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06 ヴィンセント10歳 06


「この子。マナ核の動きが不安定だね」

「はい……。マナ核が安定する前に親と離れたみたいで、この歳まで苦労したみたいなんです。なので一・二年は私が付き添っているつもりです」


 マナ核の染めは完了したが、マナ核が正常に動き続けるには、染めた者か、色が近しい親族のマナ核の音を聞かせて、リズムをマナ核に刻み込ませる必要がある。

 大抵は親が育児をしている間に自然と完了するもの。


 ヴィンセントは、エルがマナ核を染めてから三か月ほどしか経っていないので、赤子も同然の状態。ふとした瞬間にマナ核の動きが乱れ、体内のマナバランスが崩れると、発作で苦しむこともある。

 そして彼はこれまで、マナ核が動いていなかった。頻繁にマナバランスが崩れて苦しんだはずだ。


(私がマナ核を染めたからには、もう苦しい思いはさせないわ)


「それで今日は、仕事のことでマスターにご相談しにきました」

「事情は大体把握したよ。それにしても、おまえさんたちの両親はとんでもない奴らだったようだね。心配いらないよ。私のことも親だと思って頼っておくれ」


 ヴィンセントにそう笑いかけたマスターは、すぐさま執務机から依頼帳を取り出し、どさっとテーブルの上に置いた。

 依頼帳にはびっしりと依頼の紙が貼りつけてあり、帳面が膨れ上がっている。

 一階にある掲示板に貼られている依頼は、誰でも受けられるものだが、この依頼帳に納められている依頼は、相手を選ぶ。

 特定の条件が必要な依頼だったり、マスターが信頼している相手にしか回さない依頼だ。

 マスターはその依頼帳をぱらぱらとめくり始めた。


「それじゃエルには、子連れが許可されていて安全な仕事を回そうかね」

「これからは安定収入がほしいので、できれば長期の仕事が良いのですが」

「長期か……。長期で子連れだと、あまり良い仕事がなくてね」


 依頼帳と睨めっこしながら、マスターは頭を悩ませている。エルとしてはそこまで条件がよくなくても、安定収入が得られるなら良いのだが。


「東の炭鉱でいつも治療魔法師を募集しているでしょう? あそこ、決まってしまいましたか?」

「いや。まだだけど……、子連れで炭鉱は危険じゃないかい? それにあそこはガラの悪い男ばかりだ。苦労するよ?」

「大丈夫です。診療所自体は安全が確保されているそうですし、最近は女性の労働者も増えたそうですよ」


 それに鉱山なら、ヴィンセントの顔を知るような貴族は滅多に訪れないはず。ヴィンセントを隠しながら働くには良さそうな場所だ。


「お金が必要なら、またここで一緒に暮らせばいいじゃないか。ヴィーなら私も大歓迎だよ」


 心底、心配そうな顔をするマスターに、エルは大したことではないような素振りで微笑んだ。

 心配してくれるのは嬉しいが、マスターにはこの小説のストーリーには足を踏み入れてほしくない。

 なにせこの小説は、ヒーローとヒロインが出会うまでに、ばったばたと人が死ぬ。そのような展開へ引きずり込みたくはない。

 助けてもらうのも、今回限りだ。


「ありがとうございますマスター。けれど、私はあの家の暮らしが気に入っているので」

「そうかい? もし嫌な目にあったら、すぐに辞めるんだよ」


 



 マスターに紹介状を書いてもらってからギルドを出ると、ヴィンセントがまた手を繫ぎながらエルに問いかけた。


「エルは、マスターと一緒に住んでいたのですか?」

「そうなの。マスターは魔法の才能がある孤児を孤児院から引き取って、自立させる活動をしているのよ」

「それなら、エルは……」


 聞いてしまい申し訳なさそうにしているヴィンセントに、エルはにこりと笑みを浮かべながら彼を抱きしめた。


「だから私も家族ができて嬉しいの。私に迷惑をかけているなんて思わないでね」


 今までエルにとっての家族は育ての親であるマスターと、兄貴分のアークだった。けれど、二人とはマナ核の繋がりがない。

 ヴィンセントのマナ核を染めたことで初めて、強い繋がりを感じた。


「僕も、エルが家族になってくれて嬉しいです。炭鉱では僕もお手伝いしますね。エルを少しでも支えたいので」

「ふふ。ありがとう。ヴィーは良い子ね」




 翌日。二人は面接を受けるために、東の炭鉱へと向かった。

 炭鉱までは結構な距離がある。家がある林を抜けて街まで歩いてから、乗合馬車で終点まで行き、そこからさらに鉱山行きの乗合馬車に乗り換える必要がある。

 片道二時間ほどかかるが、こればかりは仕方ない。


 鉱山に到着して馬車を降りると、ヴィンセントが「わあ……」と小さく歓声を上げた。


 山に囲まれたそこは意外と開けており。住宅や商店、学校まであり、ちょっとした町のようになっていた。

 もっと寂しい場所なのかと思っていた二人は、にこりと微笑み合った。


「思っていたより良さそうな場所ね」

「はいっ」


 学校のすぐ向かい側に、依頼書にあった名前と同じ診療所がる。二人はそこへと足を向けた。


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