第二十二話 廃坑エリアで無双してみた
「うおお…」
「広いね」
扉の先に広がっていたのは広大な空間。
まるで鉱山の採掘場のようだった。
そこら中に穴が空いており、中は見えない。
しかし、最初のエリアと比べると格段に人の数が減ったと感じる。
ただ単に哲人たちが早くたどり着いただけなのか。
それとも…
「ほとんどの人は最初のエリアも突破できないのよ」
なで子が言った。
最初のエリアの平均レベルは10。
それを超えられない者も少なくはない。
大抵は係員や他のベテランに助けられてリタイアするものが多いのだ。
「お、看板がある」
『第二関門:廃坑エリア』と書かれた看板の下に、三体の魔物のイラストと情報が書かれていた。
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ファイタースケルトン
Lv:15
スキル:硬化
クレイゴーレム
Lv:15
スキル:硬化
ソルジャースライム
Lv:15
スキル:硬化
・レベルは多少前後します。
・無理は禁物です。
・リタイアの際は係員に。
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三体ともレベルはそれほど高くない。
だが問題はその強さではなく、それぞれが持っているスキルだ。
いずれも『硬化』というスキルを持っている。
これはその名の通り固くなる能力。
単純に時間がかかるため、面倒くさい。
「(俺が速攻で倒していけば問題ないか)」
とはいえ、哲人はレベル95。
当然、硬化を使われたところで軽く倒すことができる。
哲人は軽く肩を回し、廃坑エリアへ足を踏み入れた。
天井は高く、ところどころに崩れた支柱や錆びた何かの残骸が転がっている。
無数に空いた穴からは生温い風とともに土と鉄の匂いが漂ってくる。
足音が反響しやけに広さを感じさせる。
「なんか不気味」
「油断しなければ大丈夫よ。この辺りは数で押してくることも少ないらしいし」
ユキの言葉に対し、なで子が答える。
なで子の言葉が終わる前に、カラカラと骨の擦れる音が響いた。
穴の一つから、剣と盾を持った骸骨が姿を現す。
「ファイタースケルトンだね」
「時間はかけられない。すぐに倒す!」
哲人は一歩前に出る。
スケルトンは盾を構え、体表が灰色に鈍く光った。
「硬化、発動か」
次の瞬間、哲人の剣が盾ごと骸骨を切り裂いた。
魔力の粒子となって消えるスケルトン。
小さな魔石がその場に残される。
「え、もう…?」
ユキが目を瞬かせている間に倒してしまった。
硬化のスキルは防御力を大幅に上げる。
数値化すれば、その上昇幅は約三倍。
やはり圧倒的なレベル差による攻撃は強い。
今度は地面が盛り上がり、粘土の塊が人型を成した。
「クレイゴーレムか!」
ゴーレムの全身が岩のように固まる。
こちらも硬化のスキルだ。
そのまま、鈍重な腕を振り下ろす。
だが、その腕が振り切られる前に、哲人は懐へ踏み込み切り裂く。
ゴーレムはひび割れ、崩れ落ちた。
「硬化って、意味あるのかな…」
「相手が悪すぎるのよ」
「普通は厄介なスキルなんだけどね」
最後に現れたのは、地面を這う半透明のスライムだった。
槍のように身体を尖らせ、こちらへ突進してくる。
「ソルジャースライムか」
哲人はため息混じりに足を振り下ろす。
踏み潰されたスライムは一瞬硬化の光を放ったが、抵抗むなしく霧散した。
廃坑エリアは静まり返る。
「あっという間だったね」
「時間をかけるエリアなんだけど、本来は」
哲人は周囲を見渡す。
穴の奥から魔物が湧く気配もなく、どうやらこの区画は制圧したらしい。
増援が来る前に早くこの場を離れたい。
そう考えている哲人。
と、その時…
「あ、あれ!」
ユキが何かを見つけた。
ただの岩壁にみえる。
だが、奥の岩壁に人工的な階段が見えた。
なで子が確認する。
「次の階層への通路ね」
階段の先には、淡く燃える小さな松明が設置されている。
哲人は一歩、階段に足をかけた。
「(この調子なら、どこまででも行けそうだな)」
次の階層へ。
哲人たちは迷うことなく進んでいった。
廃坑エリアに静寂が戻る。
だが、完全な無人ではなかった。
「…ちっ、もう次かよ」
岩陰から姿を現したのは、鋭い目つきをした男だった。
短く刈り上げた髪、使い込まれた装備。
「相変わらず、運だけはいい女だ」
男の名は黒崎龍二。
かつて、なで子と同じチームに所属していた男だ。
その背後から、数人のチームメンバーが集まってくる。
「今の見ましたか?」
「スケルトンもゴーレムも一撃でしたよ」
「あれが噂のセラートか」
チームメンバーが驚嘆の声を上げる。
しかし黒崎は舌打ちし、穴だらけの地面を睨みつけた。
「あの女があそこまで速くこのエリアを抜けられるわけがない」
脳裏に浮かぶのは、かつての光景。
単なるチームメンバーの一人だったなで子。
好みの女だったが、ちょっと『スキンシップ』をしただけで彼女はチームから脱退した。
今の自分は有名チームのリーダー、手に入らない物はない。
いつからか、その認識はなで子への嫉妬と歪み、確信へと変わっていった。
「潰してやるぜ」
「で、リーダー。追うんですか?」
チームメンバーの一人が訊ねる。
黒崎は、第二関門の看板を乱暴に見上げた。
「決まってるだろ」
しかし別のメンバーが不安げに言う。
「でも、あの速さ、正直、ヤバくないですか?」
「あのセラート、レベルは非公開らしいけど70は確実に超えてますよ」
黒崎は、低く笑った。
そして拳を握りしめる。
「引きずり下ろしてやる。策もある」
崩れたゴーレムの残骸、砕けた骨、乾いたスライムの痕跡。
圧倒的な力の通過痕に、誰もが息を呑む。
全てセラートこと哲人がやったものだ。
「…本当に、同じ人間かよ」
黒崎の目が鈍く輝く。
自分たちのレベルは20前後。
人数は五人。
レベル合計だけならば、なで子のチームと同じくらいのはずだ。
「待ってろよ、なで子」
彼らもまた、次の階層へ向かう。
彼らは装備を整え、慎重に廃坑エリアの次のエリアへ足を踏み入れる。
追う者と追われる者の因縁。
それは、知らぬ間に。
しかし、確かに動き始めていた。
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