1 もしかして
※作中、「痴漢」、「いじめ」に関する描写があります。
「ひ、広瀬……」
全身が燃えるようだった。
俺に押し倒されている男子生徒、広瀬が目を見開く。
「広瀬、おまえ」
彼の正体に気付いたときには、もう遅かった。
俺の体中に、蕁麻疹が広がっていた。
「おまえって、もしかして」
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
広瀬は甲高い悲鳴を上げ、パンチを繰り出した。
……俺の股間をめがけて。
*
およそ三週間前。
この日は朝から快晴のうえ、令涼学園の敷地に植えられた桜は満開で、絶好の入学式日和となっていた。
俺が入学する私立令涼学園は、元々は女子校だ。
中高一貫校で、中等部、高等部ともに共学化されたのは今年度から。学園は「現代社会において多様性を重視するため」などと謳っているが、これは表向きだろう。「少子化のこの時代にも生徒を囲い込めるようにするため」、というのが本来の理由に違いない。
そして今日これから、共学になって初めての高等部の入学式が執り行われるのだ。
記念すべき日だが、俺の足取りは非常に重かった。
立派な構えの校門をくぐり、周囲を見回してみる。
視界に映るのは女、女、女、……女ばかり。男子生徒も少なからずいるはずなのだが、まだ一人も見つけられていない。
おろし立てのスニーカーの靴紐が緩んでいることに気付き、桜並木の下でしゃがむ。一度紐を解きながら、大きくため息をついた。
こんなはずじゃなかった。
よりによって、なんで元女子校なんかに……。
元「女の花園」に身を投じるわけだから、ハーレムを期待して鼻の下を伸ばす男子新入生だっているかもしれない。
しかし、俺はただただ憂鬱だった。
理由はただ一つ。
俺―― 岬 幸太郎 ――は、女が大の苦手だからだ。