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27 ぎんこう

 そんなやり取りが終わったあたりで、ポニテ女子たちのグループが食事を取りに戻って来たので、一緒に食事を取ることに。


 ちなみに、ポニテ女子グループの今のメンバーは、ポニテ女子とゆるふわちゃん、そして女神様の三人だ。

 そしてもちろん、俺は女神様とはまともに顔を合わせられないので、会話は全て愛音君に任せることにする。


 ポニテ女子の話によれば、俺たちは果物の回収を手伝っていたので、食べていいらしい。

 しかしそれも、この一食で最後にして欲しいとのこと。

 チャラ男が言うには、次からは愛音君共々、各自で食料を回収して欲しいのだとか。


 どこに食料を保管すればいいんだよ?

 とは思ったが、自由を認められている手前、俺にとやかく言うような権利はない。


 なので、昼食後は愛音君と一緒に北の森に向かうことになった。

 もちろん晩御飯の確保のためである。

 晩とはいっても、日が昇ったままだけれども。


「しかし、実験作業を禁止されてしまうと何もすることがないな……」


 森の中を歩いている間、特にすることもなかったのでそう呟いてみれば、即座に返事が返ってきた。


「実験作業ですか? 先輩のは軽挙妄動の間違いでしょう?」


 こやつ、いいおる。

 だがな、愛音君や。結果良ければすべて良しという言葉があるように、たとえ軽挙であろうとも最終的に結果がついてくればモーマンタイなのだよ。

 それはそれとして……。


「ところで、回収した果物は俺の分も愛音君に管理してもらっていいか?」

「ええ。どうしてです? 自分の分は自分のテントに置いといてくださいよ。ただでさえテント小っちゃいんですから」


 いや、愛音君の方が俺より小っちゃいんだから、場所にはそんなに困らんだろう?

 とは思ったが、問題はそこじゃない。


「俺の所にあっても、盗まれたらどうしようもないからな」

「盗むって誰が……?」


 と言いかけたところで、愛音君が何か思いついたらしく、「あっ」という声を漏らす。


「もしかして、人狼ですか?」

「まあ、そうだな」


 人狼からすれば、村人たちに集団行動をされ続けると分が悪くなるはずだ。

 となれば、何かしらの分断策というものを取って来るはず。


 その一つとして簡単なのが、水や食べ物を奪うこと。

 カップルの男が言っていた平和協定の考えに人狼が賛同すればその限りではないが、おそらくそれはないだろう。


 そう考える理由は、『占い師』という役職の存在にある。

 ここで仮に、チャラ男グループの考えに人狼が賛同し、人を殺さないとする。

 そして何日か時間が経ち、崖の調査も終えたとしよう。


 さらにその時点で『占い師』が人狼を全て特定していた場合、どうなるだろうか?

 圧倒的マイノリティーである人狼が、絶対に処刑されないという保障は?


 そんなもん――あるわけない。


 極限状態で命が危険にさらされて、恐怖に晒され続けるのが嫌、殺されるのが嫌、疑うのが嫌、疑われるのが嫌、明日の食料の心配をするのが嫌、あれも嫌、これも嫌。

 でも、十三人のうち二人だけを殺せば、解放される。

 二人が生贄になるだけで、十一人の命が救われる。


 助かる。

 楽になれる。


 しかも、人狼に対して直接手を下す必要もない。

 だって、投票するだけで殺せてしまうから。

 そうすれば、人を殺す罪の意識さえも十一等分にできる。


 もしかしたら、それ以上に罪の意識は少ないかもしれない。

 だって悪いのは全て悪魔なのだから――と。


 そうして、自分の罪すらも誰かのせいにできてしまう。

 状況のせいにできてしまう。


 そうすれば、自分の行為すらも正当化できる。

 それだけじゃない。

 処刑した人狼の二人を『尊い犠牲』と言い換えれば、罪悪感までも薄れさせることが可能なのだ。


 そうすれば、心すらもが楽になる。

 比例して、誘惑が強くなる。

 ――そんな想像が、簡単に出来てしまう。


 だってそれは、歴史が証明しているから。

 ああ、楽過ぎて……気持ちが悪い。


 まるで、AIが導き出した生存者の最大数を確保するための解のような。

 その解を絶対の答えだと錯覚して起こる、ミルグラムの実験のような。

 そんな気持ちの悪さに、体がぞわぞわする。


 まだ人狼になるか決まっていない俺ですら、ちょっと考えただけでこうなのだ。

 人狼になった人間がどう考えるかなんて分かりゃしない。

 というか、俺なら絶対に従わない。


 カップルの男が他人をコントロールしようとした結果、四人が離反したように。

 人狼をコントロールしようとした結果がどうなるかなんて考えたくもない。


 ゆえに、改めて考えてみてもチャラ男グループの考えに賛同できない。

 となれば、自衛するしかないだろう。

 食料確保もその一つである。


 そこで愛音君だ。


 なに、本当に愛音君のテントで預かってもらうわけじゃない。

 それじゃただ場所を移動しただけで、リスクはあまり変わらないからな。

 コミュニケーション能力が高く、人が良い彼女だからこそ出来ることがあるのだ。


「ということで、愛音君にはチャラ男と交渉して、果物の預け入れをしてきて欲しい」

「……預け入れ? 銀行みたいにですか?」


 チャラ男呼びはどうやらスルーされたようだ。

 別に気にすることでもないので、話を続ける。


「……そうだ。今から果物を余分に収穫するから、預けてきてくれ」

「別に構いませんけど、預けてどうするんです? 預けたものが人狼に盗まれる可能性だってありますよね?」


「盗まれたらもちろん、返してもらうさ……チャラ男にな」

「返してもらうって、どうやって?」


「もちろん。夜だろうがなんだろうが、北の森に行って果物を収穫しに行ってもらう」

「でもそれって……。そこまでして返してくれますかね?」


「別に返してくれなくてもいいぞ?」

「……はい?」


 すると、横を歩く愛音君が困惑した顔でこっちを見た。

 言ってる意味が分からないと、その眼が訴えてくる。

 なので、勿体をつけずに続けることに。


「返す気が無い場合は、投票の時に問答無用でチャラ男に票を入れる」

「ええ……」

「愛音君もやると良い。そうすれば、二票分が死に票になって人狼が得をすることになるだろう? それを告知しておけば、人狼が俺たちを殺すメリットが減るし、狙われ難くなるかもしれん」


 もちろん、チャラ男が人狼でないことが前提だけども。


「うわぁ……」


 愛音君になぜかドン引きされた。

 さらにジト目のおまけつきである。


 なのに、結局のところ愛音君は俺の頼みを聞いてくれるらしく、チャラ男と交渉するのは構わないとのこと。


 ……なんか納得いかん。


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