20 さいどきっく
楽しい朝食の時間は失われた。
そう、愛音君という悪魔の手によって。
「誰が悪魔ですか。自業自得でしょうに」
「……」
くっ……。
言い返せない。
というか、またもや声が漏れていたのか。
冷静にならねば。
しかし、いかんな。
冷静になろうとすればするほど、余計なことばかり考えてしまう。
だって仕方ないじゃないか……。
さっき挨拶した時、女神様が困った顔をしていた理由が分かってしまったんだから。
それに何より、俺が荒唐無稽だと断じていた『他の惑星に飛ばされて知的生命体から干渉を受けた』とかいう論の一部に、信憑性が出てきてしまったのだから。
そうなると何が問題か?
それはもちろん、この世界が仮想現実であるという論までもが同時に信憑性を帯びてくるということが問題だ。
が、俺は悪魔様の魔法で精神がコントロールされたものだと信じたい。
というか、そう信じることにしよう。そうしよう。
……いざとなれば、確認する術がなくもないし。
確認できたからなんだ、とも思うからやる気なんて一切ないけれども。
しかし愛音君は気づいているのだろうか?
この実験結果によって、チャラ男達の無人島脱出計画が絶対に無理だと判明してしまったという事実に。
たとえ島から脱出できたとしても、寝てしまったら最後、知らない間に海にちゃぽんして、そのまま溺死してしまうだろうことに。
……気づいていないんだろうな。
横を見れば、見た目がブドウのナニカを皮ごと食っていた愛音君が、目を瞑って「すっぱ~」とか言っている。
それをじっと眺めていたら、目が合った。
「何ですか、先輩?」
「……なんでもない」
「……?」
こてん、と首を傾げる仕草がなんかちょっとおバカだったので、教える気が失せてしまった。
まあ愛音君の場合は、デスゲームをしなきゃいけなくなったらやる腹が決まっているみたいだし、別にいいか。
問題は愛音君以外のプレイヤーである。
チャラ男達に話すのが順番的には妥当だろうが、俺の言っていることをどこまで信じてもらえるかは分からない上に、もし「悪魔様の力は無人島の中までしか効果がない」とか言われたら、それに反論する術なんてないし、する気もない。
というか、俺が人狼になってしまった時のことを考えると、その場合はチャラ男達を見捨てた方がいいという可能性すらある。
四人も勝手に死んでくれるとか、むしろありがたい。
が、チャラ男以外に話す場合は、無人島に閉じ込められていることを話す必要が出てきそうなので、非常に面倒臭い。
しかも、そうした場合はチャラ男達のグループから反感を買う可能性も高いのだ。
……。
やめた。
なんで俺が、チャラ男達が蒔いた種の心配をせにゃならんのか?
考えてみたら、そんな義理はまったくなかった。
それに、チャラ男からは自由に動いていいと許可を貰っているじゃないか。
ならばチャラ男の指示通り、俺の好きに動くことにしよう。
好きに動いた結果、チャラ男達には何もしないというだけだ。
となると、こんな素敵な免罪符をくれたチャラ男には感謝せねばなるまい。
鼻レモンの刑は無しにしてやろう。
そんなことを考えていたあたりで、愛音君が朝食を終えたようだ。
満足気な顔をしながら、ハンドタオルで口元を拭いている。
が、一応確認のために尋ねておくことにした。
「食べ終わったのか?」
「はい。ライト先輩はもう食べないんですか?」
「大丈夫だ。それに、甘いものを摂りすぎると胃がもたれるからな」
そう言ったら心配そうな顔をされた。
別に、今胃がもたれているわけじゃないぞ?
経験則からそう言っているだけだ。
むしろ、細身のキミの体のどこにあの量の果物が入っていったのか分からんし、なんで甘いものを食べまくっても胃がもたれないのか不思議でならない。
過去の俺の失敗は、ブログか何かで「フルーツは体に良いから食べ過ぎても大丈夫」とか書いていたのを真に受けたのが悪かったのだろうけども、もしかしたらコイツなら平気なのかもしれないな。
「それよりもだ。食べ終わったんなら、調査に行くぞ」
「へ? どこにです?」
……そんなの決まっているじゃないか。
「教会の地下だ」




