第二十四話 悪質妨害を受けてみた
叢雲ダンジョン内に存在するエリアは全部で五つ。
それぞれの難易度は様々だ。
だが、今回の哲人たちはとても良いペースで進めている。
他の参加者たちは第一エリアを突破できていないものもいる。
また、第二、第三でリタイアになっている者も多いようだ。
そんな中で哲人たちは運良く第四のエリアまで来ることができたのだ。
この調子で最後まで駆け抜けたいそう思う哲人。
「『第四関門:水路エリア』、か」
そう書かれた看板をなで子が読みあげる。
目の前に広がる光景は圧巻だった。
一面に水が張り巡らされており、まるで巨大な川のようだ。
いくつかの島や岩場があり、その中にいくつかの橋が架かっている。
どうやらあれを渡ることで次のエリアまで行くことができるようだ。
「ここからはスピード勝負ね」
なで子の言葉に黙って頷く哲人とユキ。
確かにその通りだろう。
水路エリアには、おそらく水棲系のモンスターが多く出現する。
戦いにくい相手だ。
あまり長いはしたくない。
「行きましょう」
なで子が言う。
哲人たちは慎重に足場となる橋を進む。
しばらく歩いていると目の前に何かが見えてきた。
どうやらあれが水棲モンスターのようだ。
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地下水脈のサーペント
Lv:32
スキル:強襲、奇襲
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「あいつ、以前の…?」
ユキが呟く。
現れたのは大きな首長竜のような姿をした魔物だった。
大きさは5メートル以上もあり、鋭い牙を持っているのが特徴的。
以前、日本海側の新ダンジョンで戦った『アクア・サーペント』の亜種のような存在だ。
「レベルも30を超えてる、気をつけたほうがいい」
幸い、地下水脈のサーペントはこちらに気付いていない。
気配を殺し、ゆっくりと進む。
わずかな足場である橋を渡りながら。
と、その時…
「…ッ!」
空気を裂く音がした。
何者かが放った矢、それがサーペントの首に直撃した。
大したダメージではない、しかしそれがサーペントの逆鱗に触れた。
その勢いのまま、サーペントは哲人たちに襲い掛かってきた!
「誰!?攻撃したのは!」
なで子が叫ぶ。
答える者はいない、何者の攻撃だったのかわからないのだ。
しかしそんなことを気にしている場合ではない。
この水路の上に渡された橋、狭い足場では戦いづらい。
「くっ…!」
ユキが小型のクロスボウで狙撃するも、サーペントにはよけられてしまう。
意外と素早い動きをするようだ。
なで子の攻撃魔法は水系の相手には相性の悪い、炎系が多い。
哲人の剣技は当てづらい。
と、なると…
「雷魔法!」
哲人が叫ぶ。
例の屋根裏ダンジョンでレベルを上げた際に習得した雷魔法。
今まで使わず、スキル欄の肥やしになっていた。
しかし、これなら…
「ずあっ!」
剣の先から雷魔法が放たれる。
今まで使ったこともなく、スキルレベルも低い。
低級の技だ。
しかし…
『ギィィィィィィ…!』
哲人が放った雷魔法は正確にサーペントに直撃。
そのままサーペントが断末魔を上げながら消滅した。
いくら低級でも、レベル90を超える哲人が放つのだ。
その威力は並のものではない。
「うわ、すご…」
思わずなで子が呟く。
彼の戦いはこれまで何度も見てきたが、攻撃魔法を使うのを見るのは初めてだった。
「…今の、見事だったわ」
なで子が率直に感想を漏らす。
いや、そうとしか言えなかった。
どれほどすごい魔法なのだろうか。
そう思いながら。
「正直、雷魔法は保険みたいなもんでさ。いままで使う機会なかったんだよ」
哲人は剣先に残る微かな放電を振り払いながら答えた。
今までは剣だけで戦ってきた。
それ以外を使う必要がなかったから。
「でも水相手にはドンピシャだね」
「うん、橋の上で戦うの、ちょっと怖かった」
ユキは胸を撫で下ろし、小さく息を整える。
サーペントが消滅したことで、水路は再び静寂を取り戻していた。
だが…
「さっきの矢……」
「誰かが、わざと撃ったよな」
なで子が眉をひそめる。
哲人も周囲を警戒するように視線を走らせる。
橋の向こう側、島影、水面、どこにも人影はない。
「参加者同士での妨害は禁止されてるはずじゃ…」
「直接攻撃が禁止なだけよ」
なで子は低く答えた。
「魔物を誘導したり、状況を悪化させるのはグレー…」
ユキがぎゅっとクロスボウを握る。
嫌な予感がする。
「じゃあ…」
「ええ。近くに、他のチームがいる可能性が高いわ」
「…」
「それも、かなり悪質な、ね」
空気が一段と重くなる。
「急ごう。このエリアに長居したくない」
哲人はそう判断し、再び橋を進み始めた。
水路エリアは広大だが、構造は単純だ。
島と橋をいくつか越え、中央の大水門を抜ければ次の階層へ続く扉がある。
途中、いくつか水面が不自然に揺れる場面もあったが、魔物は現れなかった。
まるで、何者かが裏で調整しているかのように。
そして…
「見えた、次のエリアへの扉!」
ユキが声を上げる。
水門の先、岩場に刻まれたマークが淡く光っている。
それは扉があることを示している。
第四エリアのゴールだ。
「よし、このまま…」
哲人が一歩踏み出そうとした、その瞬間だった。
低く、嘲るような男の声が響いた。
「ここまで、ずいぶん順調だったみたいじゃないか」
前方の岩陰から数人の影が姿を現す。
先頭に立つのは、見覚えのある男。
鋭い目つき、使い込まれた装備、そして…
「…黒崎」
なで子が、はっきりとその名を口にした。
ずいぶんと久しぶりに呼ぶその名前。
口にもしたくない。
「久しぶりだな、なで子」
黒崎は口元を歪めて笑う。
その背後には、弓使い、斥候、魔法使い…
明らかに役割分担の整ったチームメンバーたち。
「第四エリアまで来られるとは思わなかった」
「でも、ここで終わりだ」
哲人は一歩前に出て、剣を構えた。
その気迫に思わず押される黒崎のチームメンバー。
しかし、黒崎本人は動じない。
「…あんたらが、さっきの矢の主か」
「さあな。結果的に魔物が片付いたんだから、礼を言われてもいいくらいだろ?」
黒崎の視線が、哲人からなで子へと移る。
舐めまわすような、嫌な目つきだ。
「成功者様のチームは、さぞ楽しいだろうな」
「…何が目的?」
「気に食わないんだよ」
水路エリアの水面が、静かに揺れた。
次のエリアへの扉を背に、対峙する二つのチーム。
第四関門の終点で、過去からの因縁が牙を剥く。
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