第二十六話 最深部に到着してみた
『第五関門:廃都市エリア』と書かれた看板。
哲人たちその前にいた。
ここが最後のエリアらしい。
今までのエリアに比べてもかなり難易度が高いようだ。
「…ここが最後のエリアか」
「まさかここまで来れるなんて…思わなかった」
なで子がそう言った。
大会に参加してそこそこの成績を出して配信の宣伝になればいい。
その程度に気軽に考えていた。
いくら哲人がいるとはいえ、最後のエリアまで来れるとは考えてもいなかったのだ。
「感慨深いね」
一方、ユキは違った。
このパーティなら、このダンジョンを突破できる。
その確信があった。
「…行こう」
哲人の言葉に頷く二人。
ここまで来るのにもかなり苦労してきた。
妨害もあった。
なんとか無事にここまで辿り着くことができた。
だが最後の関門でリタイアになっては元も子もない。
気を引き締めていく。
「それにしても、廃都市っていうだけあってすごい光景だな」
哲人が思わず呟いた。
目の前に広がる光景はまさに廃墟といった感じだ。
ボロボロの建物が立ち並び、人の気配は全く感じられない。
「以前、テトラとコラボした時のダンジョンに似てる」
「難易度は全然違うけどね」
以前コラボ配信をした『結晶戦姫テトラ』とともに攻略した『県庁所在地の街中ダンジョン』を思い出すユキ。
確かに雰囲気は似ている。
だが難易度は明らかにこちらのほうが上だ。
倒壊した高層ビルにひび割れた舗装道路。
折れ曲がった街灯や、半分だけ原形を保った看板。
「…静かだな」
警戒は怠らない。
しかし、ここで立ち止まっているわけにもいかない。
三人は覚悟を決めるとゆっくりと前に進み始める。
空は常に薄曇りで、どこからともなく灰色の塵が舞っている。
「すごい、さっきの鉱山や水路とは全然違うね…」
ユキが思わず声を漏らす。
遮蔽物が多く、視界が悪い。
非常に戦いづらそうだ。
なで子は周囲を見渡しながら言った。
「文明の終わりって感じね。趣味が悪い…」
歩くたび、靴底でガラス片が軋む音がする。
遠くでは、崩れた建物の間を風が吹き抜けている。
低いうなり声のような音を立てていた。
あの風はどこからきているのだろうか…
「…あ」
ユキが前方を指さす。
そこには、人影があった。
一人、二人ではない。
瓦礫の街路を進む、別の参加者たち。
「他のチームも、もう来てるんだ」
「強豪ばかりね」
なで子は、すぐに何人かを見分けた。
商会所属のチーム『三条会』だ。
プロ重装戦士。
有名配信者として知られる双剣使い。
後衛に高位魔法使いを従えた、完成度の高いパーティだ。
どの顔にも、焦りはない。
ここまで辿り着いた者たちだけが持つ、静かな自信。
「さっきの黒崎とは全然違うな」
哲人が呟く。
実際、参加者同士は互いを警戒しつつも一定の距離を保って進んでいる。
視線が交わることはあっても、武器が向けられることはない。
こちらが何か妙なことをすれば、即座に制圧してくるかもしれない。
しかし、逆に言えばそれ以外では敵意など絶対に向けてこないということ。
「ここまで来た連中は、全員わかってるのよ」
なで子は静かに続ける。
哲人は、崩れた市庁舎らしき建物を見上げた。
中央広場。
そこに向かって、複数のルートが伸びている。
「…最終ボス、か」
「ええ。おそらく、あの先」
重い沈黙が落ちる。
その時、別のパーティの一人が哲人たちに軽く手を挙げた。
口元は笑っていた。
気楽にいこう、という敵意のない無言の挨拶。
「…行こう」
哲人は応じるように小さく頷いた。
崩壊した都市の奥で、何かが待っている。
それを、全員が理解していた。
「うん」
ユキが呟き、なで子は黙って頷く。
崩壊都市の中心へ向かう道は、いくつもに分岐していた。
だが不思議なことに、進むにつれて参加者たちは自然と同じ方向へ集まっていく。
「…やっぱり、残ってるのは精鋭ばかりね」
なで子が小さく呟く。
視界に映るのは、明らかに場慣れしたパーティばかりだった。
重装備に身を包んだ三人組チームの『アイアン・フォートレス』。
盾役二名と後衛ヒーラーという、安定性重視の構成だ。
「あれは…!」
哲人が見つけたのは有名配信者の『スタチューバスターズ』だった。
哲人はこのコンビが結構気に入っており、よくチェックしていたりする。
コンビのチームで、巨大な盾を持った大男と大弓使いの男だ。
名前は『タゴサク』、彼は大きな盾を振り回しながらモンスターを倒していくスタイルだ。
そしてもう一人の方は、細身の男性。
彼の名は『サツバツ』、主に弓を使って戦っている。
二人とも年齢は三十歳を超えているベテラン探索者だ。
「…みんな、空気が違う」
ユキがそう言うのも無理はない。
誰も無駄口を叩かず、しかし互いの存在を強く意識している。
そんな中、瓦礫が崩れる音がした。
「来るわよ」
なで子の声と同時に、廃墟の影から魔物が姿を現す。
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崩壊都市のレイダー
Lv:20
スキル:群体行動
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人型に近い影が、次々と這い出てくる。
レベルは20、数も多い。
哲人は一瞬、周囲を見渡した。
ここで各個撃破を狙えば時間を食う。
そこで…
「共闘、いいですか!」
哲人が声を張り上げる。
一瞬の間。
だが次の瞬間、即座に返事が返ってきた。
他のチームの者たちから。
「構わない!」
「後衛、援護する!」
「前、任せた!」
言葉は最小限。
だが、連携は完璧だった。
哲人が前に出て、剣で群れを引きつける。
なで子が広範囲魔法で動きを鈍らせ、ユキが的確に急所を射抜く。
三条会のメンバーが側面から切り込み、アイアンフォートレスが盾で通路を塞ぐ。
スタチューバスターズが殲滅速度を上げる。
「…これが、最終エリアか」
哲人は思う。
ここまで来た者同士だからこそ成立する、無言の信頼。
大会優勝よりも攻略を重視している。
数分で最後のレイダーが霧散し、街路に静寂が戻った。
「助かった」
「そっちもな」
軽く頷き合うだけで、各パーティは再び距離を取る。
馴れ合いはない。
だが、敵意もない。
「…前方、広場だ」
誰かがそう呟いた。
崩壊した都市の中心。
かつて人々が集っていたであろう巨大な広場。
そこに何かがあった。
ゆっくりと地面が揺れる。
一瞬、瓦礫が浮き、落ちた。
魔力が渦を巻いているのがわかる。
「…来る」
なで子が、はっきりと言った
広場の中央、亀裂が走り、
その奥から巨大な影がせり上がってくる。
ビル一棟分はあろうかという巨体。
崩壊した都市そのものを纏うような姿。
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Lv:???
最終ボス
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誰も、まだ動かない。
息を呑み、全員がその姿を見上げていた。
叢雲ダンジョンの最終試練がはじまる…
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