第三十二話 ダンジョンを強化してみた
とある日。
哲人は、いつものように屋根裏ダンジョンの入口の前に立っていた。
今日は特に予定もない。
いつものように日課である黄金のスライムを捕まえよう。
そう思い、ダンジョンの扉に手を伸ばす。
「…?」
その直前でふと違和感を覚えた。
扉をゆっくりと開く。
「来ましたね」
聞き慣れた、しかし今までとは少し違う声。
あのレベルアップ時のシステムボイスと同じ声。
しかし、事務的ではなく感情のこもった声。
「女神様ですか」
そこにいたのはあの女神、リュミエルだった。
屋根裏ダンジョンの奥、普段なら何もないはずの空間。
そこに簡素な玉座のようなものを浮かべて座っている。
軽く笑った後、リュミエルは言った。
「別に呼び捨てでいいですよ。そのほうがこちらとしても楽ですし」
「じ、じゃあリュミエル」
「はい。いきなりですが、今日はあなたに提案があります」
「提案…?」
「はい」
女神は楽しそうに笑い、指を鳴らした。
すると、空中に半透明のウィンドウがいくつも浮かび上がる。
わかりやすい図面だ。
「以前も言った通り、屋根裏ダンジョンは拡張したり機能を追加したりできます」
「以前も言ってたやつですか?」
「はい。そろそろ拡張強化、考えてもいい頃合いだと思いまして」
「具体的にはどういうことが…?」
哲人が尋ねると、ウィンドウの一つが拡大された。
まるで最新の電子機器のような機能だ。
便利だな、そう思いながらも女神リュミエルの説明を聞く
「そうですね、例えば…」
リュミエルが指を滑らせる。
・階層の追加
・出現モンスターの調整
・罠の常設化
・訓練用模擬敵の生成
・ドロップ素材の質向上
…
「その他にもいろいろとありますが…」
「ちょ、ちょっと待てください」
思わず声が出た。
こんなに細かく強化ができるものなのか。
ゆっくりとその項目を見直していく。
いろいろ実用性がありそうなもの、何のために使うのかというものまである。
「罠の常設化…」
今まではお手製の罠を自分で仕掛けてスライムを捕まえていた。
なんだかんだで手間もかかるし、壊れれば修理もいる。
手入れのためにホームセンターを往復することだってあった。
これをダンジョン側で罠を自動生成してくれるのだという。
「これははいいな」
「はい、おすすめですよ」
「こっちは…」
哲人の目に留まったのは『ゴミ箱設置』というものだった。
ダンジョン内にゴミ箱を設置するといったもの。
ただゴミ箱を置くというだけで、ごみを処理してくれるというわけではないらしい。
これは自分でゴミ箱を駆ってくればいいだけの話。
わざわざ女神に頼むほどではないだろう。
「もちろん、それなりの対価は必要ですよ」
「あ、やっぱり」
「強化には素材が必要になります」
ウィンドウが切り替わり、必要条件が表示される。
魔石、特殊金属、希少素材…
非常に集めがいのあるものばっかりがそこには表示されていた。
今までのダンジョンで入手したものもあれば、名前すら聞いたこともないものもある。
純銀や和紙、青竹などのダンジョン外で入手できるものもあった。
これらはホームセンターや通販などで購入できる。
しかし…
「今すぐは無理だなぁ…」
「少しずつ、ゆっくり強化していきましょうね」
女神はにやりと笑った。
たしかに強化には時間がかかる。
とはいえ、手ごろな素材で強化できるものもありそうだ。
「とりあえず、今ある分でできる範囲の強化をしてみませんか?」
哲人は少し考え、手元にある素材を思い出す。
黄金のスライムの魔石、溜め込んだ金の粒、いくつかの余剰素材。
以前の叢雲ダンジョンで回収した素材が結構残っている。
それを使えば…
「とりあえず今持っているのはこれくらいです」
叢雲ダンジョンで倒したグランドドラゴン。
それからとれた素材。
そのほかにも過去のダンジョンでとれたものが少し残っている。
それらを女神の前に提示する。
「十分十分」
女神が再び指を鳴らす。
この素材でできる拡張の内容を提示してくれた。
・屋根裏ダンジョンに倉庫追加
・出現モンスターの増加『+30%』
・簡易訓練エリア追加
「倉庫は頑丈だからいろいろなものを保管できます。そのほか…」
女神リュミエルがこれらの内容について説明してくれた。
出現モンスター増加はその文字の通り。
黄金スライムの出現量を増やせるのだ。
「モンスターの量が30%増加します」
「30%、これはいいな」
「はい、では…」
女神リュミエルがダンジョンに魔力を込める。
光が走り、屋根裏ダンジョンの空気がわずかに変わった。
ダンジョンの隅に倉庫と簡易訓練エリアが出現。
視認はできないが、黄金スライムの出現率も上がっているのだろう。
「…確かに、違うな」
「でしょ?」
女神は満足そうに頷いた。
「これから素材を集めれば集めるほど、ここは良くなる。あなたの戦い方に合わせて、進化もする」
「おもしろい」
正直な感想だった。
屋根裏という、誰にも知られない場所。
そこにある、自分だけのダンジョン。
「他の素材を集めてくれば、もっと強化できるんですね?」
「もちろん。もっと効率のいい狩場にもできるし、もっと危険で、もっと実戦的にもできる」
哲人は屋根裏を見渡す。
今はまだ小さな一歩だ。
だが確実に道は見えた。
「いいダンジョンにしましょう。手間も素材も惜しまない」
「うん、それでこそ」
握手を交わす哲人とリュミエル。
彼女は満足げに笑顔で答える。
哲人の屋根裏ダンジョン。
だが、その空間はもう以前とは違う。
ここは、もうただの偶然できた場所ではない。
哲人自身が育て、鍛え、選び取る。
自分だけのダンジョンになり始めていた。
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