転生王と断罪劇
「アリシア!今日をもってお前との婚約を破棄する!
そしてここにいるイリアと私は結婚する!私は真実の愛に気づいたのだ!」
「サミュエル様ぁ」
あ~始まったよ、わかってはいたけどいざ見るとほんとに見てらんねえな…共感性羞恥っていうの?わからないけどそういうので鳥肌たってくるんだよね。
今はこの国の王立学園の卒業パーティーだ、そこでこの国の第一王子サミュエルが、婚約者であり公爵令嬢のアリシアとの婚約を破棄し、男爵令嬢のイリアとかいう女と結婚しようとしてる、そういう状況だ。
ちなみに俺はこの国の王で転生者だ。
この世界は俺の前世で妹がやっていた乙女ゲームの世界みたいなんだよね。俺も詳しくは知らないが、妹が毎日のように語りかけてきた内容そっくりだったことからそう思い立ったのだ。
そんでおそらくあのイリアとかいう男爵令嬢、あいつも多分転生者だ。本人に聞いてないから多分としか言えないが後ろにいる宰相の息子、騎士団長の息子、何故か関西弁の糸目の伯爵令息がいるあたり間違いないだろう。あいつ逆ハールート狙いやがった…
そんなことを考えている間にも俺の息子(作った記憶は一切ない)が元婚約者を責め立てている。内容はもうどうでもいい。聞くに耐えない。公爵令嬢のアリシアさんも扇子で隠しながら鼻で笑っていることだろう。
俺の息子…もうクソ王子でいいか。クソ王子の話が途切れた時、アリシアさんが反撃に出た。
「お話は伺いましたわ。しかしわたくしに否があるとは到底思えませんわね。」
「まだそんな事をいうか!?」
「アリシア様酷いです!罪を償って下さい」
クソ王子は激昂し、イリア…うーん…クソビッチでいい?は目を潤ませながらアリシアさんを非難がましく見ている。後ろのモブ共はやいのやいのうるせえな。
ただそれを黙って見ているアリシアさんではない。
クソ王子とクソビッチが罪として上げたものを証人やその時の証拠などを用いて全て潰していってる。何よりクソビッチの周りにいる令息たちの婚約者もみんなアリシアさんの味方なのだ。すごいぞアリシアさん。
そんな茶番を眺めているとクソ王子が私に問いかけてきた。
「父上!父上もアリシアの悪行は見過ごせませんよね!?こんな女を王家に入れるなどもっての外です!王家にはこの心清らかなみんなに愛されるイリアのような女性が良い!そう思いますよね!?」
「サミュエル様ぁ」
自分の息子(作った記憶は一切ない)の熱い思いを聞いて俺は一つの答えをだす。
「サミュエル。お前は今日で廃嫡だ。」
「父上!何故ですか!?なぜ私が!?」
「今日のことは全てアリシア嬢から聞いていた。また学園でのお前の行動も早いうちからアリシア嬢に聞いていたのでな、学園の教師や生徒からお前たちの話は全部筒抜けになってたんだ
そして、すでに私達の周りでは第二王子を王太子とすることは周智の事実だ。まあまともに王宮内の話に耳を傾けていればすぐに気付けたと思うがな。」
「な!?」
「それからそこのイリアとか言ったかな?」
「な、何でしょうか?」
そう言ってイリアは顔を強張らせる。
「流石に逆ハーはねえだろ?」
「は?」
イリアが呆気に取られた顔でこっちを見ているが構わず続ける
「それから後ろにいる令息達。全て家に報告済みであり廃嫡もやむなしとの答えをもらっている。」
ことの重大さに気づいたのか顔を真っ青にする令息達だがもう後の祭りだ
「今宵は新たな門出を祝う場だ、場にそぐわぬものは退場願おうか。」
王である俺がそう言うと控えていた近衛兵達が一斉に此度の罪人たちを連れて行ってくれる、少しの静寂が訪れた後、俺は声を張る
「少々邪魔が入ったが、今宵は新たな門手を祝う日だ!皆盛大に楽しむが良い!」
王の言葉に淀んでいた空気は払拭され皆思い思いに楽しみ始めてくれたようだ、それを見て安堵した後、なんでこんな面倒なことしなければならないんだと心のなかで悪態をつく。
そうしていると本日の主役?であるアリシアさんと令息たちの元婚約者が私の前に現れた
「陛下、先程は失礼致しました。」
「いや、大丈夫だよ。あと今は周りに誰もいないからその話し方やめてくれる?」
「あら、そう?みんな見てるから一応やっておかなきゃと思ったんだけど」
そう言ってアリシアさんが笑うと周りの婚約者たちも笑ってくる。
「だって俺、前世はまだ高校生だよ?みんな前世は大学生か社会人だったんでしょ?」
そう言うとまたアリシアさんたちは俺のことを笑ってくる。
そう、アリシアさんたち婚約者一同もみんな転生者だったのだ。
初めてアリシアさんたちから話を聞いた時はほんとに驚きで言葉にならなかった。少し落ち着いたあと話を聞くと皆、今の婚約者とは結婚をしたくないという。
まあそれはそうだ、顔や地位はいいかもしれないがあいつらは長年付き合ってきた婚約者たちを蔑ろにして急に出会った女性にうつつを抜かすような奴らなのだから。
「でもお役に立てたようで何よりだよ」
「ええ、本当に助かったわ」
そう言うアリシアさんの笑顔を見て俺は自分の胸の内をさらけ出した
「ところでアリシアさん。婚約破棄したことだし俺の側妃に…」
「お断りです」
俺がアリシアさんを手伝った理由それは完全に下心だ。アリシアさんが婚約破棄してくれたらワンチャンあると思って今まで頑張ってきたのにこの仕打ち…
「だってあなたあの王子の親でしょ?」
「俺は作った記憶ねえ!」
そうやってアリシアさん達はまた俺のことを笑うのだった。
「でも本当にあなたが転生者で良かった。
もしいい御縁がなかったらあなたの側妃も悪くないかもね」
「アリシアたん…」
「それでは陛下御機嫌よう」
「ま、待ってアリシアたん…!」
きれいな所作で彼女たちは帰っていく。少し目で追えばすでにたくさんの令息たちに囲まれているようだった。
「くそっ!せっかく転生したのになんで王様なんだ!こういうのは普通王子とかになるもんだろ!」
「あら?あなたそんなに若い子が宜しくて?」
どこに行っていたのか急に現れた王妃が言う
「いやいやそんな事ないよ、私は君が居てくれればそれでいいんだ。」
「あら」
そう言って目線をそらす王妃を見て感づく、前世ではそういう経験はなかったがこれはいけるのか?チャンスではないか?そんな決意のもと声を掛ける
「1人王太子候補が消えてしまったし今夜もう一人…」
「それはいけませんわ、だってあなた攻略対象じゃないんですもの」