女にも見境なく噛み付く。エレミアはなんのことかわからず固まる。
その性格を直してくれたら俺たちもっと長続きしてたんだろうなぁ。カーラは外見は美人だが、中身が般若だ。
リュプケ「うへぇ、エンガチョ。」
何年かに一度、魔女の集会があると聞いたがリュプケが頑なに行きたがらない、理由の片鱗を見たかもしれない。
ベッカー「あぁ、見えていい人なんだ。」
エレミア「私とアナタは何にもない。言っといてくださいよ。まったく。」
指揮所を出て街を囲う柵にもたれながら、殺風景な塹壕を一望する。時々、帝国側から適当に撃った榴弾が降ってくる。塹壕内に直撃なんて至難の業だ。
ベッカー「……ここまでは届かないよ。」
エレミア「分かってますー。」
エレミアの生きてた時代からは戦争は様変わりしていることだろう。ネクロイドになった後は、俺と関わるまで森で魔女と隠遁生活。そりゃ、時代錯誤になる。
ベッカーは右手のほくろを見つめた。
コレが終わっても、ゴッドリバーを倒しても帝国との闘いは続く。侵略戦争なんてどれもそんなもんだろう。
ベッカー『俺はまだそっちには行かないよ。』
そう?
幻聴、リュプケのそれとは違う声。そんな気がする。
作戦当日
ゴッドリバーが戦場に出てくる。
ゴッドリバー『スモーク?俺のセンサーには効かんぞ!』
クソデカボイスの電子音声が響く。
ズドドドド……
有刺鉄線も塹壕もムカデの足は、軽く越えてくる。
ゴッドリバー『今日こそは、指揮所を食らいつくしてやる。』
リュプケ「バーカ、チャフだよ。」
ゴッドリバーがそれに気がつく頃には、ベッカーとカーラの魔法剣で足を取られて身動きを封じられていた。
五行の土、踏んだ大地の液状化、金の針金で体のほとんどを縛られて。
ゴッドリバー『しまった!罠か!?通信が通じないだと?!』
レオナールがこの日のために魔女から買い付けた電波妨害装置。
レオナール「うまくはまったか?高かったんだよなぁ。」
経費で落ちるか?の心配はコイツを倒してからにしよう。
ゴッドリバー『これしきのことでっ!』
腹部からの雷撃。地面を吹き飛ばす。再びムカデは進撃を開始する。
ベッカー「まずいぞ!」
カーラ「もう一度!」
ゴッドリバーの複眼の下についたマシンガンで至近距離にいた、兵士を薙ぎ払っていく。チャフでロックはできてないはずだが、そこはさすが四天王に抜擢される猛者である。
ベッカーが剣聖とかなら光の剣でも容易く倒せたのだろうがそうもいかない。塹壕に隠れてても雷撃が来る。時間はなかった。
リュプケ「ベッカー、あれを使え。」
ベッカー「ネクロイドになりたての頃に使ったきりだ。大丈夫なのか?」
リュプケ「パーツは後で交換すりゃいいだろ?」
背に腹は代えられない。奥の手を使うしか無い。
ドラゴンドライブ。
体のリミッターを外し瞬発力を飛躍的に上げる反面、身体への負荷もかかる。
ベッカーの全身から赤いオーラが出る。
リュプケ「いいデータが取れるぞ。ケケケ。」
ゴッドリバー『なんだあれは?』複眼で後方のベッカーを捉える。かなりの距離があったが。
スパン!
ゴッドリバー『うわ!俺の体が!?』
切断されている。長い体の前半分と電気信号の伝達が遮断されて機能を停止して、地面に突っ伏して動かなくなった後ろ半分が。
ベッカー「後、一撃持ってくれよ、俺の足腰。」
錯乱したゴッドリバーが雄叫びを上げながら、所構わずマシンガンを乱射する。
ゴッドリバー『うわぁぁぁ!バケモノめぇぇぇ!』
カッ!
ベッカーの斬撃がムカデのあたまを真っ二つにした。
大きなムカデは轟音とともに大地に横たわった。
歓声。
ベッカー「やったぜ。」
仰向けで動かなくなったベッカー、空には昼間でも星の川が見えた。
ベッカー「……俺はまだそっちには行かない。」
その体をエレミアが回収する。
ベッカー「結構、力持ちなんだな?エレミアは。」
エレミア「オーバーホールですよ?ベッカー。」
歩き始めてふと、エレミアは思いついた。
エレミア「パフェは2つでいいですよ?」
はいはい。