第三十四話 武器を新調してみた
翌日の午後。
哲人はいつものように自室でくつろいでいた。
そんな時、スマホになで子から着信があった。
「ん…?」
『あ、世良木さん今大丈夫?』
「ああ、大丈夫。どうしたの」
『実は…』
叢雲ダンジョンを攻略した哲人たち。
当然、ダンジョン界隈では有名人になっていた。
そんな彼らに目を付けたとある企業が、商品を提供したいと言ってきたのだ。
「いわゆる案件ってやつ?」
『そうそう』
有名配信者にはたまにこういうのがあるらしい。
あの有名配信者が使っている、ただそれだけで宣伝になる。
なで子が詳しい内容をスマホに送ってくれた。
画面には見慣れない企業ロゴと共に、『お知らせ』という件名。
そして、丁寧な文面でこう書かれていた。
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叢雲ダンジョン大会 優勝者様へ
株式会社アークレイズよりご提案です。
大会でのご活躍を拝見し、貴殿へ特別装備の提供を希望します
…
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哲人は一度目を閉じ、深く息を吐いた。
「…株式会社アークレイズ、か」
名前は聞いたことがある。
様々な事業を行っている大企業で、その部門の一つに『ダンジョン開拓事業』もあるのだ。
今までの人生で、これほど露骨に目立つ存在になることなどなかった。
とはいえ、目立っているのは『セラート』であり『世良木哲人』自身ではない。
目立ちたくない哲人にとって、それだけが安堵の元だった。
よく見ると、その提案書には装備支給条件と簡潔な説明、写真なども添えられていた。
支給品:試作武装
対象者:叢雲ダンジョン優勝者(承認済)
使用条件:個人利用、探索支援、取材・配信自由
追加:付与スキル『魔力同期』
支給条件は特に気を付ける点はない。
武器も装備も今までより遥かに高性能になるらしい。
加えて『魔力同期』という新たな効果が付与されるという。
何やら強力そうなスキルだ。
手元に実物があるわけではないので『鑑定』のスキルが仕えないのが残念だ。
「…悪くないな」
哲人はゆっくりとスマホを閉じた。
これらの武器などはどうやら後日なで子の元に届くという。
テストも兼ねて、皆で使ってみようとのことだ
明日に向け、防具の整備をする。
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後日。
哲人は少し早めに集合場所へ向かい待っていた。
哲人は自身の住所を誰にも伝えてはいない。
面倒ごとは避けたいからだ。
しかし、それゆえに会社の武器の送り先がなで子の家になってしまった。
武器の運搬も彼女に任せてしまったのは、少し悪いと思ってしまう。
「お待たせー!」
先に声をかけてきたのはなで子だった。
その後ろから、少し遅れてユキが小走りでついてくる。
「早いね」
「まあ、今日はテストも兼ねてるし」
武器の運搬まで任せておいて遅刻はしていられない
なで子が背負っていた頑丈そうなケースを見せる。
「これ。昨日届いたばっかり」
「へえ。ぱっと見は普通だけど」
「そういうタイプのほうが信用できるからね」
なで子のその言葉を聞き、ユキが小さく頷く。
今回向かうのは、都市近郊にある中規模ダンジョン。
観光要素も薄く、配信向きでもない。
ただその分、余計なトラブルも起きにくい。
人も少なく、武器のテスト用にはもってこいというわけだ。
「今日は攻略目的っていうより、動作確認ね」
「了解。無理はしない方向で」
「はーい」
三人は受付を済ませ、そのままダンジョン内部へと進んだ。
内部は特に何の変哲もない洞窟風のダンジョン。
出現する魔物も珍しいものはいない。
そんな中で、改めて株式会社アークレイズから提供された試作武装を確認する。
「まずはこの武器か」
哲人の持つのは、どこか異質な輪郭を持っている長剣。
刃先は淡い蒼い光を帯び、柄には神秘的なルーンが刻まれていた。
同封されていた説明書きを見ると、こう書かれてある。
《試作武装A》
魔力と同期し、使用者の意思を読み取って攻撃力を補正する試作モデル。
刀身は同社の生産する汎用品にデザインを追加したもの。
魔力節約機能付き。
「このルーン文字は単なるデザインなんだな」
「ウチらのも見てみて!」
なで子の持つ魔導杖も哲人のものと同じ機能を持つらしい。
ユキのクロスボウは軽量化と連射性を強めたものだという。
「とりあえずこの武器の使い勝手を見てみないとな」
「まあね」
「けど魔物全然いないね」
ユキの言うとおりだ。
そもそも出現率も低くなかなか遭遇しない。
ダンジョンを探索を開始して約三十分。
ようやく魔物が現れた。
「来たね」
通路の奥から現れたのは、岩肌に似た外殻を持つゴブリンの群れ。
個体数は五。
レベルも低めの7だ。
「じゃ、一本目いってみるか」
哲人は一歩前に出る。
剣を抜いた瞬間、手のひらから柄へと魔力が自然に流れ込む感覚があった。
今までは必要な分を剣に流し込んでいた。
しかし、この試作武装は違う。
「(…意識しなくても、自然に来るんだな)」
必要な分だけ自然に剣に流れ込む。
その魔力量も、今まで使っていた剣と比べるとかなり少ない。
そして攻撃。
構えも、力の入れ具合も、考える前に身体が決めている。
一歩踏み込み、横薙ぎで倒す。
刃が振り抜かれた瞬間、空気が震えた。
剣がゴブリンの外殻ごと切り裂く。
「今の、ほとんど力入れてないよね?」
「ああ。入れてないな」
哲人自身が一番驚いていた。
まるでバターでも切るかのようにさっくりと切れた。
剣が最適な出力を勝手に選んだ、そんな感覚だ。
残ったゴブリンが騒ぎ出す前に、なで子が風魔法で動きを止め、ユキが的確に仕留める。
「連携も問題なし、と」
「装備が浮いてないのが一番いいね」
「うん。前より動きやすい」
哲人は剣を軽く振り、手応えを確かめる。
剣も、防具も、『使う』というより『一緒に動いている』に近い。
自分の身体の一部の様に、自由に動いてくれる。
身に着けていて違和感を感じない。
「これ、長期戦だともっと差が出そうね」
「うん」
「変な制限も今のところ無いしな」
三人はそのまま先へ進み、数戦ほど軽く戦闘をこなした。
どの場面でも、提供された試作武装は応えてくる。
派手さはない。
だが、確実で、静かで、頼もしい。
ダンジョンを一周し、出口へ向かう頃。
その頃には、三人の中で答えはほぼ固まっていた。
「…これ、メインで使えるな」
「でしょ?」
「でも、『魔力同期』っていうスキルがよくわからなかったな」
魔力が同期する、というよくわからない説明のみが説明書には書かれていた。
鑑定のスキルでみても同じような文章が表示されるのみ。
しかし、悪いものではないということはわかる。
「しばらくは、この装備で行こっか」
なで子とユキが笑う。
テストは上々。
この武器が、これから先の戦いを確実に変えていくことも、はっきりと分かった。
静かな手応えを胸に、三人はダンジョンを後にした。
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