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28 かるぺ・でぃえむ

 そんな話し合いが終わった後は、再びお気に入りのTシャツを再び犠牲にして、果物を持って帰ることに。


 結んだりなんなりしたせいで、しわくちゃになっているTシャツを抱え、愛音君に続いてロッジに入る。


 中にいるのは、またもや酔っ払いのオッサン一人だけ。

 ポニテ女子のグループはもうどこかに出かけているようだ。


 北の森ですれ違ったりもしなかったし、焚火の所で火の番をしていたのは女神様ではなく、カップルの女だけだった。それらを加味するに、ポニテ女子たちは水を汲みに川にでも行っているのかもしれない。


 となると、チャラ男達が戻って来るまで暇になる。

 なら他にすることもないし、本でも読んで待ってるか。


 俺はテーブルに近づいて、果物が詰まった服の袋、略して『服袋』をテーブルの上にドンと置いた。


 さっさと文明人の格好に戻りたいので、愛音君に軽く手伝ってもらいながら、服袋の中身をテーブルの上に広げていく。

 服袋の中身は、半分くらいがラテボだ。


 すると、俺が服袋から瓢箪のようなものを取りだした途端、酔っ払いのオッサンが反応した。


「おめえ、飲めるクチか?」

「そうだけど?」


「そうか。なら、一緒に飲もうや」

「……オーケー」


 暇つぶしといったら、本を読む以外には酒を飲むことと話すことくらいしかない。

 となれば、誘いを断る理由が特になかった。

 ので、オッサンの隣の席に行って、服の中の果物を広げることに。


 すると、オッサンの視線が俺の隣を捉えた。


「嬢ちゃんも飲めるクチか?」

「はい。私……こう見えて結構飲めますよ?」


 こう見えて、ってどう見えるんだ?

 今のところ、甘党爆食い女王にしか見えないが?

 というより、君まだ大学一年生じゃなかったか?


 そう呟いたら、愛音君にニッコリと微笑まれた。

 超怖い。


「それじゃあ、早速飲んじゃいましょうか!」


 ニコニコ顔の愛音君が隣に座って、コップに使っていた殻をお猪口代わりに、瓢箪の中身を注いでいく。

 そして、なみなみと酒らしき液体を注いだコップを俺に向かって突き出してきた。


「はいどうぞ、ライト先輩」

「お、おお……」


 愛音君はまだニコニコしている。

 が、目の奥は笑っていない。


 もしかして、ポニテ女子とゆるふわちゃんに言った冗談のことを、まだ根に持っていたりするのか?

 分からない。俺には分からないぞ、愛音君や?


 ただし、愛音君が怒っていることくらいは察せるので、おそるおそるコップを受け取ることに。

 受け取った瞬間、表面張力が限界を迎え、テーブルの上に果汁が零れた。


「おっとと」


 急いで口をつけ、こくりとひと口。

 次いで口の中に日本酒のような、馴染みのある味が広がった。


 デンプンが糖化し、アルコール発酵したあの味だ。

 だが、辛い。

 アルコールの度数が思っていたより高かった。


 一気飲みは、ちょっと遠慮したい。

 そう思ってコップを置いたら、再びなみなみと注がれた。


「お酌は任せて下さいね。最後まで付き合いますから」

「……最後って?」


「もちろん、先輩が酔い潰れるまでですよ?」

「……」


 コイツさては、瓢箪の果汁がアルコール度数高いの知ってたな⁉


 恐ろしい。


 どれくらい恐ろしいかというと、愛音君がテーブルに零れた瓢箪の果汁を、俺のTシャツで拭いているのがどうでもよくなるくらいには恐ろしい。

 が、そんな俺の気も知らずオッサンが陽気な声をかけてきた。


「はっは、羨ましいじゃねえか! やっぱ酒は女と飲むに限るわな!」


 ……お?

 つまりは、オッサンも愛音君にお酌されたいと?


 そういうことなら、ぜひどうぞ。

 愛音君の怒りが収まるまでお願いします。

 がしかし、そういったことは流石に口には出来ないので、目力で訴えてみる。


 と、オッサンが何か神妙な顔で頷いた。

 まさか、俺の願いが通じたのか……?

 さすがは人生の先輩だ。


「わかってるって。そう心配せんでも、嬢ちゃんに酌を頼んだりしねえよ」


 酔っ払いのオッサンはそう言うと、ニッと笑ってみせる。

 そして、瓢箪に口をつけ豪快に喉を鳴らした。


 ……はあ?


 というかあれか?

 わざわざ瓢箪に口付けて飲んで見せたのは、「コップを使う気がないから、愛音君の酌なんて必要ないぜ」ってことなのか?


 ……なんにも分かってねーじゃねーか⁉


 酔っ払いなんかに過度な期待をした俺がバカだった。

 やっぱり、酔っ払いはどこまで行っても酔っ払いだ。


 思考能力なんてあって無いようなものだし、一言で言ってしまえばう○ちである。

 そう、正しく思考できる状態を自ら放棄する人間など、う○ちと言って差し支えない。


 ならば、それをわかった上で俺はなぜう○ちと呼称している存在にわざわざ成り下がろうとしているのか?

 それはもちろん……思考を放棄することがこの上なく楽だからだ。

 酒を嗜んで日が浅い俺が何を言っているんだと思うだろうが、そうなのだ。


 酔いに任せて思考を手放し、人間の脳に元来備わっている忘却機能に身を任せる。

 そうすれば、明日の不安さえも忘却の彼方に追いやることが出来るのだから。


 もちろん、それは一時的なものでしかないけども。

 今だけは、デスゲームの不安を忘れておきたかった。


 だって、そうしないと眠れない気がしたから。


 ――さて、そうと決まれば、明日のことは明日の自分に委ねてしまおうじゃないか。

 せっかく愛音君から、「罰として飲め」という大義名分も頂いていることだしな。


 きっと未来の自分は、今の自分を絶対にう○ちだと断じるに違いない。

 けどまあ、そんな未来の自分からの誹りは甘んじて受けるとしよう。

 酒飲み仲間もいることだし、飲まなきゃ損ということで。


「じゃあ……乾杯」


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