30 がっしょくきん
ちょっとだけ寄り道をしてからロッジへ。
ロッジに着くと、焚火の前には女神様の他にもカップルの男と女の姿があった。
また焚火の前に三人セットか……。
何で三人なのか気にはなるが、考えるのはやっぱり後まわしで。
なんかさっきから、脳みその中のテーブルに積ん読している気分だな。
気になって買っては見るけど、後で読もう読もうと思っているうちに忘れるアレだ。
紙媒体の本ならまだしも、電子書籍ともなると買ったことすら忘れてしまうので、もはやどうにもならない。そこにアルコールによる追い打ちがかかればどうなるかなんて、説明する必要もないだろう。
つまりはそう言うことだ。
そんなことよりもとりあえず――
「水を貰ってもいいですか?」
「え、ええ……どうぞ」
女神様はそう言うと、またもや苦笑を浮かべながら、手近にあった竹の筒を差し出してくださった。
……なぜに苦笑なんでしょうか?
もしかして俺、またなんかやらかしたのか?
酔っぱらってた時のことは、ほとんど覚えていなかったので、差し出された竹の筒を恐縮しつつ受け取る。
「ありがとうございます」
「いいえ……お気になさらず」
そんな短いやり取りをしている間も、もちろん女神様の目は直視できなかった。
粗相をしていないかどうか、あとで愛音君に聞いてみよう。
「それじゃ、ロッジの方で休んでます」
なんとなく居心地が悪かったので、一言断りを入れて立ち去ることに。
すると、立ち去る途中でカップルの男の方に声をかけられた。
「雨篠君にも話しておきたいことがあるので、ロッジで休まれるなら、そのまましばらくロッジに居て頂けるとありがたいです」
似たようなことをチャラ男にも言われたばっかりだ。
……律義な奴らだな。
というより、神経質になっていると言うべきなのかもしれない。
「ああ、わかった」
そう言い残して、ロッジに入る。
中にいたのはアッシー君一人だけだった。
目が合った途端に、スッと逸らされる。
俺はそれに構うことなく入り口近くの席に座って、ちびちびと水を飲むことにした。
しばらくの間、無言の時間が続く。
ちょうど頭痛が収まってきたので、テーブルの上に置かれていた本を手に取って開いてみた。
本の中身は、この島の植物について書かれているようだ。
食べられるか否かが図解と共に描かれていたりしたが、果物の類は愛音君がコンプリートしているはずなので、もはや必要がない。
他に書かれていたのは、毒性の強さくらいのものだった。
パラパラとめくって流し読みしてみても、食べて死ぬほどの強い毒性があるモノは無いようである。
これを読めば、安心して果物を食べられる……かもしれない。
たとえ毒があっても弱毒だから大丈夫。
もしそんなことを考えたのだとしたら、愛音君が無警戒に果物を平らげていたことにも納得がいくというもの。
とはいえ、俺に同じ真似ができるかと言われれば、否といえる。
訳の分からない異世界果物の毒がたとえ弱毒であろうと、薬物相互作用についての検証はされていないし、本に書かれてもいない。
つまり、食べ合わせで毒になるものがある、という可能性は残されている。
安心して全てを口にできるわけがないのだ。
だから、『花蓮さん』とやらが愛音君に果物を勧めていたことに対しては、やはり警戒心を持っておくべきだろう。
……あと、愛音君の体調についても。
ただし、愛音君の体調に問題ない場合には、一つだけ明らかになるものがある。
それは――この島に『未知の毒薬』になりうるものが存在しないということだ。
デスゲームをしようという割には、やっぱりフェアな印象が拭えない。
言い換えるならば、毒薬を使用した自殺すら許さないということなのだろうけど。
まあ、それ以前の問題として、愛音君が二日酔いで体調を崩していたらどうやって見分けるんだ、という疑念はあるにはあるが……。
「あのうわばみにそれはないか」
「うわばみって誰のことですか、ライト先輩?」
「……」
振り向いたら、俺を見下ろす愛音君と目が合った。
「……元気そうでなによりだ、愛音君」
そう口にしてみるも、返ってきたのはジト目だった。
「ホントにもう……」
「心配していたのは本当だぞ? もうゲームは始まっているんだからな」
この返しはどうやら正解だったようで、愛音君のジト目はすぐに治まった。
「そうですか」
とだけ言うと、愛音君は俺の隣に座って本を読み始める。
本の表紙を見るに、恋愛小説らしかった。
ふう、危ない危ない、またデリカシーがないとかなんとか小言を貰うところだった。
……ところで、なんで俺はこんな言い訳してるんだろうな?
不思議なことだ。




