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38 ぜっせん

 とかなんとかやっていたら、カップルの男に変わって悪役令嬢がこの場を仕切り始めた。


「時間がもったいないわ、さっさと議論を始めましょう」

「何を議論するってんだ?」

「もちろん、人狼を探すに決まっているでしょう? そんなことも分からないのかしら?」

「はん……!」


 うーわ。なんてナチュラルな煽りだ。

 それを食らった元酔っ払いのオッサンの顔は、明らかにピキっている。

 が、悪役令嬢はそれを気にせずに続けた。


「キョウヤが死んだ時間は、どれくらいか分かるかしら?」


 その質問に答えたのは、またもや女神様だった。


「私が席を外したのは五分にも満たなかったと思います。そこから宇留部さんの死体を発見してスイッチを押すまでそう時間は経っていないはずなので、長く見積もっても十分以内の犯行かと……」

「十分以内ね……。ところで、キョウヤの死体はどこにあるの? どこにも見当たらないのだけど」

「分かりません。スイッチを押す前まで、宇留部さんの死体は自分の席にぐったりと凭れ掛かっていたはずです」


 チャラ男は自分の席で死んでいたのか。

 ロッジの中には武器は持ち込めないはずだから、殺害手段は絞殺か何かだったということなのだろうか?


「死体の状態は?」

「よく見ている時間はなかったので詳しくは覚えていませんが、喉のあたりを切られていたようで、血塗れだったのを覚えています」


「……喉を切られて、血塗れだった?」

「はい。そうです」


 ……人狼は、ロッジの中でも人を殺せるような凶器を持っているということなのか?

 それとも、別の場所でチャラ男を殺して、ロッジの中に運び入れた?

 そんな思考が頭の中を巡るも、結論は出ない。


 それに、すぐ真横にあるチャラ男が不在の椅子には、血痕が一切見られない。

 こんな状況では、情報が少なすぎるのである。

 まあ、死体が消えているんだし、血痕くらい消えてもおかしくないか……。


 原因はおそらく――。


「スイッチヲ押スト、死体ハ別ノ場所ニ送ラレル。死因ヲ詳シク知リタケレバ、スイッチヲ押ス前ニ調ベルコトダ」


 悪魔様の言葉を受けて、悪役令嬢は「そういうこと……」と呟いてから、俺たちをぐるりと見回した。


「全員、スイッチが押されるまでの十分間に何をしていたか教えなさい」


 当然のように命令してくる悪役令嬢に、オッサンが口を挟む。


「まずは自分たちの情報を先に出すのが筋だろうよ」

「うるさいわね……。私達三人は教会にいることを確認し合っているから白よ」


 ……確認し合っている?

 どんな風に?

 その部分の説明がないのが、なんか引っかかるな。


 と、悪役令嬢に視線で促される形で、カップルの男が答える。


「その時間、僕と唯、文岡さんの三人は互いに見合っている。キョウヤ殺しには関与できないよ」

「……ふうん」

「それに向峯さんと金城君はテントで眠っていたはず……。あとは――」


 俺だな。


「……その時間、俺はトイレに行っていた。アリバイはない」

「あらそう」


 そう言うと、悪役令嬢は俺と女神様を見た。


「なら、清水目さんとアナタを処刑すれば、人狼を一人は殺せるかしら?」


 ……はあ?

 何言ってんだコイツ?


 モブの俺はともかく女神様にまで疑いを向けるとあっては、反論するしかあるまい。

 ふう、と一息ついてから、口を開く。


「なぜ俺と美也子さんだけなんだ? 美也子さんが席を外していた場合でも、ロッジの前に残っていた二人が共に人狼のパターンをなぜ追わない?」

「確率が低いからよ」


「今は確率の話はしていない。最初から考慮に入れる気が無かったのではないか? と、言っているんだ」

「……なにが言いたいのかしら?」


「まるで、俺と美也子さんの二人をさっさと処刑したがっているようだ、と言っている。例えば、アンタが既に人狼を一人知っていた場合は、そこの女の子二人が共に人狼という推理が、頭から抜けていても不思議じゃないとは思わないか?」

「……私が人狼側の人間だとでも?」


「そういうパターンもあるかもな」

「酷い言いがかりね」

「そっちこそ」


 それから少しの間、悪役令嬢と睨み合う時間が続く。

 痺れを切らしたのか、悪役令嬢がふんと鼻を鳴らした。


「いいわ。なら私はアナタに一票投じることを予め宣言しておきましょう。どちらの言い分に分があるのかは、投票結果を見ればわかることよ」


 わざわざ自己申告までしてくれるのか。


「そこまでして俺を処刑したいのか? まだ人狼だと確定したわけでもないのに?」

「疑わしきは罰するべきよ。ただでさえ使えるスイッチの数には限りがあるんだもの」

「……」


 その理論で言うなら、お前は疑われたら自分の命を差し出すのか?

 全然そうは見えないけどな。


 それとも、疑われたとしてもそれを跳ね返せるだけの自信があるとか?

 もしそうだとすると、悪役令嬢がなんらかの役職持ちだ、という結論が導けてしまうわけだけど……さすがにこれは口に出すわけにもいくまい。


 というか、スイッチがもったいない理論で言うのなら、すでにスイッチを使ってしまっている女神様から処刑する方が、理に適ってないか?

 そんなことさせる気はないから、口にはしないけども。


 ちなみに、なぜ女神様がスイッチを使っていると判断できたのかと言えば、それは彼女の前からスイッチのベルが消えているからである。

 使用すると消える仕様のようだ。


 ……って、さっきから口に出来ないこと多すぎるだろ。

 役職持ってるかもしれない奴に絡まれるとか、とんでもなくやり辛い。


 しかも反論する時に、ポニテ女子たちにも人狼の可能性があるとかなんとか言ったせいで、彼女たちの視線がなんか厳しい気がするし。

 そう考えると、俺に三票入るのはすでに確定かもしれない。


 もし彼女たち三人の中に人狼がいない場合は、さらに追加で人狼の二人が票を合わせてくる可能性もある。

 その場合は合計五票だ。

 いや、人狼に与している可能性のあるプレイヤーも含めると七票か?


 最大で十二票あるうちの七票が、俺に入る可能性があるわけだ。

 これはもしかしなくてもマズい状況なのでは……?


 人狼に殺されるとか以前に、処刑されそうになっているとか笑えない。

 しかも、悪役令嬢の主張に誰も反論せず、じっと成り行きを見守っているこの場の雰囲気が超怖い。


 砂時計を見る限り、投票時間までは五分もなさそうだ。

 許される反論の機会はそう多くない。

 となると、どうにかして会話の主導権を奪わなければマズいかもしれないな。


 なんか視線を感じた気がしたので横を見てみると、不安そうにこっちを見ている愛音君と目が合った。


 可能性は低いかもしれないが、本当に俺が処刑されそうになれば、愛音君が俺を助けようとして占い師COしかねない気がする。

 お人好しのおバカだからな、愛音君は。


 仕方がない……。そんな未来が来ないように、うまいことやってみますかね。


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