第八話 屋根裏ダンジョンに罠を仕掛けてみた
ユキは会計中になで子に電話した。
メッセージではなく直接話すことにしたのだ。
幸いにもすぐに繋がったのでホッとした。
「あ、なで子ちゃん。実は…」
ユキは早速本題を切り出した。
あの黒崎という男のことを伝える。
するとなで子は少し困ったような返事をしていた。
なで子は申し訳なさそうに言った。
「うん、うん。わかった…」
「どうだった?」
「うん、心配かけてごめんって…」
黒崎には気を付けたほうがいい。
しかし、今更直接手を出してくることもないだろう。
なで子はそう言っていたらしい。
本当にそうなのか、気になる哲人。
だが、今は深入りはしないほうがいいのかもしれない。
「…そうだ!」
今日、哲人は剣を買いに来たのだ。
黒崎のことですっかり忘れていた。
そのことをユキに伝えた。
「え?武器を買い替えるの?」
「ああ、この前の剣は間に合わせで買った物だからな」
そこで、ユキにダンジョン探索用の武器を販売している店を紹介してほしい。
哲人はそう言った。
ユキは笑顔を浮かべながら、快く引き受けてくれた。
「わかった」
そうユキが言った。
そうして彼女に案内されるまま、とある場所へと向かった。
繁華街から離れた場所にある、大きな建物だった。
看板には『武器屋』と書かれている。
とはいえ、いわゆるファンタジー的な建物というわけでもない。
ホームセンターのような雰囲気だ。
中に入るとそこには様々な種類の武器が並んでいた。
「外国のガンショップみたいだな…」
小声で呟く哲人。
大きめのスポーツ用品店にも似ている。
剣や槍はもちろんのこと、弓や斧といった物まで置いてあるようだ。
彼が店内を見回しているとユキが話しかけてきた。
「何か気になるものはある?」
「ああ、まずは…」
そう言って哲人は一つの武器を指差した。
ショーケースに飾られた剣だ。
刃の部分には宝石のような物が埋め込まれている。
どうやら魔力が込められているらしい。
「へえ、マジックアイテムだ」
「あ、ああ。みたいだな…珍しいよな、こんなところで…」
話を合わせるが、実はよくわかっていない哲人。
近くの店内ポップに書かれた説明によると、魔力を込めることで強化できるということだ。
何かのゲームで見たような気がする武器だ、そう思う哲人。
ショーケースに入っているだけあってそこそこ高額。
だが、下手なものを買って使い捨てるよりはずっといい。
武器はそこそこ高くていいものを買うと決めていたのだ。
「メインの武器はこれかな」
「ほかには?」
「そうだな…」
ユキに手伝ってもらいながら装備を整えていく。
サブの武器だが、これは小型の片手剣を選択した。
理由は単純に扱いやすいからだ。
次に防具だが、動きやすさを重視した軽鎧を選んだ。
これをローブの下に身に着けるのだ。
これで完了。
「小鳥遊さん、ありがとう」
哲人はお礼を言った。
すると彼女はささやかに微笑みながら言ったのだ。
「気にしないで」
それから彼たちは店を出て帰路についたのである。
いろいろあったが、装備を整えることができた。
そしてなにより、ユキのことをよく知ることができた。
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帰宅した彼は、さっそく購入した武器を使ってみることにした。
屋根裏ダンジョンならば、人目にもつかずゆっくり練習ができる。
それに色々と試してみたいこともある。
まずはサブ武器となる片手剣だが、見た目よりも軽く扱いやすいと感じた。
これなら戦闘中に振り回される心配もなさそうだ。
「少し試してみるか」
まずは片手剣を軽く振ってみることにする。
目の前の岩が真っ二つになった。
凄い威力だ。
現在の哲人のレベルは50。
それを考慮しても以前の剣ではここまでの切れ味は無かっただろう。
これならどんなモンスターでも簡単に倒せてしまうかもしれない。
しかし、慢心は禁物だ。
「よし、次だ」
彼は気を引き締め直すと次の実験を始めた。
この屋根裏ダンジョンに出現する黄金のスライム、それを効率的に捕まえることができないか。
一週間に一度、出会えれば幸運なくらいの出現率。
しかもすばやく逃げられることだってある。
今までは見つけるたびに倒すことができたが、逃げられてしまうこともあるかもしれない。
どうやらダンジョンでは魔物は自然に発生したり、消えたりするらしいのだ。
魔物は、ダンジョンという巨大な生命体の一部と考える者もいる。
「まずは…」
大きな買い物袋を二つ用意した。
ホームセンターで購入した素材を組み合わせ、捕獲用のトラップを作る。
自動ネズミ取り籠とトリモチシート、強度と重量を上げるための鉄鋼材。
これらを組み合わせて作った捕獲檻に、トリモチシートを敷き詰める。
「次は…」
一般的なスライムが好んで食べるものは、花粉や樹液、生物の体液などだという。
哲人がネットで調べたところ、カブトムシ、クワガタ用のゼリーでも代用できるらしい。
それらを使って低級魔物を集めて一掃する戦術をとる探索者もいるとか。
「…よしっ!」
カブトムシ、クワガタ用のゼリーを買い物袋から取り出す。
そして、捨てる予定だった欠けた茶碗に入れる。
捕獲檻の周囲にはトリモチシートを敷き詰める。
「これで準備はできたが…」
あとはスライムを待つだけである。
だが、さすがにまだ黄金のスライムは現れない。
しょうがない、気長に待とう。
そう考えながら、彼は屋根裏ダンジョンから出た。
屋根裏から降り、自室へと戻る。
「さて」
そう呟き、パソコンを起動してニュースを確認する。
『今日のトップニュースはこちらです!』という見出しが出ていて、内容は次の通りだ。
『ダンジョン内で男性の遺体見つかる』
『遺体の状態から見て死後一週間前後で死因は不明』
『警察は何者かによる殺人の可能性があるとして捜査を進めている模様』
という内容だった。
どうやらまた犠牲者が出てしまったようだ。
「最近多いな」
ダンジョンを舞台にした犯罪。
他の探索者からの報復だろうか?
もしも彼が黄金のスライムを捕獲している最中に、他の探索者がやってきてしまった場合どうすればいいだろうか?
もちろん、自宅の屋根裏部屋なのだから他の人間が来るわけが無い。
しかし、もし、万が一、運悪く…
などと考えてしまうと不安になってしまう。
この屋根裏ダンジョンは、誰にも知られてはいけない。
もちろん、なで子やユキにも…
「まあ、その時はその時か…」
そう結論付けて、今日は休むことにした。
食事は帰宅途中にとったので、風呂に入り、歯を磨きそのまま布団に入り寝る。
そして翌日。
まずは昨日作ったトラップの確認だ。
ホームセンターで購入した素材で作った捕獲檻は頑丈にできている。
トリモチシートも粘着力が残っている間は再利用すればいい。
「よしっ、行くか」
彼は屋根裏ダンジョンへの扉を開けた。
昨日と同じように罠を仕掛けた場所まで移動する。
そしてトラップを確認してみた。
捕獲檻の中に黄金スライムが入っているのが見える。
「よしっ!」
成功だ、そう思う哲人。
しかし、ここで油断してはいけない。
黄金のスライムは素早く、すぐに逃げてしまうかもしれない。
だからこそ、こうして罠を使って捕まえる必要が有るのだ。
突然、黄金スライムが動き出したのだ。
どうやら罠から抜け出すつもりらしい。
しかし無駄だ。
この特製の罠からは逃れられないだろう。
「よしっ!」
以前購入した剣で黄金のスライムを仕留める。
粒子となって消え、小さな金塊がその場に残った。
『おめでとございます、レベルが上がりました』
例のアナウンスが脳内に響く。
とはいえ、さすがに50レベルを超えるとレベルアップもそこまでしないようだ。
今回の黄金のスライム狩りで8上がり、58レベルとなった。
「…この屋根裏ダンジョンは絶対に秘密だ」
誰にも知られてはいけない。
これからも彼はこのダンジョンを探索し続け、レベルを上げていくだろう。
それが一番安全なのだから…
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