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40 ほうかい

 投票時間が終了すると、悪魔様は何も言わずに帰っていった。

 俺たちを元居た場所に返してくれるサービスとかはないらしい。


 全然納得できそうにない理由で俺を殺そうとしてくれた奴らと、あんまり一緒に居たくないんだけどな……。

 かと言って一人で出歩けば、何かにつけて人狼だと疑われそうな気がする。


 さっきまでの議論を思い返す限り、「俺がチャラ男を殺した可能性が高いなら、もうこれ以上は人を殺せないのだから、一人で出歩いても問題ないだろう」とか言っても、聞き入れてもらえない感じがするのだ。


 ちなみに、俺が人狼であること前提で論理を展開している相手に対して、俺からの説得はあまり効果がないことは悲しい思い出――じゃなくて、有意義な思い出の中で実証済みだったりする。


 そう、友人をつくることは出来なかったが、ロジカルシンキングとクリティカルシンキングと呼ばれる技術は確かに向上したのだから、あの思い出は俺の人生にとってプラスであった。ということは、良い思い出に違いないのだ。


 こうして座ったままあれこれ考えていても仕方がないので、自由になった体で窓辺に向かい、体を伸ばすことに。

 窓の外は、相変わらず真っ暗だった。

 ロッジの中もそんなに変わらないけども……。


 というのも、ロッジの中は光源になるものがテーブルの上に並べられた蝋燭くらいしかないため、けっこう暗いのである。


 テーブルに座ったままでは、振り子時計の時刻を読むことすらできないほどで、時間を確認したければ、わざわざ蝋燭を持って行く必要があった。

 チャラ男が自分の席で死んでいたというのなら、振り子時計と自分の席を何度も行き来していただろうことは想像に難くない。


 俺ならば時計の近くに椅子を置いて蝋燭を持って待機するだろうが、チャラ男の席に置かれている蝋燭が、かなりテーブルの端に寄せて置かれていることからも、おおよそ間違いないと思われる。


 チャラ男が蝋燭を持とうとした、あるいは手に持っていた瞬間が狙われたのだとしたら、スイッチを押す暇がなかったことも頷ける。


 つまり、チャラ男は不意打ちで死んだ……というわけか。

 女神様の発言を真とするならだけど。


 そこはリナウンスに票を入れてくれた女神様だ。

 彼女の言うことは真であるに違いない。


 ついでに人狼を特定できそうな手掛かりが他に残っていないか気になったので、チャラ男の席に向かおうとして――悪役令嬢に止められた。


「何をしようとしているの?」

「何って……証拠探し?」

「アナタ、自分が処刑されかけたという自覚がないのかしら? 人狼候補筆頭に動き回られると迷惑なのよ」


 暗に「おバカなの?」と、言われている気がするな。


 いやいや、人狼は二人いるんだぞ?

 俺はチャラ男殺しの容疑者ではあるが、もう一人の人狼はアクションを起こしていない状況だ。


 であれば、今のところはまだ全員に人狼の可能性があるということ。

 そんな中で、何故俺だけが動き回ることを禁止されなきゃならんのだ?

 そう思って、抗議する気満々で全員の顔色を窺ってみたところ、他のプレイヤーの反応はあまりよろしくない様子だった。


 アッシー君に至っては、青い顔で俺の方をちらちらと見てくる始末である。

 なんとも面倒臭い。


「はいはい……」


 なので、しょーがなく自分の席に戻ることに。

 すると俺が席に着いたのを見て、カップルの男が口を開いた。


「これからどうするか話し合おう……。もうこれ以上の死者は出しちゃいけない」

「……あらそう。なら私達は先にお暇させてもらうわ」


 自分たち三人には関係ないと言わんばかりの態度の悪役令嬢であったが、そんな彼女をカップルの男は睨みつけた。


「キョーヤの死に関して、君たちに一切の責がないとでも?」

「ええ。ないわ」


 対して、悪役令嬢は悪びれる様子はない。


「アナタたちの何の解決策にもなっていない脱出ごっこに付き合う気なんて、私にはもうないの。私達に対して責を問いたいのなら、これ以上死人を出さずにゲームを攻略する方法を見つけてからにしてくれない?」


 ……うわぁ、辛辣。


「脱出計画に無理があることくらい百も承知さ……。でも僕たちは、いや、少なくとも僕は何の希望もないまま平然としていられる君のような人間とは違うんだ」

「……希望ならあるじゃない。ゲームに勝てばいいのよ」


 それを聞いて、カップルの男はあからさまに表情を歪め、視線をテーブルに落とし――。


「そんなもの、希望なわけがあるかっ!」


 と、いきなり叫び出した。


「あんなバケモノの言うことがどうして信じられる⁉ 俺たちを掌の上で転がして、用が済んだら殺されるかもしれないとは思わないのか⁉ こんなふざけたゲームが……こんな理不尽がまかり通っていいわけがないだろう!」


 そうやって叫ぶ間、カップルの男はテーブルの一点を見つめたままだった。

 彼の叫びは、悪役令嬢に対してのものではなく、溜まりに溜まった現状への不満が爆発したモノのように聞こえる。


 まあ、言いたいことは分からんでもない。

 が、それを悪役令嬢に言ったところで無駄だろう。


 まともにゲームに臨むということは、人狼の襲撃による死を受け入れるということに等しいのだから。

 そして案の定、悪役令嬢の口からはため息が漏れた。


「はぁ……。そんなことを私に言われても困るのだけど?」

「そうかい。でも僕はキョーヤの意思を継がなきゃならないんだ。彼の死を無意味なものにしないためにも」

「そう……。なら、好きにすれば?」


 悪役令嬢はそう言って話を切り上げ、席を立とうとする。

 ところが、カップルの男はそれを許さなかった。


「――だからもう、これ以上勝手な行動は許せない」

「……どう許さないというのかしら?」


「雨篠君が言っていた通り、君と魚切さんの二人が人狼側の可能性はまだ残されている。だから、次に君たち二人のうちのどちらかが容疑者に含まれることがあった場合――君たちを二人とも処刑する」

「私たち二人を処刑する? それって、ここにいる全員が了承していることなのかしら? 全くそうは思えないのだけど?」


 悪役令嬢は俺たちをぐるりと見回してからそう言った。


 ……確かに総意ではないな。


 見た感じ、愛音君なんてカップルの男の豹変ぶりに驚いているくらいだし、かく言う俺だってどっちかと言うと悪役令嬢派だ。悪役令嬢たちが『輪を乱す原因』とするなら、俺だって『輪を乱す原因予備軍』になるわけだから、進んで彼女たちを処刑したいわけがない。


 というか、思い通りに行かなくなったら脅しをかける、というカップルの男の言動には、俺もちょっと引いていたりする。

 まるで、圧政を強いるどこぞの独裁者のようだ。


「そうだね。でも総意を得る必要はないはずだ。票数が過半数を越えれば処刑できるんだから……。だから、そのために全員を説得することを明言しよう。君たちがこれ以上勝手な真似をするというのならね」

「……」


 いや、そんな説得されたくないんだけど……。

 とりあえず怒りが収まったのか、冷静な口調で話しかけているあたりが逆に怖い。

 などと考えながら成り行きを見守っていると、不意にカップルの男と目が合った。


 途端、背筋に怖気が走った。


 その時、蝋燭の炎に照らされている男の瞳の奥に、追い詰められた人間特有の危うさを見た気がした。

 スイッチについ手が伸びそうになったのは、言うまでもない。


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