21 えんともふぁじー
ちょっと短いです。
「じゃあ、行きましょうか」
そう言って立ち上がった愛音君に向かって、俺も立ち上がりながら返す。
「熱源を確保してからだけどな」
「ああ、そうでした……。でも、どうやって教会まで火を持って行くんです?」
「簡易的な松明を作るつもりだ」
「そうですか。私はそれを手伝えばいいんですね?」
「そうだな。それと……」
「それと、なんです?」
「松明が出来たら、火種を貰って来てもらえるとありがたい」
「ええー。そのくらい自分でやってくださいよ。先輩が言い出しっぺなんですから」
「頼む、俺は焚火の近くに行きたくないんだ」
「……?」
不思議そうにこっちを見てくる愛音君から、俺は目を逸らした。
「美也子さんに合わせる顔がない……」
「あー」
なんか、滅茶苦茶どうでもいいみたいな反応をされた気がする。
それは酷くないか、愛音君や?
ピュアな男心が傷ついているんだぞ?
もうちょっといたわって欲しい。
ということで、テントのある広場まで戻り、近くに生えていた松の木から枯れた枝を回収する。
さらに北の森でいい感じのツタを回収して、枝をラッパ状に束ねてその根元を縛る。
ラッパの先端にテキトーに木片をぶっ挿せば完成だ。
「じゃあ、愛音君……頼んだ」
「はいはい」
後輩がなんか冷たい。
が、残念なことに冷たくされる理由を探して見たものの、思いつかなかったりする。
愛音君や、俺は言葉にしてくれないと多分わからないからな?
察してくれとか言われても、そんな超高等技術は使えないぞ?
そんな冷たい後輩こと愛音君は、焚火の前にいる女神様と二言三言交わすと、松明に火を移して、すぐに小走りで戻ってきた。
「はい、どうぞ」
……やっぱり、いつもとあまり変わらないかもしれん。
愛音君から手渡された松明を片手に、教会へ。
開きっ放しの扉から教会の中に入った俺たちは、あの巨大な壁画の左にあった扉を開き、壁の燭台に火をつけながら階段を下った。
しばらく歩くと、通路に出た。
石造りの地下通路は薄暗く、カビ臭い。
というか、なんか肌寒い。
天井には蜘蛛の巣があったりするが、巣の主の姿はない。
その代わりというかなんというか、大きめのゲジゲジがたくさん壁を這っている。
実にキモい。
「うわぁ……」
ゲジを見た途端、愛音君が俺の左腕に体を寄せた。
愛音君は、虫がダメなのか。
俺からすれば、ラテボの緑色の種も同じくらいキモいんだけども。
だからと言って、ゲジが食えるかと言ったらそれはまた話が違う。
そう言えば、ゲジを食ってるディーチューバとかいたような気がするな……。
チャラ男も食べたことあるのかね?
「持って帰ってみるか」
「えぇ……」
メッチャ嫌な顔をされた。
「いや、別に愛音君への嫌がらせとかではなく、食用としてだな……」
「食べるつもりですか⁉ コレを……?」
信じられないモノを見たような顔を俺に向けるでない、早とちりめ。
「食べるのは俺じゃない、チャラ男だ」
「……チャラ男って誰です?」
「誰って、ディーチューバーのやつ?」
「キョーヤさんですね」
「そいつが食べるって言ったら、食べさせてやろうと思って」
「食べるわけないじゃないですか、バカなんですか?」
バカとはなんだ、バカとは。
俺はバカじゃないので、きっと愛音君は遠回しに昆虫食家をディスっているに違いない。
愛音君や、君はいま世界の昆虫食家たちを敵に回したぞ、大丈夫か?
まあ、そこまで嫌がるなら断念せざるを得まい。
寒さとは違う理由で震えているっぽい愛音君を従えて、さらに通路の奥へ。
そんなにピッタリくっつかれると歩き辛くてしゃーない。
かといって、怖がっている愛音君に向かって「離れろ」とか、言えるわけない。
しょうがないので、周囲を警戒しながら進む愛音君に歩幅を合わせ、ゆっくりと通路を進むことにしたのだった。




