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屋根裏ダンジョン育ちの無名剣士、配信で正体を隠したまま無双する  作者: 剣竜
第一章 ダンジョン配信編

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第三十話 屋根裏ダンジョンは、ここにある

 

 あの大会から一週間が過ぎた。

 なで子とユキたちは大会で優勝したということで一躍有名になっていた。

 元々一万人程の登録者数を持つ配信者だったが、それが一気に増え始めた。

 その十倍近く、十万に届くかというくらいにまで増えた。

 まだまだ増えるかもしれない。


「…ふう」


 謎の男セラートこと哲人、彼の活躍も大きいがやはりなで子とユキ。

 この二人の活躍も大きいだろう。

 そんな彼女たちの活躍、そして自身の活躍、

 それらが記されたネットニュースを見ながら哲人が呟く。


「さてと…」


 自宅にて。

 すでに日課となった屋根裏ダンジョン攻略。

 それを進めるためだ。

 昨日ダンジョンに仕掛けたトラップを回収するためだ。

 ホームセンターで購入したそれだが、このダンジョンではかなり有用だ。


「よし」


 金色のスライムは一体、罠にかかっていた。

 最近は囮となるエサを少し改良してある。

 以前までは市販のカブトムシ、クワガタ用のゼリーを使用していた。

 いろいろと調べ、独自に試行錯誤を繰り返した。

 ゼリーに熱帯魚用のエサを混ぜたものを最近は使用している。


「えい!」


 剣で黄金のスライムを倒す。

 そのまま光の粒子になり金色のスライムは消滅。

 小さな金の粒と魔石だけが残った。

 そして…


『おめでとうございます、レベルが上がりました』 


 頭の中に突然響いた声。

 最初はそれに驚きを隠せなかったが、最近は慣れたものだ。

 叢雲ダンジョンでの戦い、日課の黄金のスライム狩り。

 それらにより、現在の哲人のレベルは99となっていた。

 100を超える日も遠くはないだろう。


「…なあ、アンタは何者なんだ?」


『おめでとうございます。スキルポイントを1獲得しました』


「いつも通りのテンプレ回答か」


 この声の主が何者かはわからない。

 こちらからの問いに答えることもない。

 しかし、この屋根裏ダンジョンのおかげで人生が変わったことも事実。

 もし、礼ができるのであればしたい。


「…」


 軽く一礼をしてダンジョンを出る。

 以前、なで子と一緒に黄金のスライムからとれた金を売ったことがあった。

 だがまた溜まってきた。

 小さな空き瓶に溜めているがそろそろいっぱいになりそうだ。

 今度は一人で売りに行こうか。

 そう考えていると、スマホに連絡があった。

 …ユキからだ。


「今度の予定か」


 今度、ダンジョン攻略をするのでその予定だという。

 三人の予定があった時にしか収録はできない。

 とはいえ、哲人はフリーの身なのでそのあたりは比較的自由が利く。


「…」


 いつでもいい、そちらに合わせると返信をした。


 哲人はスマホを伏せ、しばらく天井を見上げていた。

 屋根裏ダンジョンの入口がある天井板――今では、そこがあるのが当たり前の風景になっている。


「予定、いつでもいいって言ったけど…」


 別に嘘ではない。

 今はバイトも入れていないし、急ぎの用事もない。

 確かにセラートには大会後で多少注目は集まっている。

 だが、哲人自身は相変わらず静かな生活だ。


「…洗濯、あとでいいか」


 洗濯は午後からにしよう。

 そう思いながら立ち上がり、部屋の隅に置いてある装備一式の前にしゃがみ込む。

 大会で使ったものと、屋根裏ダンジョン用に調整したものが混ざっている。

 屋根裏ダンジョン用に使用している軽量なショートソード。

 そして別のダンジョン用のマジックアイテムの両刃剣だ。


「まずは剣…と…」


 壁に立てかけてあった愛用の剣を手に取る。

 刃は欠けていないが、よく見ると細かな擦り傷が増えている。

 布を取り、刃を撫でるように拭いていく。


「…やっぱり、雷流すと傷増えるな」


 そう呟く。

 魔力を通す金属とはいえ、負荷は確実に残る。

 整備用の薬品をチューブから出し、少量垂らす。

 そして布で刃全体に薄く伸ばす。

 鈍く光る刃が、少しだけ落ち着いた色合いになった。


「次は防具だ…」


 胸当てと簡易的な鎧。

 大会では動きやすさを重視して軽量化を優先していた。

 そのため普段より少しだけ薄いものを使っていた。

 嫌な予感がする。

 バックルを外し、内側を確認する。

 思った通り、少し痛みがあった。


「…ここ、歪んでるな」


 水路エリアでの衝撃だろう。

 手で軽く押し、元の形に近づける。

 完璧とは言えないが、実用には問題ない。


「…よし」


 革の部分には保革用のクリームを塗り込む。

 少し時間がかかるが気にしない。

 こういう手入れは嫌いじゃなかった。

 ただひたすらに無心になれる。


「子どもの頃、こんなことするとは思わなかったな」


 剣も鎧も、ファンタジーの中の道具だったはずだ。

 ゲームや漫画の中に出てくる主人公が持っているアイテム。

 それを自分の部屋で、黙々と整備している。

 変な話だが不思議と落ち着く。

 装備を元に戻し、万年床と化した布団に転がる。


「…」


 窓の外は静かだ。

 車の音も、遠くの話し声も聞こえない。

 ただ、時計の秒針の音だけが部屋に響いている。


「…普通だな」


 大会で優勝しても、レベルが99でも。

 今この瞬間は、ただの一人暮らしの部屋だ。

 スマホを手に取り、動画サイトを確認する。

 お気に入りの投稿者の動画が投稿されていないかを確認する。


「無いな」


 スタチューバスターズも、テトラの動画も投稿されていない。

 他のお気に入りの投稿者も、特に新しい動画はない。

 生配信のアーカイブ動画などはあるが、今特に見る気も起きなかった。

 哲人は深く息を吐き、布団に身を預ける。


「次は少し雷魔法の調整、しとくか」


 そう呟き、目を閉じた。

 何も起こらない、何気ない一日。

 だが確実に、次のダンジョン攻略へと繋がっていく。

 そんな、ごく普通の日常だった。

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