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魔法使いの子孫の少女

いきなり思い浮かんだ書きなぐった

 私の家は代々続く偉大な魔法使いの一族。たくさん魔法を使って、たくさんの人を幸せにするのが役目だと言われ続けていた。


『昔、魔王を倒した勇者一行の一人だった魔法使いの血が我々に流れているんだ』

 それを忘れるなと頭を撫でて何度も言われていた。


 幼かったからまだ魔法を使えなかったけど、使える日を楽しみにして魔法を使っていいと許可が出される魔法測定の儀式を楽しみにしていた。


 だけど、

『ホーリ-・アヴィール。魔法は一回しか使えないと測定されました』

 測定をする水晶玉には本来魔法の属性。魔力量などが示されるのだが、私が測定された時に出てきた結果は一行だけ。


 魔法一回しか発動できない。と。


 そんなこと今までなかったので測定士が交代しても結果は同じ。魔法一回のみ。


 何が起きたのか分からず不安になって両親の顔を見ると、

『役立たずが』

 父は舌打ちをして怒りを顕わな顔をしてこちらを睨んでいた。


『お……お母さま……』

 助けを求めるように母のドレスを掴もうとしたが、その手は振り払われた。

『…………』

 母は何も言わなかった。


『お……』

 呼びかけるが母は答えなかった。まるでいないもののように私の傍から離れてさっさと馬車に乗り込んで行く。


 ここに来る前までははぐれないようにと手を繋いでくれたのが嘘みたいな。


 馬車は私を置いて出て行ってしまう。置いてかれたらもう会えないと涙を流しながら必死に追いかけて家に帰れたのは測定をした魔塔から家はそんなに離れていなかったからだろう。


 だけど、家に辿り着いたが、それまで。


 私は家に入れてもらえなかった。

『お父さま!! お母さまっ!!』

 門の外から叫び続けた。声が枯れるほど、必死に何時間も柵を掴んで中に入れてと懇願した。だけど、家には入れなかった。


 醜聞を嫌った故に門の中に入れてもらえたが、物置小屋で過ごせと今まで優しくしてくれた侍女長から冷たく宣言されて、食事も賄いが残った時のみ差し出された。


 今までの生活と雲泥の差。


 ベットも布団もないのでぼろぼろの作業着に身を包んで板の上で眠りながら起きたら今までのことが全部夢で、暖かいベットに戻っていると期待して何度も期待を裏切られた。


 そんなある日だった。

「うわっ、びっくりした!!」

 私と同じくらいの年齢の少年が小屋を尋ねに来た。以前、見たことあった、確か庭師の孫で、綺麗に枝を選定していたのを家の部屋から見ていた。勉強中でよそ見をするなとあの時は家庭教師に叱られたが……。


 もう、家庭教師に勉強を見てもらうと言うこともない。


「びっくりした。誰もいないと思ったのに」

「ご……ごめん……」

 久々に声を掛けられて謝る。誰かに向かって声を掛けたのは久しぶりだから自分の声がこんな声だったのかと変なことを考えてしまう。


「謝んなくていいよ。いきなり開けたのはこっちだしさ。スコップを探しに来たんだけど入っていい?」

 聞かなくてもいいのに。だって、ここはもともと物置小屋で私がいていい場所じゃないしと言おうとして涙が出た。


 私はここに居ちゃ駄目。じゃあ、私はどこに行けばいいの?


 ぼろぼろと泣きだす私に少年はぎょっとしたようにこっちに近付いて綺麗な布を探してポケットとかを漁って、結果的に服を引っ張って拭き出した。


 服が一番綺麗だと判断したんだろうが、家に入れなくなってから身体もろくに洗っていない。たまに汚いと言われて水を掛けられる程度しかなかったので服が汚れてしまったことが申し訳なくて、自分がますますここに居ちゃいけないのかと思わされる。


 でも、少年はずっとそばに居て慰めるように涙と鼻水を拭いてくれた。泣きながらずっと言いたかった言えなかった急激に自分の身に起きた変化の戸惑いや不安も口に出していて、何が悪かったのとずっと父と母を呼び続けていた。


 泣いて、泣いて、泣き疲れて、声も涙も出なくなって来た時だった。


「一回しか使えないだっけ? どんなことが出来るの?」

 一回しか使えないので知るわけないと言おうとして声が掠れて出てこなかった。


「じゃあさ、その一回がとんでもない魔法って可能性があるじゃんか。俺たち平民からすれば魔法が使えること自体すごいことなんだからさ。その使える一回を大きな価値のあるものにしとけばいいじゃん」

「価値のあるもの……」

 魔法が一回だけだと分かった時から誰も私に話し掛けなかったからそんな考えがあること自体驚かされた。


「一回だけの魔法でみんなを驚かせてやればみんなの見る目が変わるだろう」

 少年の明けた扉から光が差し込んでくる。その光はずっと沈んでいた心にも確かに光を与えた。


 少年――ライトは私の手を取って自分の家に連れて行った。ライトの家族は私を嫌がりもせず暖かく歓迎してくれた。


 久しぶりに食べた誰かとの食事。温かいお湯を使って体を拭いてもらい、ずっと着たままの服も洗濯してくれて古着だけどと言われたが綺麗に洗ってある服を着せてもらえた。


 迷惑になるかもしれないから小屋にこそ戻っていったが、日中はほとんどライトの家に入り浸り、魔法測定以来疎遠になっていた諸々を教えてもらってきた。


「ホーリーちゃんが来てから勉強嫌いのあの子もしっかり勉強するようになったのよ」

 ライトと出会ってから久々に呼ばれた自分の名前。誰かに感謝されること。それらが嬉しくて彼らにしてもらったことを返したいと思えた。


(この人たちの役に立ちたい……)

 いったい何をすればいいのか。何をしたら一番喜んでくれるか。それを知るためにたくさんやらないといけないことがある。それはきっと、魔法が使えないで嘆くことよりも大事なことだ……。




 そんなある日だった。

「いくら、魔塔の主さまや王命でも、この岩を退かしてはいけないと初代さまから言われていてそれを守るように制約を結んでいるのですよっ!!」

「庭師の分際でごたごたいうなっ!! 陛下がこれを献上せよと仰せなのだ」

 揉めている声がして、その声の片方が父だと気付いて身体を強張らせる。


 我が家だったものの庭に大きな宝石の岩が置かれている。いつから置かれているか分からないが、庭師のお爺ちゃんたちがこれは大事なものだからと丁寧に世話していたのをライトと共に見ていた。


「巨大な魔石だ。これの価値がどれくらいなものか分かっているだろう」

 ずっと大事にされていたけど、ここまで大きな魔石をただ庭に飾っておくなどと無駄だと国の何か巨大な計画に使用すると言い出したが、初代魔法使いの遺言で動かしてはいけないものだと抵抗しているのだ。


「ですが……」

「これを使えば地面が活性化して、食糧難が解決するんだぞ!! それとも、これがあるから庭師の仕事が楽できるからと私物化しようとしていたのかっ!!」

 父の言葉と同時に魔法が放たれて、庭師のお爺ちゃんが魔石に身体を叩き付けられて、大怪我をして血を流している。


「お爺ちゃん!!」

 ライトが合わってお爺ちゃんの元に駆け寄る。当然私も。


「なんだこいつら。お前の孫か?」

 娘だった私を見ても娘だと気付いていない。そこまで捨てた娘には関心がないのだと僅かに残っていた幼い自分の心が悲鳴を上げたが、それよりも家族同然に接してくれたお爺ちゃんが怪我したことがショックで慌てて治療を求める。


 誰かが医者を呼んでくれて、安静に家まで運ぶ。


「お爺ちゃん……」

 治りますように。じっと傍に看護をしているとライトも自分も辛いのに、

「大丈夫だよ。お爺ちゃんは起きるよ」

 だから泣くなよとあの時と同じように慰めてくれる。


「うん……でも」

「ホーリー。お爺ちゃんの怪我が治るのを待つ前にこの国を出ることになるから」

「えっ?」

「初代さまと約束なんだ。不慮の事故ではなく、誰かが悪意もって岩に血が付いたり、怪我や死に関わる事件が起きたら、迷わず逃げなさい、と」

 庭師の仕事をしていると多少の怪我は仕方ない。だけど、それが悪意もってされたら危険だからと、初代さまは意味深な遺言をなされていたと。


 言われて、周りを見ると必要最低限の荷物をまとめているみんなの姿。お父さんがそっとお爺ちゃんを抱えて、運べる用意をして、お母さんが荷物を抱える。


 まるで夜逃げのように出ていくと、空が不穏な空気を放っているのが見えた。


 最初は真っ黒な雲で今にも雨が降りそうだと思っていたが、それが何日も続き、それが大量の魔物の集まりだと気付いた時は人々は混乱の渦に巻き込まれた。


 その真ん中に人に似ているが異なる存在の姿が見えて、おとぎ話の魔王そのものだった。


「庭の岩を大事にしてくれ。と初代さまの遺言の裏には善良な心を持つ人が大事にすれば復活しないと口頭で言われていた。何が復活かと思っていたが……」

「お爺ちゃんっ⁉」

「親父。目を覚ましたのかっ!!」

 魔王のことだったかとお父さんに背負われていたお爺ちゃんが意識を取り戻して呟く。


「このままだと、魔石の封印を解いたのはお爺ちゃんだと思われないかっ⁉」

「そんなわけ……」

 お母さんとライトがそんな話をしているがありえるかと思った。だって、都合の悪くなった子供を捨てる親だよ。初代の遺言を破って庭師のお爺ちゃんを怪我させる人たちだよ。


「そんなことさせない……」

 魔王は復活して、国が荒れても気にしないが親切にしてくれた人もいる。ライトたちみたいな人もいたのだ。そんな人たちばかり傷付いて、元凶の人々は誰かに守られてぬくぬくと暮らしている。


 そんな理不尽あってはならない。


 魔王や魔物に気付いて逃げる人々。戦う人々。だけど、その中に私の家族だった人たちも王族らしき人もいない。この事態に気付いてから貴族たちは自分の屋敷に引きこもって出てきていないとか。王族も率先して動くはずなのにまっ先に逃げようとしていたとか。


 何のための力なんだろう。何のための権力だろう。


 そう思った。だから、心の奥底から祈った。


 消えろ――と。


 私の心に呼応するように光が私の身体から溢れて大きな波を生み出して、魔物を燃やし尽くしていく、力が強い魔物ですら粉砕していくのを誰もが見ていた。


《なっ…………!?》

 魔王すら岩のように真っ黒な塊になって地面に落ちる前に粉々になって風に吹き飛ばされる。



 そんな様子を私の近くの人たちは見ていた。

「逃げるぞ」

 慌てたようにライトが私の腕を掴む。私の使った一回しか使えない魔法は魔王すら滅ぼせる代物だと知ったら私がどんな目に合うか心配しての行動で、まだ現実感の戻っていない皆を放置して庭師の家族は国を出る。


「ははっ」

 ライトは笑う。

「やっぱ、すごいよ。一回しか使えないどころか最大級の魔法じゃんか」

 魔王を倒せるなんてと手放しで褒めてくれるライトを皮切りに、

「ホーリーちゃんすごい」

「よくやった!!」

「えらかったな」

 みんなが褒めてくれる。それが嬉しくて涙があふれて止まらない。


「泣き虫は相変わらずだ」

 ライトが抱きしめてくれるのをライトがいたから泣いていいのだと思ったのだが口にしない。


 魔法が一回しか使えないと言われて捨てられた小さな自分がやっと心から救われた気がしたから――。



魔石に魔王の力の大半を封じ込めたが、魔石の魔力を悪いことにしようとすればすぐに魔王は復活するだろう。

ならば、せめて、

「我が家の庭の手入れをいつもありがとう。ここに岩を置くからこの岩を庭の一部として大切に扱ってくれ」

 庭師に告げると庭師がしっかり頷く。


 これでいい。善良な人が何も知らずに手入れをしていけばこの魔石は魔王の魔力ではなく、誰かの役に立つ力になるだろう。


 あとはそれをしっかり伝えておかないと……。邪なモノが利用したり、誰かが悪意を持ってケガさせた者の血が付いたら魔王を開放させるきっかけになるだろうから……。



 のちの子孫が、あえてその口伝を消し去る。その方が無害になると信じた結果。


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