19 はーとぶれいく
というか、果物で塩分が取れるとか、至れり尽くせりすぎないか?
俺達に都合が良いというかなんというか。
まさに、悪魔様さまさまだ。
これ以外にもビタミンが取れる果物とかあったりするのかね?
……隣の怖いもの知らずにでも聞いてみるか。
「愛音君や?」
「ふぁい? なんです?」
「変わった味の果物とかなかったか?」
「んっく……。変わった味、ですか?」
「例えば、牛肉の味みたいな?」
「えーと? ないですね。というか、なんですかそのキモい味の果物」
見た目だけで言ったら、ラテボだって相当キモいぞ?
愛音君や、君の感覚は一体どうなっているんだね?
「でも……急にどうしたんですか、先輩?」
「なにがだ?」
「お肉味の果物とか言い出して」
「そうだな……なんとなく、気になっただけだ」
「へぇーそうですか」
「そういうわけだ。決して他意はない」
「ふーん?」
なんだね、その顔は?
私、わかってますよ。みたいな顔をされても困るわ。
多分だけど、絶対何も分かってないだろ、君。
鼻の頭にデコピンしてやろうかな。
とか考えていたら、愛音君が真面目な顔で「そういえば」と、話を切り出した。
「ライト先輩……私、キョーヤさんのグループを抜けることにしたんです」
「……そうか」
名前で言われても誰のことだか分からん。
が、愛音君がチャラ男のグループに属していたことは覚えている。
ということは、チャラ男達とは別行動することにしたわけだな。
意外だ。
愛音君はコミュニティの輪というものを大切にする人種で、一言で言ってしまえば世渡りが上手いタイプなのだ。
それが、自分から輪を外れるようなことをするとは、まったくもって想像できんかった。
というか、何故それをわざわざ俺に報告する?
「正確に言うとちょっと違うんですけど……。キョーヤさん達には先輩と組むことを了承してもらったので、結果的に抜けることになったと言いますか」
「んん? つまりあれか? 方針の違いとかで仲違いしたわけではないと?」
「……なんで仲違いしなくちゃいけないんです?」
「いやだって、デスゲームを受け入れようとしないヤツらと、受け入れているヤツは相容れないじゃないか」
「私は別にデスゲームを受け入れているわけではありませんよ?」
「なら、なぜ?」
「受け入れてはいませんけれど……だからと言って、デスゲームに参加せざるを得ない状況になった時に、何もできないままでいたくなかっただけです」
「……」
「それに、角が立たないように理由を説明してきたので、別段仲が悪くなったというわけでもありませんよ」
ふむ?
つまり、まだチャラ男達のコミュニティを放棄したわけではないのか。
愛音君は俺が思っていたよりも強かだったようだな。
肝が据わっているというか、図太いというか。
やっぱり、単なるおバカではなかったか。
「ちなみに、どんな説明をしたのか参考までに聞いても?」
そういった社交スキルは俺が苦手とするところだし、ちょうどいい。
そう思って尋ねてみたところ、歯切れの悪い答えが返ってきた。
「ああー」
しかも、愛音君に視線を合わせたら逸らされた。
「どうした?」
「……秘密です」
「なぜ?」
「秘密ったら秘密なんです」
よくわからんが、教える気はないらしい。
まあ、そこまで気になるわけでもないし、いいか。
「なら、愛音君は俺とバディを組んで具体的に何をするんだ?」
「え?」
「何を驚いているんだね?」
「別に何も?」
「……んん?」
「ただ先輩について行くだけですよ?」
「俺達に割り振られる仕事とかは?」
「ありませんよ。その代わりに、自分のことは自分でやってくれ、だそうです」
「なんと……」
素晴らしい。
素晴らしすぎる。
どうやったら、そんな満点の条件を獲得できるんだ?
もしやあれか?
さっき言っていた『秘密』とやらに何か隠されていたりするのか?
そうなると、やっぱり気になって来るな。
まあ、愛音君の態度からして聞き出せなさそうではあるけれども。
しかし……バディか。
バディになったからには、情報の共有とかもちゃんとしておくべきだろう。
ということで、俺は『テントの外で眠るとどうなるのか』を愛音君に説明することにした。
というより、実験結果を誰かに話しておきたかっただけとも言う。
すると、実験結果を聞いた愛音君が、何か納得いったというように頷いた。
「ああ……。あれってそういうことだったんですね」
んん?
「そういうことだった、とは?」
「ライト先輩、パンツ一枚で広場を徘徊してましたよ?」
「……」
はあ?
パンイチで徘徊だ?
そんなバカな⁉
「そんなの記憶にないぞ……⁉」
「夢遊病みたいな感じでしたよ。呼びかけにも答えてくれませんでしたし」
つまり、俺はワープしてテントに戻って来ていたわけじゃないと?
というか君、俺が聞かなかったら話題にもしなかったんじゃないのか?
「……愛音君は、それを見て不思議に思わなかったのかね?」
「え? なんでです?」
なぜ意外そうな顔をする?
俺が意味もなくパンイチで徘徊するような人間だと思われていることがビックリだ。
そんな非常識なことするわけないだろう。
直ちに俺の認識を改めてくれたまえ。
そう言ってみたら、なんか面倒臭そうな顔をされた。
かと思えば、愛音君は何か思い出したらしく、頬に指をあてる仕草を見せる。
「そういえば……先輩のパンイチ姿、清水目さんにも見られていましたよ」
「……清水目?」
「美也子さんです」
「⁉」
女神様に見られてしまった?
パンイチで徘徊する姿を?
……。
…………。
………………もう俺、テント、帰る。
 




