第二十三話 休憩所で休憩してみた
哲人たちは通路を進んでいた。
道中で何度かモンスターに遭遇したが特に問題なく倒すことが出来た。
しかし流石は叢雲ダンジョンの深部のエリア。
レベルが低くても油断はできないモンスターが多く出てくる。
「ふう…」
ユキが小さく息を吐く。
常に神経を研ぎ澄ましながらの行動。
いつもの配信の場とは違う、競技性の高い大会。
無理もないだろう。
「大丈夫か?」
「うん、平気」
哲人の問いに対し、そう答えるユキ。
無理ならばいつでもリタイアしてもいい。
そんなことを考えているうちに次のエリアが見えてきたようだ。
どうやらここが第三エリアらしい。
いままでのエリアは寂れた廃坑がモチーフだった。
だが、この先のエリアは全盛期の鉱山がモチーフとなっているようだ。
「うわぁ…」
なで子は感嘆の声を漏らした。
無理もないだろう。
目の前に広がる光景はとても美しいものだった。
宝石のように輝く魔石。
砕けた魔石が混ざり、金色に輝く砂。
それらが魔力を吸い発光していた。
「あ、看板だ」
「どれどれ…」
『このエリアでは採掘場がモチーフとなっています。制限時間内にゴールを目指してください』
看板にはそう書かれていた。
制限時間は三時間。
急いでいくほどの時間ではないが、あまり時間をかけすぎるのも問題だ。
これまでのエリアは魔物を倒すことが進む条件だったが、このエリアは違う。
ただ抜ければいいだけのようだ。
「どうする?」
哲人は後ろを振り返る。
そこには疲労の中を歩くユキの姿があった。
彼女は肩で息をしながら苦しそうにしている。
哲人もそれを心配して声をかける。
だがユキは首を横に振った。
「…お腹すいた」
「…少し休憩が必要ね」
「よし、あそこで休もう」
哲人が指差す方向。
そこに目を向けると、岩陰に隠れるようにして小屋のようなものが見えた。
興味津々といった様子で走り出すユキの後を追って哲人達も向かった。
「きっと簡易休憩所ね」
なで子が言う。
大会運営が設置した休憩所なのだ。
扉の前に立ち、ノックをする。
先客がいないかの確認だ。
返事は無い。
ドアを開けると鍵もかかっていないようだ。
「誰もいないみたい」
中に入ると埃っぽく薄暗い部屋の中にテーブルや椅子などの家具が置かれている。
部屋の隅々まで確認したが人影は無かった。
やはり休息のために作られた小屋なのだろう。
少しここで休憩していくことに。
各々が荷物を置いて一息つく。
「なにも無いね」
ユキはそう言いながら椅子に座っていた。
小屋内には他に何もない。
なで子の言うとおり、休憩用の施設なのだろう。
別の部屋には簡易的なベッドが置かれている程度だ。
あとは、別の冒険者が残していったゴミくらい。
「ここを使ったパーティがいるんだ…」
ユキが呟く。
つまり、自分たちよりも早くここを通っていった者たちがいるということ。
それに対し、対抗心を抱いているのだろう。
「まあ、今回は別に優勝したいとかではないからね。ゆっくりしてこうよ」
なで子がカバンからミネラルウォーターを取り出し、ユキに渡す。
大会ということで、今回はダンジョン内での食料調達は無しだ。
外で購入した食品を食べることに。
「ゴミは持って帰ってね」
「はーい」
ユキは菓子パンと菓子。
なで子は手作りの弁当。
哲人は外で買ってきたスーパーの弁当と総菜。
それらをそれぞれ食べた。
「…すごい非現実感だ」
休憩所の窓からダンジョンを眺めながら食う食事。
普段食べているスーパーの弁当、外には輝く魔石。
この現実感の無さこそ、ある意味ではダンジョン攻略者の醍醐味でもある。
これだからダンジョン攻略はやめられない。
「…ん」
総菜のきゅうりの漬物を齧りながら物思いにふける。
そして、哲人はふとあることを思いついた。
「なあ、なで子、あの魔石って売れるのかな?」
「ええ。安いけどね」
「あ、安いのか」
「加工も面倒だし、魔物を倒した時にドロップする魔石のほうが使いやすいからね」
「なるほど…」
ある程度は予想していたが、やはりそうか。
そう思う哲人。
屋根裏ダンジョンでとれる金は、やはり特別なものなのだろうか。
「でも、ああやって露出してるのを見ると、つい欲しくなるわよね」
なで子は苦笑しながら、窓の外に広がる輝きを見た。
ダンジョン内とは思えぬ輝きがそこにはあった。
「持って帰ったらダメなの?」
「大会中は基本禁止。下手すると失格よ」
「えぇ…」
「一応ここは大会の会場だからね。ダンジョン内で消費する分には問題ないんだけど」
「そっか…」
ユキが露骨に肩を落とす。
お土産として持ち帰りたかったのだろうか。
「まあまあ。終わった後なら、観光用にちょっとした展示エリアとかもあるらしいし」
「それならいいかなぁ」
休憩所の中には、しばし穏やかな空気が流れた。
疲労も多少は抜け、張りつめていた神経も少しずつ緩んでいく。
哲人は空になった弁当箱を片付けながら、立ち上がった。
「そろそろ行こうか。ここで長居するのも良くない」
「そうね」
「うん、行ける」
三人は荷物を背負い直し、休憩所を出る。
しばらく歩いていると前方に何かが見えてきた。
どうやら魔物のようだ。
「ふぅ…」
哲人は深呼吸をして心を落ち着かせ、剣を構える。
腹ごなしにちょうどいい。
目の前にいるのは鉄の巨人のような魔物。
おそらくゴーレムの一種だろう。
鑑定のスキルで能力を確認する。
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Lv:25
名前:ゴーレムファイター
スキル:発光
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以前のエリアと比べると、レベルがいきなり10近くも上がっている。
今までのエリアとは難易度が段違いのようだ。
そう考えていると、他の参加者がゴーレムファイターから逃げ回っている姿が見えた。
「うわあああ!」
「逃げろ!」
皆必死になってゴーレムファイターの攻撃を回避している。
幸いスピードは遅い、逃げるだけならば比較的容易なのだろう。
中には第二エリアへ戻る者もいた。
戻ってしまうとリタイア扱いとなるので注意が必要だ。
哲人は冷静にゴーレムファイターの動きを観察しつつ、剣を構えた。
「俺がやるよ」
哲人は叫ぶと一気に距離を詰めていくことにした。
ゴーレムファイターは巨体だが動きはそれほど速くはない。
哲人の渾身の一撃が炸裂するとゴーレムファイターの身体を削り取った。
そしてそのまま崩れ落ちるようにして倒れていった。
いくらレベルが高いといっても25だ。
レベル95の哲人にとっては、まだまだ余裕の相手だ。
「魔石拾っていこう」
「これは持ち帰ってもいいからね」
そう言いながら魔石を拾うユキとなで子。
こうして哲人たちは無事第三関門も突破することができた。
まだ油断はできないが、この調子で最後まで走り抜けたい。
そんなことを考えながら哲人たちは次のエリアへと進んでいくことにした。
…その時だった。
「…?」
哲人は、わずかな違和感に足を止めた。
空気が、変わった。
鉱山特有の魔力の流れとは違う、
人の気配。
それも一つではない。
複数、だが、足音はしない。
「(…さっき逃げていったパーティの人?)」
いや、それにしては妙だ。
まるで、こちらを窺っているような感覚。
「哲…セラート?」
なで子が異変に気づき、小声で呼ぶ。
哲人は黙って手を上げた。
なんでもない、そういう意味を込めて。
「(気のせいか…)」
敵の魔物か、偶然通りかかった別の冒険者か。
哲人はゆっくりと視線を次のエリアへ向けた。
次に何が起こるのか、まだ誰にも分からない。
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