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屋根裏ダンジョン育ちの無名剣士、配信で正体を隠したまま無双する  作者: 剣竜


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第十二話 村を観光してみた

 そして次の日のこと。

 哲人たちは村を回ってみることにした。

 日本海側に面した小さな村。

 人口は少なく、三百人にも満たない規模だ。


「明日になったら帰るからね」


 なで子の提案で、最終日くらいは村を回ろうということになったのだ。

 とくに有名な施設などはないが、郷土資料館など見ごたえのあるものもある。

 地元の歴史や事件、お祭りに関する資料などが展示されていた。


「そうか、あの事件があったのはここだったのか…」


 哲人はあることを思い出していた。

 十五年ほど前に外国の大きな船が座礁する事件があった。

 当時ニュースで繰り返しやっていたから覚えていた。

 哲人は当時のニュースを思い出しながら懐かしんでいた。

 しかし…


「ウチらが赤ちゃんのころの事件じゃん」


「そうだよね」


 なで子とユキの言葉が、哲人の心に刺さる。

 彼女たちにとっては確かにそうだろう。

 気を取り直し、別の場所に向かうことに。

 郷土資料館の係員に、食事ができる店を教えてもらった。


「村の中央の方らしいけど」


 漁業が盛んで海産物が美味しいと評判の場所である。

 特に有名なのは海鮮丼だろう。

 新鮮な魚介類をふんだんに使った贅沢な料理だそうだ。


「お、あそこか」


 しばらく歩き、店を発見した。

 哲人たちは早速注文することにしたのだった。

 メニュー表を見ると様々な種類の料理が並んでいるのがわかる。

 どれも美味しそうなものばかりで迷ってしまうほどだ。

 どれにしようか悩んでいる哲人だったが、ユキはすでに決めていたようだ。

 彼女は迷わず一つの料理を指差していた。


「カレー」


「ユキさ、こんなところまできてカレー食べなくても…」


「…じゃあこれ」


「ウチは山菜蕎麦にしよっと。海鮮はダンジョンで食べたし」


 なで子に言われ、ユキはエビフライ定食に変えた。

 哲人は先ほどから食べたかった海鮮丼を選んだ。

 なんでもこの村の名物らしく、村を訪れる者は必ず食べるという一品だそうだ。

 それと刺身の盛り合わせも頼むことにした。

 値段に応じておすすめを出してくれるらしい。


 数分後、運ばれてきた料理を見て驚くことになる。


 エビフライ定食、山菜蕎麦、海鮮丼、どれもおいしそうだ。

 しかし、ひときわ目を引いたのはやはり刺身の盛り合わせだろう。

 まず目に入ったのは大量の新鮮な魚介類だった。

 どれもこれも美味しそうに見えるのだが、中でも特に目を引いたのは貝だった。

 大きさはかなり大きく、肉厚でとても柔らかそうな見た目をしているのがわかる。

 哲人は思わず身を乗り出した。


「…でかいな、この貝」


「何それ、アワビ?」


「いや、たぶんトリガイかな。日本海側だと大きくなるって聞いたことある」


 係員の説明を待つまでもなく、見るからに鮮度が違う。

 殻から外された身は淡い紅色を帯び、包丁の入れ方も美しい。

 箸でつまむと、強い弾力が指先に伝わってきた。


「いただきます」


 一口噛んだ瞬間、哲人は思わず目を見開いた。

 噛み締めるごとに、じわりと甘みが広がる。

 磯の香りは強すぎず、むしろ上品に感じた。


「…これは当たりだ」


「そんなに?」


 ユキも興味深そうに貝を一切れ口に運ぶ。

 そして数秒後、無言で親指を立てた。


「うま」


「こういうのがあるから地方の店は侮れないんだよ」


 なで子は山菜蕎麦をすすりながら満足そうにうなずく。

 素朴な味わいの中に、山の香りがしっかり残っていて、こちらも当たりだったようだ。

 それぞれの料理を堪能し、最後は少し名残惜しそうに箸を置いた。


「ごちそうさまでした」


「ユキ、このお店に来て正解だったね」


 店を出ると、昼下がりの村は穏やかな空気に包まれていた。

 潮の匂いと、どこかで干されている魚の香りが混じり合い、ゆっくりとした時間が流れている。

 ダンジョン目的で訪れた村だったが、それ以外も悪くないかもしれない。


「せっかくだし、もうちょっと回ってから帰ろっか」


 なで子の提案で、三人は村の中を歩くことにした。

 港に近づくと、小さな漁船がいくつも並び、網の手入れをしている漁師たちの姿が見える。

 観光地というより、生活の場としての港だ。


「こんにちは」


 ユキが声をかけると、年配の漁師がにこりと笑って手を振り返してくれた。


「今日は海、穏やかですね」


「ええ、昨日まで荒れてたんですがね」


 そんな何気ない会話。

 しかしそれが旅の記憶として静かに刻まれていく。

 少し歩くと、丘の上に小さな神社があった。

 石段は古く、ところどころ欠けているが、手入れは行き届いている。


「登ってみるか?」


 哲人が言った。

 三人で石段を上ると、村全体と日本海が一望できた。

 青く広がる海と、家並み。

 その向こうに、遠く水平線が霞んでいる。


「…いいとこだね」


 ユキの呟きに、誰も否定しなかった。

 派手さはない。

 けれど、確かに人の暮らしがある。

 しばらく景色を眺めた後、三人は宿へ戻り、荷物をまとめた。

 名残惜しさはあったが、帰る時間は確実に近づいている。

 村を出るバスが来ると、哲人は振り返って一度だけ村を見た。

 ダンジョン周辺の観光者向けの場所以外は寂れた印象を受けるなと思う哲人。

 しかし…


「…また来てもいいかもな」


「今度は別の季節にね」


「そのときは、カレー食べよう」


「だからなんでだよ、海鮮食べようよユキ」


 軽口を叩き合いながら、三人はバスに乗り込んだ。

 エンジン音とともに村は少しずつ遠ざかっていく。

 日本海に面した小さな村は、再び静かな日常へと戻っていった。

 そして哲人たちの旅も、ひとまずの終わりを迎えたのだった。


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