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太陽の子1

 過去に一機のスカイドールが短距離のファーストクラスで五連勝した記録は一度もない。単調な直線勝負、みんな同じ最新の推進エンジンを使うからゴール前はいつも混戦。頭一つ分だけ突き抜けてゴールとかよく見る光景だった。


 だけど今の短距離レースは今までの常識を覆したものへと変貌していた。私のライバル、レイエルさんの常識破りのレース展開にファンは色めき立っていた。


 レイエルさんとはファーストクラスで初対戦し、最初こそ影が薄くて忘れられているみたいに運よく勝ったけど、それ以降は意識されているのか徹底的にマークされ、負け続けている。十戦一勝……、それが私の戦績。


 暴力を振るかざしながら後ろから弾丸のように飛んでくるレイエルさんは、自分の前にいるドールを反則ギリギリのタックルで突き飛ばしながら一位を取る。他のドールは回避するのに精いっぱいだし、回避でタイムロスするから最後の最後で追い付けない。私はいつも逃げを選択し追い付かれる前にゴールする作戦だけど、逃げ切れず、最後は回避を選択してゴール前で差されてしまう。


 レイエルさんの使用する推進エンジンは市販されていない特殊な仕様みたいで、スタートが遅い代わりに最大速度が私とは桁違いだった。


 いつも負け越している私でも、ファーストクラスに上がる前はそれなりに期待されていて、レイエルさんと並んで短距離レース界の歴史を新たに刻む双翼の片割れとまで呼ばれていた。だけど、蓋を開けてみれば結果は私の惨敗続き。“時代が違えば最強だった”“製造された年を間違えた”とまで嘲笑されるほどに、私への評価はどんどん落ちていった。


『どうせ今回もレイエルが勝つ』


 当たり前のように勝利を重ねるレイエルさんには呆れとも捉えられる掛け声がある。今ではレイエルさんの勝利より、彼女が何機のスカイドールを落すのか賭けられるほど。私とレイエルさんの配当なんか悲惨なもので、二番人気なのに大穴と言われたレースは悲しくて過去最低の十位でゴールした。


 負け続けて、もうファンの罵倒の声すら聞こえなくなった私だけど、それでも勝ちたい気持ちは潰えていない。もう負けるのはイヤ、慰めの声を聞くのはもうイヤなの!


 ハレーお姉ちゃんもヨギリお姉ちゃんも、自分だけの感情、信念を持ってレースに挑んだ。私だって勝利への強い信念を持ってレースに挑んでいるけど、レイエルさんとの機体スペックの差がそれを許してくれない。私の全力ではレイエルさんに届かない、その現実は科学的創造物である私の意志では覆ることはない。


「もう、勝てないのかな……」


 上弦の月が昇る空を見上げ、新居の部屋の窓際で独りごちる。充電装置と一体化したドール用ベッドと衣装の収まったタンス、申し訳程度の姿見があるだけの殺風景な部屋に誰も答えてくれる人はいない。


 もうお父様の部屋に忍び込んでも、部屋の主が返ってくることは二度とない。


 空に近い部屋の中で、私の孤独が始まった。







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