夢が叶わなかったおかげで、夢が叶ったお話☆
わたしはトラック運転手になりたかったのです。
小学生の卒業文集に「作家になりたい」と書いたけれど、中学生になっても高校生になっても小説はさっぱり書けませんでした。大人になってからも何度か書こうとしたのですけれど、ぜんぜん書けませんでした。
作家になりたいという子どもの頃の夢に見切りをつけて、現実を見ることにしました。そしたらある日、一目ぼれをしたのです! 暑い夏の日に福岡空港のそばをドライブしていたら、銀色でピカピカ光るタンク車の後ろについた。太陽の光を鏡のようにはね返して、圧倒的な存在感を放っていました! カッコイイ! このタンク車は何を運んでいるんだろう!?
信号待ちですぐ後ろに停車すると、積載している液体の種類が書いてありました。「航空燃料」です。くううぅぅ! 見た目もカッコイイけれど、積んでるモノもカッコイイ! わたし、航空燃料を運ぶ人になりたい! どうやったらなれるんだろう!?
いろいろ調べてみると、いくつかのことがわかりました。タンク車を運転するためには大型トラックの免許が必要なこと、航空燃料を取り扱うためには危険物取扱者の資格が必要なことです。わかった! がんばる!!
運転がヘタなわたしですけれど一念発起して自動車教習所へ通いはじめました! 当時はトラック運転手に女性は少なかったので、先生たちは興味津々です。「どうして大型免許を?」「航空燃料を運ぶ人になりたいのです!」新しい先生が来るたびに、この会話を繰り返しました。
無事に(ほんとはぜんぜん無事じゃありませんでしたが)大型車の免許をゲットしました! つぎは危険物取扱者の資格です! 化学も法規もニガテですけれど、あのピカピカの車に乗るためなら頑張る! 一所懸命にお勉強をして、一発で合格しました! やったぁ~!!
免許や資格のお勉強と同時進行でいろいろな方に「航空燃料を運ぶ人になりたい。どうしたらいいだろうか?」聞いてまわりました。当時はまだネットが一般的でなかったので、知っている人に聞くしか方法がなかった。そういえば航空燃料の会社にメールで運転手になる方法を聞いてみたけど、お返事は返ってきませんでした。いま思えば航空燃料を作っている会社じゃなくて、運んでいる会社に聞くべきでした。昔から行動がナナメ上だったらしい……。
知り合いの(というか、道で会った運転手さんに突撃して聞いたりしてた)トラック運転手さんたちいわく、いきなり危険物を運べることはないらしい。もしかしたらあるのかもしれないけれど、まずは小さなトラックから初めて、大きなトラックやタンク車へレベルアップするのが一般的らしい。そして大きなトラックを運転できるようになってから、やっと危険物を運べるようになるらしい。わかりました! まずトラックの運転手さんになります!
ハローワークへ行って「トラックの運転手さんになりたいです! お仕事を紹介してください!」そうお願いしました。職員さんは「運送会社の事務なら……」と言ってくださったのですけれど、ちがいます! わたしが目指しているのは運転手さんです!
なんとか紹介してもらって、わたしは張り切って面接へ行きました! 運送会社の偉いさんたちは部屋にわたしが入ってきた瞬間「え……?」と言いました。
偉い:え……? うちはトラックの運転手を募集しているのですが……。
ソウ:はい! トラックの運転手さんになりたいです!
偉い:すみません。うちの会社、女性トイレとか更衣室がないんです。もしあなたを採用すると、施設から準備しないといけない。申し訳ありませんが、今回のお話はなかったことに……。
そうかぁ! 運送業界は女性の活躍が遅れているのかぁ! またハローワークへ行きます。女性を募集している会社さんでお願いします! すると幸運なことに新規で女性の運転手を募集している会社がありました! どうやら政府の女性活躍推進というお達しを実現するため、わざわざ女性を募集しているらしい! なんて良いタイミング! やったぁ~! 喜び勇んで張り切って行くと、また偉いさんたちが言いました。
偉い:え……?
ソウ:女性のトラック運転手を募集していると聞きました! 運転手さんになりたいです♪
偉い:……はぁ。
ソウ:女性です♪ お願いします♪
偉い:……えぇっとですね、今回たしかに女性を募集しました。
ソウ:はい♪
偉い:女性を2人採用する予定です。
ソウ:はい♪
偉い:でも我が社が募集しているのは……。
ソウ:なんでしょう?
偉い:我が社が募集しているのは……、
もっと逞しいというか、ガッチリというか、どすこい体型の力強い女性なんです……。なんならおっさんに見える女性が最適なんですが……。
なんてこったい! 外見でハネられた! 当時は身長165cmで体重42kg(今は58kg)、完全なやせ型でした。でもわたし、60kg(今はムリ!)の荷物を平気で運んでいました! 体力的に問題はありません!
偉い:申し訳ないが、希望と違うので……。もっと線が太い方がいいです。
ちきしょう! そんな理由で不採用とは!! ムキイイイイ!! また振り出しに戻る。でもあきらめないぞ!
自力で運送会社の社長さんと知り合いになり、運転手になりたいと訴えました。お願いです! 雇ってください!
社長:男でも女でもいいんやけど……。
ソウ:お願いします!
社長:でもソウさんはムリ。
ソウ:どうしてですか!?
社長:なんつーか、ソウさんは線が細い。
またかよ!! これね! めっちゃ言われるんですよ! 胴体はゴン太なのに、手足が細いらしい。そしてバカなので頭が小さいので、顔がちっちゃいらしいんですよ! ゆえに見えてる部分は細く見えるらしい! 本体はめっちゃ太いっちゅーの! ズボン買いに行くたびにウエストを測ってくれる店員さんが「えっっっ!?」って驚くくらい太いっちゅーの! ウエスト80cmくらいありますから!! 食い下がりましたが受けいれてもらえず、しおしおと帰ります。まず雇ってほしいよなぁ~! 見えてるとこだけで断られたくないよ!
その後もしつこくハローワークへ通った結果、ありえない好待遇の募集がありました! 郵便局のお手紙を運ぶお仕事です! 積荷作業は別の業者さんがするので力仕事はゼロ! 運転だけなので男女問わずお仕事ができる! しかも今回は男女1名ずつの募集です! 今度こそ決めてやるぜ!!
そして面接の日を迎えました! 本社は車で2時間くらいかかる場所です。でも勤務地は近くなので大丈夫!! ヨイショヨイショと運転して行ったら、たくさんの男性がいました。女性はわたし一人だけ! やったあああああ! 採用確実!! 面接は一人ずつだったのでニコニコして待ちます。男性たちが先に終わって、一番最後がわたしでした。後は出社日を決めるだけだぜ!
呼ばれて部屋へ入ると、部長さんがいらっしゃいました。ワイシャツとネクタイに作業着、きちんと折り目のついたスラックスと革靴。運送会社の偉いさんの典型的な服装です。
ソウ:よろしくお願いします!
部長:…………。
なんか空気が重い……。女性を募集していて応募したのは私だけだから、私が採用でしょう??
部長:遠方から来ていただいて申し訳ないのですが、今回女性の採用は見送らせていただく方向で……。
ソウ:どうしてですか!? わたし、重たい荷物も持てます!
部長:荷物はリフトで別の人が積むので、力は必要ないです。
ソウ:ずっと無事故無違反です! ゴールドカードです!
部長:それは素晴らしいのですが……。
ソウ:どうしてダメなんですか!? 理由を教えてください!
理由に納得するまで絶対に帰らんぞ!! 目を吊り上げたわたしを見て、部長さんがため息をつきました。
部長:ソウさん、あなたね…………、
あなた、うちの娘に似てるんだわ。
ソウ:はああ!? それとこれと何の関係があるんですか!?
部長:今日は女性を採用する予定だった。だからソウさんを採用するはずだったんよ。でもソウさん、うちの娘にソックリなんよ……。
ソウ:だから何の関係があるんですか!?
部長:可愛い娘に、こんなきつい仕事はさせられん。ソウさんが娘なら、もっと別の仕事をすすめる。だから今回はなかったことに……。
ソウ:意味わからんのですが!!
部長:この仕事は、いろいろ大変なことがあるんよ……。悪いことは言わんから、帰りなさい。
決定権はこの部長が持っているらしい。この方がダメだと言ったらダメらしい……。ダメか……(涙)。わかりました。帰ります……(涙)。
お辞儀をして部屋を出ようとしたわたしを部長さんが呼び止めました。
部長:あ、ソウさん!
ソウ:なんでしょうか!?(もしかして気が変わった!? 雇ってくださる!?)
部長:……ソウさん……、
そろそろ暗くなるし帰りの道は渋滞してるから、気を付けて帰りなさいよ。
完全に父親の心境やんけええええええええええええ!!!!!! 採用されて運転手になったら暗いとか渋滞とか言ってられん仕事なのに、おもっきし親心が炸裂しとるやんけえええええええええ!!!!
そういうわけで私の「トラック運転手になりたい!!」という夢は終わりを迎えました(涙)。そしてこの夢が叶わなかったおかげで、ずうっと後になって「作家になりたい」という夢が叶いました。運転手さんになったら書くヒマなんて無かったと思います。何が幸いするかわからんもんです(苦笑)。
だから今は夢が叶わなくても、ガッカリなさらないでください。回りまわって思わぬ幸運が舞い込むのは、わたしが保証します☆
あの時は面接に落ちてガッカリしたけれど、おかげでネタになりました♪ そしてエッセイに書くことができました♪
みなさんの夢が叶いますように☆