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34 しにがみとらんでぶー

 話し合いを終え、ロッジでの見張り組に配属された俺は、愛音君を連れて持ち場を離れていた。


 もちろん許可は取ってあるし、持ち場を離れたと言っても視認できる範囲でだ。

 ちなみに、もう一人のスリーマンセルのメンバーはアッシー君である。

 そんなアッシー君から、ある程度の距離が離れたところで立ち止まると、愛音君の方から尋ねてきた。


「話したいことって何ですか、先輩?」


 声のトーンを落としてくれているあたりは気が利いている。

 ので、俺も見習って気持ちトーンを落として返すことに。


「単刀直入に言おう。もし愛音君が人狼なら、俺と組むつもりはないか?」

「はい……? 頭打ったんですか、先輩?」


 愛音君は一瞬キョトンとした後、ジト目でそんなことを言ってきた。

 やっぱり気が利いてないな。さっきのは気のせいだったようだ。


「俺は大まじめだ。時に愛音君や、このゲームの勝利条件を覚えているか?」

「それくらい分かりますよ。人狼を二人処刑すればいいんですよね?」


 村人陣営目線だけで見れば確かにそうだ。

 その言い方だと、愛音君は村人陣営で確定している気がしなくもないが……一応話しておくか、バディだし。


「村人目線ならそうだな。……なら、人狼陣営は?」

「……え? 村人の皆殺しでしたっけ?」


 いや、怖すぎるだろソレ。

 似たようなもんだろ、と言われればそれまでだったりするが。


「違う。数的同数になるまで村人陣営を殺すことだ」

「数的同数?」


「例えば……人狼が二人生き残っているのなら、村人陣営が二人になるまで殺せばいいし、人狼が一人の場合は――」

「村人陣営が一人になるまで殺せばいいんです?」


「まあ、そういうことだ。人狼ゲームでは比較的メジャーなルールの一つだな」

「そうなんですか……でも、あれ?」


 小首を傾げる愛音君。

 どうやら、彼女もおかしなことに気が付いたようである。

 流石は俺のバディだ――。


「先輩って、人狼ゲーム詳しいんですね……やったことあるんですか?」


 ええ……。そっち?

 何故に話を脱線させようとするのかね?

 その話の行き着く先は、悲しみしか待っていないというのに。


「そうだな。会話の練習をしようと思って、一時期やっていたな」

「そうですか……」


 なぜ、慈愛に満ちた目を向ける?

 今すぐやめれ。

 ……って、そうじゃない。


「話を戻すぞ? 他に気づいたことはないか?」

「他にですか? うーん……。負けた時に生き残っていた村人がどうなるのか、とかですかね?」


「――それだ」

「へ?」


「そこが詳しく明記されていないことが問題だ」

「どういう風にです?」


「詳しく明記しないことによって、潜在的な敵が生まれる可能性があるとは思わないか?」

「……ああ。さっきの先輩みたいに裏切ろうとする人が出ると?」

「まあ、そういうことだ……」


 半眼で尋ねてくる愛音君から、ついと目を逸らす。

 と、愛音君が自身の顎にちょんと指をあてた。


「でもそれって、負けた時に生き残っていた上で、ゲームが終わった後も無事なことが前提ですよね? ヴェルギリウスとかいう悪魔が負けた方の陣営を見逃すと?」

「その余地を残していること自体が、なんか臭くないか?」


「そうかもしれないですけど……」

「なら、仮にカップルがいたとしよう。そのうちのどっちかが人狼になったとして、二人とも生き残れる可能性を見出そうとした場合はどうなる?」


「……」

「もちろん、カップルという関係でなくても構わない。誰かと生き残るために最善を尽くすというのなら、人狼に与することも選択肢に入って来るとは思わないか?」

「そうですね。………………これってそういう意味、なんですかね?」


 なぜ俺から顔を背けるんだね、愛音君や?

 おかげで、後半は何を言っているか全然聞き取れなかったぞ?


「というわけで、愛音君が人狼かどうか聞いてもいいか? ちなみに俺はただの村人だ。人狼用語で言う、いわゆる『素村』というやつだな」


 俺の言葉を聞いてか、愛音君が目をパチクリとさせた。


「先輩がただの村人、ですか。その呼び方だとあまり先輩に合ってない感じがしますね」

「……どういう意味だ?」

「いえ、こっちの話です」


 愛音君はそう言うと、「うーん」とこめかみに手を当てて悩むような仕草を見せた。

 そして、少し経ってからこくりと頷く。


「分かりました」


 ……改まった表情をしてどうしたんだ?

 もしかして俺の予想を裏切って、「実は私、人狼なんです」みたいな告白があったりするのか?


 そうだとしたら、俺を殺すのだけは勘弁してもらいたい。

 それ以外なら何でも受け入れる所存だ。


「私、占い師です」

「うん?」

「ですから、私、占い師です」


 いや、二度も言わんでも分かるわ。


 どうやって自分の役職を把握したのかとか、役職の能力をどうやって行使するのかとか聞きたいことは山ほどあるが、今はそんなことどうでもいい。

 そうじゃなくて、俺は愛音君の役職が何かなんて聞いてない。


 というか、その情報はできれば知りたくなかったわ。

 『占い師』なんて、真っ先に命を狙われる役職じゃないか。


 人狼が占い師を騙る世界線なら生き残れるチャンスはあるだろうが、それはゲームでの話になる。

 それが現実になった今、占い師を騙る人狼なんて、自ら死にに行くようなモノだ。


 なぜなら、いざとなれば「占い師だ」と名乗り出た二人を両方とも処刑するだけで、必ず人狼が一人殺せてしまうのだから。


 俺以外のプレイヤーに、罪のない占い師もろとも人狼を処刑できるのか、という問題はあるにはあるがそれは別の問題だ。

 このゲームのルール下では基本的に占い師の騙りは起きにくいと見ていいだろう。


 対して、人狼による騙りが起きない世界線では、ほぼ必ず占い師は殺される。

 愛音君がなったのはそんな役職だ。


 なんという貧乏くじを引いているんだね、君は?

 そんな危ない役職を引いた愛音君と、モブで素村な俺じゃあ全くもって釣り合わない。


 というか、出来れば近くにいたくない。

 かと言って、知ってしまったからには見捨てるのも違う。


 そうして、どのように立ち回れば愛音君が生き残れるかと頭を悩ませていると、とうの愛音君に話し掛けられた。


「一緒に頑張りましょうね、ライト先輩?」

「ああ……」


 今の俺には、君が死神に見えるけどな。


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